第19話 報われる瞬間
植草は緊張していた。他の中堅以下の課員も皆緊張していた。
質問?詰問?を受けようとしているのはさくらだが、皆一様に意識が高いため自分は答えられるのか、と身構えていたのだった。
課長の久保田は少し間をおいて、
「そんなに時間があるわけでもないからな。日銀の金融政策と今後のスタンスを説明してみろ」
新井はほっとした。さくらとの日頃のやり取りでその問いには十分対応出来るとわかったからだ。
さくらは特に緊張することなく、力みも無い状態で説明を始めた。
「現在の日銀の金融政策は、長短金利操作付き量的質的金融緩和です。国債やETFなど量的にも質的にも範囲を拡げ大量に資金を市場に放出することにより景気を下支えしようとする政策です。現在の黒田総裁は4月8日に任期切れを迎え、元審議委員だった植田氏が後任です。マーケットでは植田新体制になってからの金融政策の方向性に関心がよせられており、中でもイールドカーブコントロールに対する修正が・・・」
「もういい」
さくらが説明をしていると、突然久保田が遮った。最初のフレーズを聞いただけで詳しく状況把握が出来ていることは明白で、さくらの説明は予想を超えていたからだ。久保田にとってはさくらのNS商事担当にこれ以上横やりを入れるわけにはいかなくなった、それを確認するだけになってしまったのだ。
その後、ミーティングが短めに終わると、新井はさくらを読んだ。小さな声で
「東山、よくやった。今後も気を抜かず勉強していくんだぞ」
さくらは、少しジーンときていた。
私、生きてる
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