第18話 試される
翌日もさくらはいつもと同じく7時前には本店営業部に姿を見せ、そして誰に指示されたわけでもないが、同じ課の全てデスクの拭き掃除を7時過ぎには終えていた。
そして、新聞の気になった箇所を切り抜きファイルに閉じ込めていく。
「最近はペーパーベースの情報とweb上でしか得られない情報の量が拮抗してきたような気がするなぁ」
7時15分までは独り言を言い放題なのだ。
その時刻から7時30分までの間に本店営業部の精鋭達は見事に皆出社する。
7時30分から課長以上の役席会議が営業部の隣にある会議室で行われ、7時45分前後から課単位でのミーティングが始まる、という具合に朝のスケジュールは概ねかたまっていた。
今日もいつものように課のミーティングが始まった。
課長の久保田はNS商事の担当をさくらに差し戻すという苦渋の結論を余儀なくされたことで心身が腐っていた。それまでも多少自己主張が強いと思われる言動はあったものの、昨日の結論が出たことが、どうやらトリガーを引いたようで、意地悪な性格が全面に押し出ている様子だった。
案の定、ミーティングが始まって直ぐに
「昨日、樋口部長からNS商事の担当は課長である私に一任するとご指示があり、私の判断で東山に担当させることにした。ただしそれには前提条件を設定したつもりだ。」
さくらを擁護してきた新井課長代理、植草主任は怪訝な表情で、なんだよ、また蒸し返すのか、と全く同じことを思いながら久保田の言葉を聞いていた。
「新井、お前確は東山の教育係、面倒やサポートを引き受けると宣言していたよな?当然、NS商事の担当者として恥ずかしくないレベルに東山を引き上げる、或いは日々教育をするという意味だな。まぁ、それ以外あり得ないからな。」
久保田は、新井にくさびを打ち、言葉を繋げた。
「東山、金融市場についていくつか質問するがお客様にお答えするつもりで回答しろ」
さくらは自信はあったが、この嫌味なギスギス感が我慢できず、教育係の新井の顔を見た。
新井は小さく首を振り、そして小さく頷いた。
彼ははさくらがいかに努力して頑張ってきたか知っていたし、今も毎日頑張っていることを知っていた。
少しも心配することなく
「嫌がることはない、課長の質問に答えしなさい」
というメッセージを表現してみせたのだった。
久保田が質問する側であるのだから拷問のようなものだが、新井はさくらの資質を見抜いていた為、全く心配することはなかった。
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