第14話 決定権者
他のお客様とのやり取りが終わる間際だったさくらは、取り継いでくれた先輩の顔を見ながら右人差し指を電話機へ向け、保留に入れて下さい、と合図をした。
前のお客様との会話を終えたさくらは受話器を置くことなく赤く点滅する保留のボタンを押した。
「山本社長、おはよう御座います。」
「うちの鈴木が朝から騒いでてね、東山さんが担当から外れる、と。異動か何かですか。」
「いいえ、異動ではりません。正式には先日一緒に訪問させて頂いた課長の久保田と再度訪問させて頂き、お伝えさせて頂きたいのですが、私は未だ知識不足で、、、」
さくらが異動ではないことを確認した山本は、
「そうなんだ、異動じゃないんだ。それはよかった。それじゃ、また。」
と、機嫌良くそう言うと受話器を置いたのだった。
山本がさくらの説明を途中で遮ったのには理由があった。
ピンと来たというか、上司からの指示で担当者が変更になるのだと確信したのだ。
大企業であるNS商事の銀行担当者はそれなりの役職にあることが通常なのだが、さくらは新人の一年生。
だが、山本は一生懸命に頑張るさくらを気に入っていた。
山本の動きは早く、3分も経たないうちに今度は課長の久保田の電話が鳴ったのだ。
「あ、はい。課長の久保田でございます。山本社長、おはようございます。
先日はご多忙の中ありがとうございました。」
久保田はさくらのところに山本社長から電話が入っていたことを認識していなかった。
朝の一番忙しい時間帯で皆自分の仕事でいっぱいいっぱいのはずなのだが、久保田が急に大きな挨拶と共に椅子から立ち上がった為、課長代理の新井を筆頭に課員の多くが手を止めその様子を眺めていた。
さくらは、山本社長から自分に電話があったことを報告する前に久保田課長にも電話が入ってしまった為、なにか不味いような気がしていた。
久保田は立ち上がったまま、受話器を握りしめて
「直々にお電話を頂き恐縮です、、、」
「あー、久保田さんにお尋ねしたいことがありましてお電話させて頂きました。」
山本社長は穏やかに、しかしどこか重みのある口調で続けた。
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