第12話 気持ちを圧し殺す

久保田は東山が発した先輩への気遣いの声を逃さず


「本人も納得しているようじゃないか。朝の貴重な時間だ。仕事にとりかかれ。」



と、課長として課員への業務命令を出した。東山は、久保田課長へは視線を送らず、新井と植草に一礼をして自席へと戻った。



新井と植草はどこか不満気な表情のまま自席へ重い足取りで戻ったが、新井は自席の戻ると大きな声で


「俺が東山をサポートする。今日から教育係を請け負う。」


と課長の了承も得ず、課員へ向けて決意表明した。


東山は即応し


「はい、ありがとうございます。頑張ります。」


当然、課長の久保田は一部始終を見ていたが、何も言わず黙認するしかなかった。


早速、新井課長代理が東山を読んで現在の米国の経済環境について東山に質問した。


「米国は雇用統計や物価等各指標が経済の回復を示しているが・・・米国の長期金利の動向や方向性についてどう考えているか言ってみろ。」


東山は


「米国中央銀行であるFRBは、デフレ下での日本の量的緩和を相当に研究していたと言われています。一時長期金利は1.70%を上回り、円安の要因にもなりましたが、テーパリング開始観測を先延ばしすることで長期金利を抑え込み、1.60%前後での推移を実現しています。景気回復の度合いを見極める時間帯を設けていると考えられ・・・」


植草も含め、先輩課員が唸った。


東山は、満足そうに


「経験は確かに足りりないかもしれないが、それを補って余りある努力をしているのがよく分かるよ。一緒に頑張っていこう。」



課長の久保田は無関心を装うのが精一杯であり気不味さがスーツから滲み出ているようだった。


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