第11話 互いの思い遣り

普段は非常に大人しく調和を重んじる植草が

新井の声に続けて


「私もおかしいと思います。東山の毎日の努力を隣で見ている私には今回の決定には異議があります。」




すると久保田は


「お前ら東山の話聞こえてただろ。樋口部長の決定だぞ。」


と、高圧気味に反撃した。



久保田は課長である為、当然、課全体の成績に責任を負っているのと同時に、プレイイングマネージャーであるが故に個人の成績にも拘る必要があったのだ。



早期にもう一段上を目指すには個人的な成績にインパクトが欲しいと常々思っていたところだった。



そう、NS商事との取引担当になることはインパクト以上のものを手中にすることを意味することくらい誰でも想像できた。



それに、今回の担当者変更には大義名分がある。


東山さくらの知識不足、提案能力不足だ。




久保田は頭の中でゆっくり整理したあと、もう一度


「樋口部長の決定だぞ。部長に逆らうのか。」


と、この議論の幕引きを狙った。




しかし、新井はすかさず


「樋口部長は久保田課長の意向に沿うように、と東山に指示を出しました。課長として担当者変更など極めて理不尽な意向をお持ちであるのであれば撤回すべきです。」


新井は明らかに久保田の上を行っていた。


さくらは無意識のまま、涙を一つこぼした。


頑張ればこんなにいいことがあるんだ、と先輩達に感謝しつつ


「久保田課長のご意向ですから、私、また頑張ります。」



すっきりとした笑顔を新井、植草、そして久保田に見せた。

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