第10話 信念の人

「えっ、ウソだろ」


植草がうっかり声を出した。



事情を知る課員は皆同じ思いだったが、聞こえていないフリをするのが会社人として精一杯の自己防衛だった。




皆が動きを止め、固まった空気の中、ただ一人だけスクッと立ち上がり、課長席に向かう奴がいた。




新井だ。


さくらが新井の動きを捉えた時は既に課長の久保田、さくら、そして新井の3人がトライアングルの陣容で対峙する位置取りになっていた。




さくらは新井に視線を向け


「ダメっ、ダメっ」


と、メッセージを送り、


なんで?部長の決定には口を挟まないと言ったのに本当に昇進出来なくなっちゃう


さくらの中は既に自分の担当問題より新井の処遇に対する心配で一杯になっていた。



そんなさくらの思いとは裏腹に、新井は何の躊躇いもなく


「久保田課長、おかしいですよ。」



植草は半分涙ぐんで


「新井さん」


と小さな声で呟きながら自席を立った。


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