第6話 涙が溢れる

課長代理の新井は、冷静にしかしこれまでとは違う厳しい口調で声を張った。




「久保田課長、詭弁が過ぎます。頑張ってる部下をサポートして育てるのがチームリーダーである課長の責務ではないですか。


部下の手柄を横取りしてまで自分の成績に拘るあなたの品格を疑います。」



響き渡った。二課だけではなく本店営業部の隅々まで。



二課の課員は固まったまま身動きが出来ずにいた。


課長の久保田は冷静さを装う為か、意識して小さめの声で


「新井君、何を言っているか分かっているのか。」


と、言いながら新井課長代理の靴のつま先から頭頂部までをゆっくりと視線で刺した。




新井もまた落ち着きはらって、小さな声で


「私の発言に不適切な箇所はないはずです。

問題にするのなら喜んで応じます。」



久保田もこれ以上大袈裟にすることは損だと判断したようで


「新井の意見は参考に預かっておく。今日のところはこの議論の結論は持ち越すことにする。しかし結論は課長である私が出す。」



そんな久保田の言い回しに新井は納得するはずもなく声を荒げた。


「もう一度言いますが、NS商事と取引が出来るのは東山のひたむきな努力があったからです。それを自分に扱い者変更する課長がどこにいるのですか。」



さくらが荒川の小さな支流に架かる橋の上で涙ぐんでいた頃社内での自身の立ち位置を顧みず、少し背伸びしながら頑張るさくらを、

守ろうとする新井の姿が本店営業部のそこにあった。

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