第3話 張り詰めた空気

「只今、戻りました。」


さくらはいつもと同じように、課長の久保田に挨拶し自席に腰を下ろした。




さくらは本店営業部第2部1課の12名の部隊に所属している。


新人はさくらだけである。




課長の久保田は本店営業部のエース的存在であり、


上層部からの信任も厚く、彼の言動は常に正当化される傾向にあった。




さくらが席に戻ると、課の雰囲気がやや張り詰めたものに変化した。




「なんだろう。」と空気の変化に気付き右隣りの先輩に


「植草主任、私が外出している間に何かありましたか。」と、小声で聞いてみた。




彼はさくらの方に視線を送ることもなく、電話の横にある伝言用メモを無言で


取ると小さな字で何かを素早く書いた。




そして立ち上がり際にそっとさくらに渡したのだ。


なんとなく、課長の久保田を警戒した行動だと感じたさくらは、


営業日報の表紙を課長の方に立て、そのブラインドを利用してメモを開いてみた。




「ここでは話せないから後で」と、記してあった。




何かあったんだ。




ん?




さくらは、課のナンバー2である課長代理の新井が居ないことに気付いた。


いつも仕事を終える19時前には全員が揃うことが通例になっているが


彼の席だけ空いていたのだ。




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