第2話 悲しい帰巣本能

黒色の営業カバンはいつしか動きを止めていた。


目的も無く走り出したさくらはいつしか歩を止め、


荒川の支流に架かる橋の上で水面の揺らぎを意味も無く眺めていた。




先ほど担当者変更を一方的に言い渡されたクライアントは実はライバル銀行の大手顧客なのだ。


さくらは勿論当初から分かっていたが、本店営業部に配属されて以来ずっと情報提供を続け、その熱心さが認められ取引をスタートする寸前まで辿り着くことが出来たのだった。




そして、今日の上席者面談を迎えたのだ。




悔しさでうっすら涙ぐんでいたさくらだが、水面の揺れに反射する光を見ながら


「頑張れば、頑張った分だけ、いいことがある。」


「頑張れば、頑張ったぶんだ・・・」




やっぱり、泣いてしまう。




一時間くらい橋の上で過ごしただろうか。


ようやく気持ちが落ち着き、どぼどぼと歩き出した。




さくらも立派な社会人になったのだろう。


帰巣本能とでもいうのだろうか、足の向く先は本社の本店営業部であった。




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