再来と自覚

 中学校を卒業する少し前……。

 今日は、受験した高校の合格通知発表の日だ。

 自分が受験した高校はかなりランクが高く、自分の中学からは来ている人は見かけなかった。ある一人を除けば……。

「えっと……自分の番号は……あった!」

 僕がこの高校を選んだ理由は、中学の人に会いたくなかったからだ。奏と話さなくなってあの時のようなことは無くなったが、未だに小さないじめはあった。そりゃあ同じ学校にいたくないって思うのは当然だ。

「あっ!おーい!」

 その時、遠くの方から知っている声が聞こえてきた。

「湊君!私合格したよ!」

 奏は、笑顔で僕の方に近づく。どうやら合格したことがとてもうれしいようだ。

 なぜ奏と一緒に同じ高校を受験したか、それは奏の作戦だった。

 奏は、僕と一緒の学校に行きたいと言った。そして、今の僕の状況を知っている彼女は、こんなことを言い出したのだ。

『誰も行かないような高校に二人で行こう』って……

 それから僕たちは物凄い猛勉強をした。僕も奏も、頭はいい方だったが、勉強することに越したことは無いからだ。

 そして、二人とも合格した。本当に良かった。

「ね、湊君はどうだった?」

「もちろん僕も合格したよ」

「良かった!同じ学校だね!」

「本当に良かった、肩の荷が下りた気分だよ」

「じゃあ、合格祝いにどっか遊びに行かない?」

「……大丈夫かな」

「大丈夫だよ!ほかの人が行かなそうなところに行けばいいんじゃない!」

「……そうだね、行こうか」

 僕たちは、合格祝いということで近くの公園に行った、理由は、ここでならゆっくり話せるかららしい

「最近お互い忙しかったし、こうしてゆっくり話してみたかったんだ」

「たしかに、ゆっくり話したことは無かったね」

「でしょ?それに……渡したいものもあったし」

「え?」

「はいこれ!」

 奏から、かわいらしい小包をもらった、開けてみると甘い香りが香ってくる。もしかしてチョコレートだろうか。

「奏、これは?」

「えへへ……明日バレンタインでしょ?明日には渡せなそうだから、今日渡すことにしたの」

「ありがとう奏!すごくうれしい……」

「どういたしまして!」

 こうして、お互い楽しい話をして、帰っていった。この時、僕の中にはまだ知らない、それでも嫌じゃない感情が確かに生まれていた。


◇ ◇ ◇


 合格発表の前日……

 私は、いわゆるバレンタインチョコレートを用意していた。

 バレンタイン当日は、渡せないと思ったから、前日に渡そうと準備している。こう見えて料理には自信がある方だから、失敗はなかった。こうしてチョコレートを作っていく私だったが、思った。これは本命チョコなのではないかと……。

 そう思ったとき、顔が赤くなるのを感じた。別に義理でもいいかと、でもそれは嫌だと思う私もいる。

 そもそも、どうしてチョコを作ろうと思ったのだろうか……そうだ、お世話になったからそのお返しと思ったからだ。

 でも……そろそろ自分に素直になってもいいかもしれない。ずっと前から感じていた、この胸にずっとあるこの思い。それは『恋』だ。私は彼に恋しているのだ。

 いつからこの思いがあったのかは分からない。けれど、自覚してしまえば簡単だった。だからこうやってチョコレートも作ったのだ。

 でも、しばらくは思いを伝えるつもりもない。友達というのも、実は意外と心地よいものだからだ。まぁ、恋人同士になりたいのももちろんあるけれども。

 まだ合格しているのかも分からないのに、高校で彼とどんな思い出を作っていこうか、そんなことを思いながら眠りについた。彼への思いを胸に抱きながら……。

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