状況説明
病院内にいる三十余名の患者達は全員が男性である。また、バリカンによって坊主頭にさせられ、衣服も皆同じものを着用している。このことから、肌の色、顔の形から見分けようと思えば出来るが、各人の見た目というものは大体同じになっている。
相貌心理学というものがあるように、性格は顔に出てくる。我々も人相の良し悪しで人を値踏みしてはいないだろうか、この人は実直そうだ、あの人は神経質そうだと。
過度な抑圧を受けた患者達の顔は、わずかに二種類しかない。暴君と奴隷、いじめっこといじめられっこのそれである。よって、患者達を一目見ただけで各人の力関係が分かってしまう。例えば、他の患者を散々踏みつけている若い患者は暴君の顔つき、書き置きを残した患者は奴隷の顔つきをしている。
前者には主に若い(強い)患者が当てはまる。眉間に皺が寄り、眉がつりあがっている。眼力が強く、常に空腹の肉食動物のように、ギラギラと輝いている。口角は真一文字に結ばれ、見るからに不満げと分かる。
後者には主に老いた(弱い)患者が当てはまる。彼らを端的に表すとするなら、呆けた顔ということだ。頬は弛緩し、目の焦点は合わず、口は僅かに開かれ、害意がないことを周りに示すためか、微笑みを浮かべている。
(若い、老いたと書いてあるが要は見た目が強そうか弱そうか、カーストの上位に君臨できるか否かということなので、老いた暴君などの例外は存在する)
とはいえ、この病院内では暴力は日常茶飯事であり、くじびきで「あたり」を引いた者には何をしてもいいというゲームが人気を博しているくらいであるから、ふとした拍子に暴君は奴隷に、奴隷は暴君になる。その際の顔つきの変わり様は目覚ましく、医院長はその様子を監視用モニターに収めている。多くの患者達のデータはとても多く、それらはすべてぎゅうぎゅう詰めに医院長室に収められている。
さて、前述した通り、病院内にいる三十余名の患者達は全員が男性で、顔つきも二種類しかないのだが、それでも彼らには性欲がある。「汚らわしい」として医院長は認めていないのだが、それでも彼らには性欲がある。過酷な環境が彼らの振る舞いを機械のようにしてしまっても、彼らは機械ではなく、性欲を持った人間である。彼らは顔つきが異なるものに惹かれる傾向にあるようで、暴君と暴君がカップルになるより、暴君と奴隷がカップルになる方が多いようだった。もちろん、彼らがすることはセックスではなく、折檻である。
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