状況説明
病院の立地について。詳細な県名については伏せておくが「何もない田舎のどこか」ということで、一日に二本しか出ないというバスを利用し、最寄りのバス停から車で更に一時間半走った場所にある。立地としては最低ではあるが、患者を隔離するために最低限必要な距離ということであろう。近隣住人に対する配慮を考えるとこれでも足りない可能性もある。とはいえ、この病院の存在が県民にもほとんど知られていないのだから、今のところクレームが出ているわけではない。「怪しい建物がある」という情報はあるのだが、所詮はうわさ話程度であり、懸念するほどでもない。
すなわち、この病院は外界との交流がほぼ断絶されている。患者が何をしようとも、患者に何をしようとも、それを関係者以外が知ることはない。食糧の運搬や設備の点検のため、年に何度か、田舎にはそぐわないトラックが数台走ることがあるくらいだ。全国各地をめぐる膨大な交通量に比べれば、数にすら含まれないだろう。それでも、まあ、どこかの記者がアングラな情報目当てについてくることもあるかもしれないのだが……今日、この病院は極めて順調に運営されている。
病院内にある混沌に比べ、その周りは穏やかな時間が流れている。病院から車で一時間半走った場所にある最寄りのバス停は小さな集落の中にあるのだが、そこにいる住民は全員が老人であり、全員が穏やかな顔をしている。昨日も今日も明日もすべてが同じ日であるかのように、全員が穏やかな顔をしている。同じ時間に起きて、同じものを食べ、同じ道を歩き、同じ人と同じ会話をし、同じ過ちをし、同じ時間に眠る。過去の中に彼らのすべてが埋まっていて、今の営みは単なる焼き直しを続けているに過ぎない。その行いは幸福感をもたらし、それが繰り返しであることに気付かないのだから、彼らの幸福は、よそが邪魔をしない限りずっと続くのだろう。大型のトラックが彼らの隣を通り抜けようとも、彼らは平和だなあ、平和ですねえと全員が穏やかな顔を浮かべて
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