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1月23日午前8時40分 60


視界が滲む。

彼女の顔を見ると、ヒビが入っている。

しばらくその光景に呆然としていた。


まさか。


「仕方無いか……」

そう言って深花はもう一度仮面を外した。


「仮面は2枚被っておくものよ………なんてね」


表れた顔は見覚えのあるものだった。

「………私の事、覚えてる?」


名前は思い出せない。

だがしかし、この女は。


「騙したのか」

「………そうだよ」

確実に、深花じゃない。


「………何故そんな事を」

「キミは他人に依存してるのに、拒絶するから……キミ自身だったら受け入れてくれる、そう思った」


「俺自身だと」

「そうだよ。

素顔をキレイな仮面で覆って、隠す。

だからあんなものを2つも付けて、キミの真似をしたの」


だから俺は、仮面を見て自らの顔を思い出したのか。

だから俺は、仮面を外したつもりが外されたのか。


「御鏡深花は存在しないのか」

「…………もし、もしも良かったらこれからは私と一緒に」

「深花が、いない」

「キミだって、結局誰かに依存しながらしか生きていけないでしょ……?」

「深花はどこだ」

「あれは虚像だよ…」


「やっと、やっと面白い奴に会えたと思ったら、

ふざけるな、俗物が!

モブの分際で馬鹿にしやがって!」

「まだそんなこと言っ」


消えろ



何度も何度も殴る内に、部屋には悲鳴が溢れた。


「や、やめて!………っ……やめ……てよ………」

「口を開くな」


その顔が歪んでいく度腹が立ち、更に殴った。


「あの仮面を………もう一度着けたら、キミは、また………私を」

「口を開くなと言っている」


しばらく殴り続け、少し気が落ち着いた。


「それは報いだ。

この俺を騙した」


「最初、に……………嘘付いたのは、キミ……でしょ?」

「殴られ足りないのか」

「………そっか。そうだね」


それが俺の言葉への応答でないのは明らかだった。

彼女は金色の懐中時計を取り出し、開いて、見つめている。


「ねえ君、どうするの?」

「何がだ」

「君が仮面無しで生きられると思う?」

瞳は虚ろであった。

「………」

「他人を、承認を欲して、薄っぺらい嘘を吐き続けて、それで自分の事も大好きで仕方無いから、鏡に依存した。

嬉しかった?自分に愛されて。

それで、今度は誰に認めてもらうの?」


もう一度殴ろうとしたが、

「残念ね」


出来なかった。

俺の右手が透けるように消えている。


「何故だ、何故」


「何となく解るでしょう?」


そう言われ、考えた。

「俺が誰にも認識されてないから…?」

「そうだね、それもある。

でもそれだけじゃない。


あなたが私を拒絶したから」


「…だから何だ」


「誰も仮面を外した君の事を知らない、分からない、興味がない。

君も誰とも関わろうとしない。

それだけじゃなく、自分の存在を肯定できない。

そしてそれらが死に等しいと君自身が認識してる。


それで、存在出来るはず無いじゃん」


「…………俺が自己を肯定してない?」


「うん。

だから、他人を求めて、他人に依存してたんだよ」


「だからって、消える訳無いだろ」


「消えるよ、だって君は…………モブだから」


「……何を言ってるんだよ?

俺が、俺がそんな訳無いだろ?」


「どうして、君に名前が無いか知ってる?」


「名前……俺は大神だ」


「NPCには、名字しか与えられないんだ」


「……………は?」


「君には名字しかないでしょ?」


何を言っているんだ、この女は。

俺の名前は…………


「気付かないのも仕方無いよ。

誰だって自分を正しく認識できない」


どうしてだ、何故こんな事が。

何故俺は今まで不思議に思わなかった。


俺には名前が無かった。


「脇役に名前は勿体無いからね。

余計な情報は削られる」


「………そんなはず無い、間違ってる」


「キミは消えてもいい存在だから、消えるんだ」


俺が消えてもいい………俺が、いらない?

そんな事有り得ない、あってはいけない。

俺は特別だ。

奴らとは違う。

俺は必要だ。

何で必要とされない。

こんなにも優れているのに。

素晴らしいのに。


必要とされたいのに。



「バカだなぁ……」


「」


「私のコト、受け入れてくれれば」


「」


「………結局私の事、覚えてないみたいだし」


「」


「嘘でも、あの時嬉しかったんだよ……?」


「」


「キミは優しかった。

救ってくれた」


「」


「だから、私もキミを助けようとしたんだ」


「」


「何度も」


「」


「何度も、何度も」


「」


「何度でも」


「」


「最後にはこんな醜い仮面まで着けたんだよ?」


「」


「素直にならなきゃダメって解ってたのに」


「」


「そしたら君は、馬鹿みたいに依存してくれて、それが嬉しくて、悲しくて」


「」


「だから、だから」


彼はこちらを見ていなかった。

今も、今までも。

私はこの男の事を忘れられないのだろう。

きっとこれからも。


愛と依存の違いを私は知らないけれど

あれは愛じゃなくて依存だったんだね。


愚かで浅ましい脇役だけど、それでも私を助けてくれたのはキミなんだ。


キミじゃなきゃダメなんだ。

ダメなのにな………


だから。

「キミが悪いんだよ………」


私からすれば、2枚目の仮面。

キミが溺れてくれた偽り。

もうこれでいいかとすら思えた温もり。


大神くんの両手は少しずつ薄く空に溶けていっていた。

最期に唇を重ねて、仮面をキミに押し付けた。


「…………う………」


塞がれた視界。

なのに、何かが見えた。

何か夢のような妄想。

ぐちゃぐちゃで、不自然。

正に夢だ。

ぼんやりと、俺と僕。

求めるのは名前。


今まで見たような、現実味を帯びた幻じゃなく。

そこにあるのは、俺の………

心か、願いか、欲望か。

夢か。

夢の中、夢視るために。


俺は眠った。


「おやすみなさい、大神くん」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「どういう事?」

「そのままさ。

ここは、もうすぐ失くなる俺の妄想だ」

「どうしてそう思うんだい?」

「思い出したんだよ」


この世界に来る前、正確には見る前に何があったのか。

時間が無いのも、支離滅裂なのも、所詮夢だからなのだろう。


「妄想………脳内世界ってやつだよ。

深花が俺に仮面を押し付けたお陰で、俺は俺でなくなり、別の何かになる。

何かは………いや、これも俺なんだ」

「?」

「気にしなくたっていいさ、お前はな」

「消えるだ消えないだ言われたら気にもなるさ」

「消えんのはお前じゃない、俺だ。

むしろお前は………」

「僕が?」

「いや、何でもない。

暫くしたら全部終わる、大丈夫だ」

「君は嘘が下手過ぎるよ」

「何を」

「泣いてる」


そう言われて初めて、自分が酷く汚い顔をしている事に気付いた。


「男に貸すハンカチは無いけど……でもその涙に僕が無関係じゃないのは、何となく解るんだ」


俺は自分が思っていたよりも余程美しい仮面を造り上げていたらしい。


「だから教えてくれ。

どうして君が消える?

どうして泣いてる?

どうして………いや、君を救うのが先だ」


「………く、はは、はははは」

「?」

「いや………何でもない、悪かったな」


どうして俺は自分の仮面に心配されてんだろうな。


「なあ深花」

「なに?」


「………二人で話したい。

出来るか?」


「いいよ」


深花は俺じゃない俺に近付いて、

「え、えっとななな何を」

「眼閉じて」

唇を重ねる。


刹那、奴の姿は消えていた。


「俺の妄想にすら関与出来るんだな、お前は」

「こんな力があっても、欲しいものは手に入らないけどね。

………ねえ、嫉妬した?」

艶を帯びた彼女の唇は、ただ美しかった。


「ああ、したよ」


「何で今更素直になるの」

「最後だからな」


「そっか」


その寂しそうな表情は本物のように俺には見えた。

自惚れだろうか。


「殴って悪かったな」


この世界を見る前の、最後の瞬間を謝罪する。


「ううん。

私も、キミを傷付けたから」

そうだ、俺はあの時傷付いたのか。

だから逆上してあんな事をしたんだ。


………ああ。

情けない。


「ありがとう、深花」


「キミはまだ私を、深花って呼ぶんだね」

「俺にとっては深花なんだよ、お前は」


一瞬こちらを嬉しそうに見たが、直ぐに悲しげな顔をした。

「……危うく騙されそうだったよ。

私の名前、覚えてないんだったね」

「気付かないで欲しかったんだがな」


「どうして嘘、吐いたの?」

「格好つけたかったんだよ」

「どうして」

「最後だからさ」


「……キミにまた騙される所だった」

「赦してくれるか?」

「絶対にやだ」


結局、彼女は誰なのか。

俺には分からない。


「………そうだな。

赦してくれなくても仕方無いな。

断罪されても、仕方無い」


「………もう、したよ。

キミを助けるのを諦めて、仮面を押し付けた。

仮面くんの方だけでも、生きてられるように」


「でもそんな事しなくても、そもそも俺は助からないんだろ?」


「うん。

正確には、助ける方法が有るのかもしれないけど、私には分からない。


結局、分からなかった」


「なあ、話をしないか」

「何を?」

「色々」


「いいよ、特別」

彼女は受け入れてくれた。

俺に残された時間の少なさに同情してくれたのだろうか。

有難かった。


「ありがとな…………じゃ、聞きたいことがたくさんあるんだ」

「私も言わなくちゃいけない事、沢山ある。

聞いて欲しい」

「俺はこの世界について、知らない事が多すぎる。

どうして俺は存在し続けられないのか。

仮面って何なのか。

お前は何なのか。


というか全部だ、全部分からない」


投げやりに言うと、彼女は苦笑する。

だが事実なのだから仕方無い。


「やっぱり、覚えてないんだ」

「覚えてない?

俺は知っているのか?」

「んーん、知らないよ。

知ってたのにね」


瞳を覗き込んでも、覗き込まれても、それでも分からない。

俺が何を知っていたのかなんて。


………もしも、俺だけが知っている事が有るとしたら。

消え失せる恐怖くらいだな、それは。


「一度、伝えたんだ。

そしたらキミは失くなっちゃったよ」

「詳しく」

「そのまんまだよ。

電車を途中で降りて、改札を抜けて、キミを世界の果てに案内した。」

「世界の果て?

初耳だが」

今更ファンタジックな名称に驚きはしない。

だが、電車に乗って行ったのは、ゲーセンだったはずだ。

この世界に来る、数時間前。

「そこでおいかけっこしたの覚えてない?」

「何してるんだお前は」

「キミも楽しそうだったよ?


………とにかく。

私はそこで、走り回ったりいちゃいちゃしたりしながらこの世界について説明したんだ」


「何でその時になって教えたんだ?

もっと早い段階でも遅い段階でもなく」

何故こんな重要な事を、今まで教えてくれなかったのか。

「いきなりそういう話して信じると思う?」

「………そうかもな」

「それに、そもそも伝える気は無かったんだ。

あんまり気分のいい話じゃないし。

でも仮面の件で、キミは更に世界を訝しんでいたから。


それとね。

焦ってたんだ」

焦る?

記録を辿る。

二度深花は泣いていた。

思い出すのはその事だ。

その時、彼女は何と言っていた?

「これ以上後回しにしたら、もうずっと伝えられないかも、って。


だから伝えた。

何もかも、全部。

私の知る限り。

そしたら」

彼女は月光にうつむいて、懐中時計を弄っていた。

「消えた、と。

だから泣いてたのか、お前は」

「………そっか、その事は覚えてるんだよね」

引っかかる一言だ。

それの意味する所を考える。


………もし、俺の考えている事が正しいのなら。

あまりにそれは残酷だ。


「お前はこの世界の仕組みを知ってるんだろ」

「所詮私の主観に過ぎない、といえばそこまでだけどね」

「それで構わないさ。


……答え合わせ、出来るか?」

驚いた顔をしている。


「………」

「俺たちが過ごしていた、理不尽なあれは………誰かの妄想だ」

「……どうして、そう思うの?」

「ここは、俺の妄想なんだろ?

同じように、あの世界もそうなんじゃないのか。


世界なんて、ただの妄想だ」


実感は未だ沸かない。

けれど、もしこの理屈を感じられてしまえば、酷く空しく思えるような気がした。


「……じゃあ私たちとその世界を考えた人………いえ、考えた存在は?」

「誰かの妄想、なのかもな」

「そう」

「違うのか?」

「……ううん。

答えは同じだよ」

「そうか」


彼女は立ち上がって、俺に身を預けた。


「全く酷い話だよね。

勝手にキミや私を生んで、消して。

キミが消える理由も、助けられない理由も分からない。


ごめんね。

キミのこと、結局助けられなかった。

その上傷付けた、酷いこと言った」


………謝罪するべきは俺なのに。


「謝るな。

悪いのは全部俺だ。

お前の言ったとおりだ。

消えても仕方無いクズだ。

あの時お前が言わなければ、俺は今も隠し続けてた」


泣きながら、震えている。


「3度も泣かせたのか、俺は…………いや、違うな。

もっと何度も、俺は泣かせたんだ」


残った片腕で、出来るだけ強く抱き締める。


「……………っ」


「60回………で良いのか?」

「…………もっとだよ」


彼女は文字通り、「やり直した」のだ。

今まで、何度も、俺が消える度。

よく見たあの酷い夢はきっと、前の周回での終わり。

懐中時計の白い針。

あれがループの回数を示しているとすれば。

それが深花にとってどういう事か。

………考えるまでもなかった。

どれだけ深花は苦しんだんだろう。

俺なんかの為に。

他人を見下しながら他人に依存するような愚者の為に。


「何で分かったの?」

「前の周回を、断片的に覚えていた。

そうとは気付かない内に。

その記憶に助けられたのかもな」


今もほんの少しずつ、自分が薄れていくのが分かる。

消えるのは怖いが、既に深花が泣いていた。

俺は耐えなきゃいけない。


「………おいかけっこは憶えてないのに?」

「い、痛い、やめろ!」

「ダメですむにってします」

こうして頬をつねられるのも、何だか懐かしい気持ちがする。


「………ふふ。

ありがと」

泣きながら笑っていた。


「残りのことも説明しなくっちゃね」

俺から少し離れ、軽く息を吸って吐いた。


「キミはずっと考えてた。

世界の仕組みについて、私に会うずっと前から」


深花に初めて会ったのは、苛立っていた夏の終わり。

俺にとってはあれが全ての始まりで。

彼女にとっては……どうなのだろう。

何が深花に、悪夢へ踏み込ませたのか。

繰り返させたのか。

そうまでして、俺は救われるべき存在なのか。

その回答が俺と違うから、今深花は泣いている。


始まりに何があったのか。

俺は思い出せそうにない。


「既に解けたはずの謎を、もう一度教えるね」

頷く。


「キミの推測通り、世界の外には世界、世界の内には世界があります。

箱の中に箱があるイメージだね」

「外を見た事があるのか?」

「うん、詳しくは後で話すよ。


幾重にも連なる箱のうち、私たちの住んでいたのは外側から13こ目。

12こ目の人たちの妄想。

幻のような日常。


………名を第拾参世界群、幻日」

「…………」

「何か反応してよ?」

「その名前はお前がつけたのか?」

「うん。

めっさカッコいいでしょ?」

「…………」

「何か反応してよ?」

「ならここは、第拾四世界か」

「んーん。

第拾肆世界群の1つだよ」

「…………」

「ちなみに肆は無理矢理よんって読むよん?

何か反応してよん?」

「…………」

「またスルーする?

まだスルーする?」

楽しそうな笑顔なのに、足りなかった。

どうにか声を出す。

「群ってのは何なんだ?」

「ああ、うん。それはね。

一つの箱に入ってる箱が一つじゃないからなんだ。

私たちがいた世界は、幻日の欠片の1つ」

成程。

とすると、学校の奴らもこんな世界を想像しているのだろうか。

或いは。

「一つの意識が生み出す世界は一つか?」

「二つ以上は少なくとも見た事ないや」

「ん………「見た事」か」

「それも後で説明するよ。

では次。

キミが消えた理由について」


「それは既に聞いたと思ったが。

自己の否定やら誰からも認識されない事、………お前を拒絶した事やらだったか」

「うん、そう言ったよ。


……ごめんね、実は理由なんて何一つ分かってないの」


しばらく、発言の意味が理解出来なかった。


「ついムカついて、推論を正論に仕立て上げたんだ。

キミを……傷付けたかったんだ」

わざわざ、そんな露悪的な表現をするのか。

俺に断罪する資格が無いと伝えたにも関わらず、それでも赦しを深花は求めていた。

「いいんだ」

なら俺は赦すべきだ。

「ん……」

頭を撫でる。

本当はこの資格も無いのだろう。

……違和感。

腕を深花から離す。

こちらの手も、先の方が薄れていた。


……焦っている暇は無い。

ポケットに手を突っ込む。


「まだ聞きたい事がある」

消えてしまう前に。

「何でお前は時を越えられる?

俺の夢に干渉出来る?

先程までの知識はどこから手に入れた?


………何故お前にはそんな事が出来て、俺はただの端役なんだ」

知った所で何になる訳ではない。

それでも知らないままではいられないのだ。

例え深花が苦しんでも。


「聞いても後悔しない?」

少し明るくなっていた表情が、また戻ってしまう。

「するだろうな」

「ごめん、バカなこと聞いた」

また酷く辛そうな顔をしている。

彼女はこんなにも脆かっただろうか?


………いや、そんな事を言えるほど、俺は彼女を知らない。

何故なら彼女は深花じゃないのだから。

何ヵ月も、お互いに仮面なんか被って。

そのまま解り合おうともせず、ただ依存だけして。

本当に愚かだ。

愚かだからこんな結末なのかもしれない。


「世の中にはね、選ばれたヒトとそうじゃないヒトがいる。

比喩でも慢心でもなく、事実として」


彼女の言葉は酷く抽象的だったのに、何故か納得してしまった。

腑に落ちる、という感覚に近い。


「慢心か。

お前は選ばれたんだな」

「うん。

誰が選んだのかも、何故選んだのかも分からない。

それでも私は特別だったんだ。


最初はこの世界がおかしいのに気付いただけだった。

最後には時空間まで操れるようになった」

口振りからするに、他にも色々出来るのかもしれない。

思えば、起きたらいきなり深花の家にいたし、今もこうして俺の夢に干渉している。


「それと名前。

私にはそれがある。

でも、他の誰にもそれは無いんだ」


世界の歪み。

人には名字と名が与えられる、という常識が存在しつつ、自身の欠落に誰も気が付かない。

こうして、他にも色々なものを気付かずに生きてきたのだろう。

俺がいなくなった後も、それは変わらずに続く。


「選ばれたヒトは色んな力を与えられて、いくらでも欲望を満たせる。

他人から求められ、必要とされ、望まれ、依存され………幸せになれる」

「嘘だ」

「………ううん、ウソじゃないよ。

ウソなら良いのにね」


深花は窓際まで歩むと、窓を開ける。

星の夜が向こうに広がっている。

月光さえ星明りに霞んでいた。

先程、仮面と見た時とは別の空だ。

月の光が陽光の反射だと知ったときは、割と驚いた記憶がある。

でもそれもまた、どこかの何かが思い付いた設定なのだろう。

ああいや、この世界に限っては俺だったな。


「綺麗だな」

煌めきが、点いて消えて。

深花は答える事無く、星の瞬きをひたすらに眺めていた。

「そうか、そうだよね」

「?」

振り返る。


「出てみようか」

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