2-5 覚悟が固まる瞬間

大澤はタクシーの中で自分自身にがっかりしていた。


俺は3年半前に覚悟してさとみの前から姿を消したはずだ。それなのにまた恋人として再会することを期待している。可能性はゼロに近いことくらい分かってる。分かっているのにその確認をすることが怖くて出来ない。


日本と同じく量的緩和を行っていた米国がインフレを警戒し先んじて金融政策の転換を始めたのがこの頃だった。為替ディーラーであれば何があってもその影響について考えをまとめ複数のシナリオのもとシミュレーションを行うタイミングだが、大澤はこの一大局面でさえ、そんなことどうでもよくなっていた。



あたまのなかはさとみだけ



ほかのことはかんがえられない




笑、、、こんな俺の姿をさとみが知ったらそれこそ軽蔑されるな。



あいつ、相沢社長と社内報の表紙を飾ってたな。



・・・・・



男として終わっていたとしても、せめて金融、経済の世界では尊敬される先輩であり続けたい。



中野に着く頃大澤は漸く正常に思考回路が働きだした。


既に結論は出ている。抗っても仕方がない。


今日はこのまま自宅に戻ってシナリオ分析をしよう。


そして、一時帰国したことをさとみに伝えよう。


時間は、、、16時前後。


東京マーケットがクローズになり、しばらく時間が経過したこの時間帯が、証券会社で働く者たちにとって少し気持ちに余裕が出来ることを大澤は身をもって知っていた。


よし、決めた。


16時、俺はさとみに連絡する。

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