2-3 後悔と懺悔
3年半経っているにもかかわらず、さとみもまた大澤を、大澤と共に過ごした日々を忘れられずにいた。
あまりにも眩しく、あまりにも満たされていた時間帯。
家族以外の人と一緒にいて、初めて幸せを感じながら過ごした日々。
会社と家との往復のなか、ふと気付くとその思い出の住人になっていた。
さとみはその呪縛から逃れ、社内での立ち位置を確かなものにして、精神的に自立したい、いや、その辛い経験を寧ろ仕事に対する発奮材料にして飛躍すべきだ、と考えられるようになってきていた。
大澤が活躍している経済というフィールドでカテゴリーは違っていても、彼を上回ることができれば、違う誰かに目を向けることも出来るかもしれない、と必死な想いが芽生えてきているのも事実だった。
そう、さとみも女性として十分な年頃であることは間違いなかった。
自分で悪戯に時を止めてしまっていることへの恐怖観念、自己防衛本能とも言うべき感情が芽生えていることを感じることが時々あるのだ。
それはまた3年半という時の流れの中で漸く、捨てられた、という事実と向き合う瞬間でもあったのだ。
「私、、、捨てられたんだよね。そんなことずっと前から知ってる。仕事しかないね、私には。」
生きてる、という実感を味合わせてくれるのは、仕事だけ。
無機質な捨て方するような男にいつまでも囚われているわけにはいかない。
超えることができたら新しい恋を見つけよう、そう思うように強制的に意識を仕向ける努力をずっとしてきたことで、少しずつではあるが人生の交差点を探る意思を持つことができつつあった。
同じ会社にいるのだら、この先偶然すれ違うことも可能性としてはあるはず。
だが、そんな時私は決して狼狽えたりしない。毅然とした態度でそのすれ違いをやり過ごす、そう心に決めていた。
もう二度とあんな辛い想いはしたくない。
「よし、今日も頑張って仕事しよ。」
そこには若年でありながら国内最大手証券のプロダクト統括部のチーフとして相応しい人物を目指すさとみの姿があった。
プリンスホテルで携帯と睨めっこをしていた大澤はというと、とうとう一睡もすることなく帰国後の初出社の朝を迎えた。
いつの間にか薄笑いになっている自分に気付いた大澤は、イカレてしまったのかな俺は。
無意識に力無く笑ってる意味をぼんやり考えてみた。
きっと幸せな再会はないと本能が感じているに違いない、そう結論付けた。
「そうだよな、3年半は長過ぎるよな。」
項垂れながら呟いた。
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