2-2 決意の一時帰国

帰国したその日、大澤は野沢証券本社から少し離れた品川プリンスに部屋を取った。


あまり近くだと自分を知る誰かと会うかもしれないと、ほぼ杞憂に終わる煩わしさを避ける為だ。


ほんの僅かな可能性も排除したかったのだ。

そう、さとみのことだけを考えたかった。


マーケットでは米国がインフレ懸念から量的緩和を修正、金融政策の正常化プロセスに入り為替が大きく円安に振れ始めた頃だった。


だが、大澤の頭の中は為替の動向など一切無く、さとみ一色になっていた。


さとみ、、、


携帯替わってないだろうな。。。

昔は何も考えず連絡してた。。。


自らその立ち位置を放棄した自分を恨めしく思いながら、自分の携帯を見つめた。


電話しちゃおうかな?


こわい。


3年半前に自ら勝手に終止符を打ったはずなのに、さとみを完全に失うことになるかもしれない、、、


矛盾だらけの思考の中、俺の中では全然終わってないんだな、、、

そんな自分を強く感じてしまう。


「はぁー」


携帯との睨み合いは終わりがない。



一方、プロダクト統括部のチーフに任命されたさとみは、社長、部長、とともに社内報の表紙に掲載されたことで、社内の注目の的になっていた。


各プロダクトを案件ごとに横断的に組織し最適なソリューションを提供する司令塔の役割であるプロダクト統括部のチーフ。


入社4年目でありながら、プロダクト部門の中枢での活躍を期待されているポジションだ。


普通ならその重圧を感じやや神経質になりがちだが、さとみはある意味鈍感力に優れた一面を持っていた。


相手がプロダクトの長であっても、力むことなく自らの考えを述べ、プロジェクトを推進してみせた。


大澤が味わっている苦悩とはまるで違う別の次元にいるようだった。


忙しくしている方が大澤のことを考えずに済む。仕事は彼女の精神安定剤なのだ。


そんなさとみの内線は業務中か否か関係なく、一日平均4、5本はお誘いの連絡が来る。


「ありがとうございます。ただ、今は仕事に集中したいので、そのような余裕がありません。申し訳ありません。」


一日平均4、5回受話器に向かって同じセリフを吐いていた。


そんなさとみだが、自宅のワンルームマンションの部屋に帰ると、ふと考え込むことがある。


「まだぁ?忘れられないの?未練がましい女ね。分かってるの?あなたはボロ雑巾のように捨てられたのよ、、、」


笑笑笑


「急にいなくなったぁ、、、」


彼女もまた大澤が未だに心を占領してることを時々感じざるを得ないのだ。


「捨てられたぁー。泣きたぁーい。」


周期的にやってくる孤独感を味わう夜、彼女は躊躇うことなく涙を流す。


そして、人は忘れる動物?風化?

早く風化してよ。。。


いやだ。。。


忘れたくない。。。

今日はいい。泣く。


明日からまた頑張ればいい。


さとみもまた大澤のことを忘れることは無かった。







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