2-1 抑えられない衝動

再会していいのか、連絡していいのか、社内報を見てしまってからずっともがき苦しんだ大澤は、何も結論を出せないまま成田に降り立った。


野沢証券では年に2回一時帰国の機会が与えられているが、帰国すればさとみを探してしまう自分を容易に想像出来てしまう大澤は、3年半の間一度もチケットを用意することは無かった。 


フィッシャー症候群による眩暈は薬は欠かせないが治療の効果でかなり少なくなっていた。


これならさとみに会える、、、


と思った瞬間に、もう一人の自分が、何を勝手なこと考えてるんだ。俺は何も言わず突然連絡を絶ったんだ、と心臓をえぐる。


「うぅうー、あぁーぅ、、、」


なんて酷いことしたんだ。彼女に会う資格なんてあるわけないだろ。


そう思いながら胸のネックレスを強く握りしめた。



「さとみ、、、」


普段はワイシャツに隠れて見えないが

彼の首にはさとみとお揃いで買った

安物のネックレスが一時も離れることなく

寄り添っていた。


さとみと付き合ってしばらくした頃、何かプレゼントするよ、と言った大澤に


「だったら、ペアのネックレスがいい」


「どのブランドが好きなの?」


「高くなくていいの、ただ長持ちするのが欲しいの」


その時は気にすることも無かったが、言葉を大事にするさとみのことを考えると、ちゃんとそこにはメッセージがあったのだ。


ずっと一緒にいる、、、


「ながもちするのがほしい、、、」



大澤はその時のことを思いだしながら、走り出していた。


さとみに会いたい、、、


大澤はついにさとみに連絡する決意を固めた。


一度決意を固めた大澤は後戻りすることは考えなかったが、さとみが会ってくれるのかどうか、、、


そうだよな、、、

都合が良すぎるよな、、、


大澤は何度も何度も堂々巡りを繰り返した。



3年半だぞ。


自分が魅了された素敵な女性が一人でいるはずがない。


時間が止まっているのは俺だけに決まってる。社内報に載っただけでロンドンの奴等も大騒ぎだったじゃないか。


しかも、残酷な別れ方をしたまま、、、


世の中の男子かほっとく筈がないし、そもそも寂しがりやの彼女が一人でいる可能性はあるのか。


会うべきか否かでもがき苦しんでいた大澤は、今のさとみの状況を初めて想像したのだった。



タクシーに乗り込んだ大澤は少し冷静になり一人苦笑しながら、馬鹿だな、俺は。


何を期待しているんだ。彼女が一人でいる筈がない。


不覚にも涙が溢れ落ちた。


大澤は、自分が取った余りにも独り善がりな別れ方を今更ながら後悔し、彼女の心情を想像して、更に涙した。


連絡だけ、連絡だけはしてみよう。

会うことは考えない。


会えるわけがない。












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