第164話 保育所の授業参観日という名のお祭り
「いらっしゃいませ〜。」
「これくださいな。」
子どもたちが店番をするお店屋さんごっこに、段ボールで作ったコインを出す子ども。
今日は保育所のお祭りに参加している。
お祭りというか、まあ、授業参観と学園祭の、保育所バージョンってところだな。
午前中は子どもたちが保育所でどんな風に過ごしているのかを親に見てもらって、お昼ご飯に普段どんな物を食べているのか知る為に、給食を親と一緒に食べてもらう。
そして午後はお楽しみのお店屋さんごっこの時間だ。折り紙や画用紙、段ボールを俺が保育所に提供しているので、それを使って子どもたちが作ったものを売り買いする。
作ったのも保育所の子どもたち。買うのも保育所の子どもたちだ。お金の使い方を学ばせる目的もあるので、段ボールで作ったコインを出すことで購入できる仕組みにした。
店番を子どもたちにさせるのも、お金の計算を学ばせる目的がある。コインは1人につき5枚まで。最高で段ボールコイン5枚までの商品を、値段をつけて並べてある。
それを子どもたちが計算して、お金を数えて商品をお客さんである子どもたちに渡す。
ちなみに店番している子どもたちは、全員4歳以上の子どもに限定してある。
さすがにそれより小さいと、じっとしているとむずがったりするし、少額とは言えお金の計算なんて、させるのは難しいからな。
段ボールコイン5枚の商品がどうしても欲しければそれを購入してもいいし、1枚ずつ使ってもいい。ちなみにこのお店屋さんごっこは6日間開催されることになっている。
そのうちの1日に来た感じだ。6日間連続でやるから、商品も並べられる数が限定されていて、人気の商品が売り切れても、また次の日にも並べられるから、次の日買うことが出来るかも知れない、ということだな。
ちなみになんで6日間やるかと言うと、うちの商会が6日営業日の、週5勤務だからである。親御さんたちの休みがバラバラだからな。全員が休みの日に来られるようにした。
だから自分の親と一緒に買い物する子もいれば、1人でお店に来る子もいる。俺はカイアとアエラキとアレシスと回っていた。
今日はさっきまでカイアは店番の日だったらしく、一生懸命お金を受け取って、ニコニコしながら商品を子どもたちに渡していた。
ピョルピョルとしか話せなくても、お金をちゃんと数えられるし、お釣りも商品も渡せるので、特に問題がないようだった。
頑張るカイアは可愛かったな。
アエラキはさすがに小さいので、店番の担当はやらない。お金の数え方を教えてみたこともあったが、キョトンとしてたしな。
アエラキは人間の年齢で言うと、1歳半から2歳くらいだと俺は思っている。
カイアが3歳から4歳で、アレシスが5歳から6歳くらいの子どもの印象だ。
なので実際その年齢の子どもたちが集まるクラスに在籍している。ちなみにうちの保育所は、0歳から1歳児クラス、1歳から2歳児クラス、3歳から4歳児クラス、5歳から6歳児クラス、というクラス分けである。
今のところ30人までの保育所なので、1歳ごとに分けるほど、子どもたちもいないしな。まあ、それ以上入れられるキャパは作ってあるから、いずれ増えることもあるだろうが、今は保育士さんたちが足らないからな。
3歳から4歳児クラスにいるカイアは、一応保育士さんたちが事前にやらせてみて、出来そうだということで店番に参加になった。
アレシスは昨日が店番担当だったらしい。アレシスの店番も見てみたかったな。まあ、繁栄と商売の精霊であるショウジョウの子どもだけあって、計算はお手の物らしいが。
保育士さんたちが、アレシスちゃんはしっかりしていて凄かったんですよ〜、と褒めてくれた。アレシスも嬉しそうに照れていた。
カイアの店番が終わるのを待って、一緒に買い物に回る。アレシスは女の子が店番をしている店のリボンが気になっているようだ。
アエラキは段ボールと画用紙で作ってクレヨンで色を塗られた、段ボールと棒の車輪がついた馬車が気になっているようだった。
それにしても上手いな、この馬車。
型紙を馬車職人が作ってくれて、それ通りに作られたものだが、あくまでも形だけだ。
本物っぽい感じにするには、窓やなんかをクレヨンで描かないといけない。
よっぽど絵の上手な子が描いたんだな。
御者まで描いてあって妙にリアルだ。あくまでも子どもの絵としては、であるが。
ちなみに馬車はさすがのコイン5枚だ。
これだけしっかり作っていてあれば、保育士さんたちが1番高いお値段をつけるのも納得である。ちなみに昨日すぐに売り切れてしまったらしい。まあ、だろうなあ。
「アエラキ、それは人気の商品らしいから、悩んでいる間になくなっちまうかも知れないぞ?昨日は売り切れたらしいからな。
買うのか?どうするんだ?」
そう言っている間にも、男の子が1人、くださいな、とアエラキの目の前で馬車を買っていった。馬車は作るのが大変なのか、1日3台までしか店に置かないらしい。
「ピューイ!」
悩んだ結果、アエラキは結局馬車を買うことにしたようだ。コインを渡して、嬉しそうに馬車を受け取っていた。
他にも欲しいものがあったのかな。
6日間あっても、コインは5枚だけ。
今日使っちまったら、もう買えないしな。
アレシスは悩んだ結果、コイン3枚のリボンと、コイン1枚のクッキーを2つ購入したようだ。クッキーは保育所の給食担当もしてくれている、食堂で作られたものだな。
一袋に2枚のクッキーが入っている。
それを俺たちに1枚ずつ配ってくれた。
「ありがとうな、アレシス。」
「ピョルルッ!」
「ピューイ!」
みんなでそれぞれお礼を言って、クッキーを頬張る。アレシスは嬉しそうだった。
気を使うアレシスらしいなあ。
見ると同じように、クッキーを購入して家族と分け合っている子どもたちもいた。自分の欲しい物より、家族を喜ばせたい子どもたちは、まずクッキーのところに行くようだ。
こういうのは性格が出るよな。俺も子どもの頃は、もらったお小遣いを半分ためて、父の日と母の日と、両親の誕生日に、それぞれプレゼントを贈るような子どもだった。
両親を喜ばせたかったから。
欲しい物が高かったりすると、妹と相談して購入する物を決めて、半分ずつお金を出し合ってプレゼントをしていた。
母には夏用の藁網の鞄、父には釣りで使うウエストポーチとヘッドライト、みたいな感じで、プレゼントを考えるのは楽しかった。
だがある時、父親に、プレゼントを渡した時、無駄遣いするなと大声で罵られた。
……意味がわからなかった。
ただただ、理不尽過ぎて悲しかった。
それ以来、大人になってからも、母の日と母の誕生日プレゼントを贈ることは続けていたが、父に何か渡すことはなくなった。
妹だけは父にプレゼントを続けていたが。
妹は父親に可愛がられていて、俺はなぜか執拗に罵られる子どもだった。同族嫌悪というか、俺も父は自分に似たところがあって、特に自分の嫌な部分に似て嫌っていたから、父にも同じ感情があったのかも知れないが。
俺は父親に褒められた回数を覚えている。
きっちり13回。死ぬまでに数えられる程度しか、褒められたことがなかった。
殴られた記憶のほうがよほど多い。
ある時なにかで、父親にだけプレゼントを贈らなくなった理由について、父親に話したことがあった。子どもがお小遣いを半分ためて、父の日と母の日と、両親の誕生日に、プレゼントを贈ることを無駄遣いと罵る親は、世界でお前だけだと、俺は父親を罵った。
……その時、人生で初めて、父親が俺の前で泣いた。──なぜ、お前が泣くんだ。
俺は意味がわからなかった。父親が死ぬまで、その涙の意味はわからないままだった。
「カイアは何が欲しいんだ?」
俺のズボンの裾を掴んだまま、お店の前に行こうとしないカイアに尋ねる。
「ピョル……。」
何かを言いたげに俺を見上げているが、俺にカイアの言葉はわからない。
「アレシス、なんて言ってるんだ?」
こういう時は、俺たちの言葉も、他の精霊の言葉もわかるアレシスに聞くしかない。
「タリナイ、ッテ。」
「たりない?なにがだ?」
「ピョル……。」
カイアが指差す先には首から下げられるメダルが3つ並べられていた。カイアが店番をしている間に、いくつか売り切れてしまったのだろう。隙間があいて並べられている。
毎日売る数が決まっているから、売り切れると補充がされないからな。カイアはこのメダルが何個か欲しかったのか。
ヒマワリのように、リボンで縁取られたメダルの部分には、“だいすき”とか、“いつもありがとう”と書かれていた。なるほど、カイアはこれを家族全員分欲しかったのかな?
全員分揃わないのであれば、買っても意味がないということなのだろう。貰えなかった人が悲しくなっちまうもんな。
「すみません、ちょっとよろしいですか?」
「はい。あら、商会頭。
いかがなさいましたか?」
子どもたちのサポートとして、店番についてくれている保育士さんが、俺を商会頭と呼ぶ。保育所やハンバーグ工房、移動販売を含めた商会の頭なので、そう呼ばれている。
「実は、このメダルなんですけど、どうしても予備分の数の補充は難しいですか?うちの子がこれを何個か欲しいみたいで……。」
「ああ、だいじょうぶですよ、昨日の売れ残りがありますので、補充可能です。
明日の分までは出せませんけど。」
「ありがとうございます、助かります。
補充分を足すと、いくつありますか?」
「2個あるので、合計5個ですね。」
「カイア、足りるか?」
「ピョルッ!ピョルッ!」
カイアは嬉しそうに、そのメダル5個を、段ボールのコインを出してすべて購入した。
そして俺に、“いつもありがとう”のメダルを。アエラキとアレシスに“だいすき”のメダルを。“なかよし”のメダルを自分の首から下げた。最後の一つはキラプシア用かな?
「これで家族全員おそろいだな。
ありがとな、カイア。」
「ピョルッ!」
「アリガト……。」
「ピューイ!」
みんなでおそろいのメダルを下げる姿を見て、カイアは嬉しそうにニコーッと笑った。
みんな満足する買い物が出来たようで、俺もそれが見られて満足だった。
保育所が終わり、一緒に帰宅をすると、カイアは早速キラプシアにもメダルをかけてやっていたが、キラプシアの体には紐が長過ぎて、調節してやらないとかけられなかったので、紐をまとめる手助けをする。
キラプシアはキラキラしたメダルを下げてもらったのが嬉しかったのか、それともみんなとおそろいなのが嬉しかったのか、ドヤ顔で何度もメダルを見せつけて来たのだった。
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