第163話 しば漬けとツナ缶と玉ねぎのクリームパスタ、しば漬けタルタルソースの唐揚げ、しば漬けタルタルソースのポテトサラダ、しば漬けサワー

「よし揚げるのは任せろ。」

「頼んだ。」

 今日はロンメルの宮廷料理人としての仕事が休みなので、子どもたちが保育所に行っている間に、昼間っから飲もうということで、俺の家に遊びに来ているのである。


 今日は唐揚げのアレンジレシピと、ポテトサラダのアレンジレシピをつまみに、昼飯用にパスタを作ることにして、俺が冷蔵庫で下味を付けておいた唐揚げを、ロンメルが揚げてくれようとしていた。

 なんせプロの料理人だからな。素人の俺がやるより、任せたほうが美味いだろう。唐揚げは以前使ったレシピを使用している。


「しかしこの、しば漬けってのは、随分と不思議な匂いがするな。」

「野菜の漬物なんだ。俺は漬物が好きなんだが、かなり上位で好きな漬物だな。」

「保存食なのか?」

「まあ、そうだな。」


 俺はジャガイモ、キュウリ、玉ねぎ、パセリ、卵、赤紫蘇のふりかけ(ゆかり)、しば漬け、パスタ、ツナ缶、生クリーム、オリーブオイル、レモン汁、マヨネーズ、顆粒のコンソメ袋、粉末の昆布茶、塩、コショウ、醤油、キッチンペーパータオルを出した。


 卵2個は小さい鍋に入れて、少し水がかぶるくらいの領を入れて火にかけ、沸騰したら10分ほど茹でて固ゆでにしたら、冷水を流して冷やし、冷めたら殻をむいてフォークで潰すかざっくりと刻んでおく。しば漬け60グラムは食感が残るように粗く刻んでおく。


 玉ねぎ2/3個程度をみじん切りにして水にさらして、キッチンペーパータオルで水気を絞っておく。赤紫蘇のふりかけ(ゆかり)小さじ2と、レモン汁40ccを混ぜ合わせて5分ほど置いておく。すべてをマヨネーズ180グラム、塩コショウ少々、パセリ少々としっかり混ぜ合わせて、しば漬けタルタルソースの出来上がりだ。これは半分だけ唐揚げのソースとして使って残りは取っておく。


 ジャガイモを大なら4個、中なら6個は皮をむいて、2センチ以下のさいの目状に切ったら耐熱容器に入れ、水を大さじ1振ってふんわりとラップをかけたら、700wの電子レンジで3分加熱する。ジャガイモに火が通っていなければ、火が通るまで加熱して欲しい。マッシャーで軽く潰して粗熱が取れたジャガイモに、薄切りにしたキュウリ1本と、先程作ったタルタルソース半分を混ぜ合わせたら、しば漬けタルタルソースのポテトサラダの出来上がりだ。量は4人分である。


 パスタ200グラムをたっぷりのお湯と、下味をつけたい分だけの塩で、指定時間より2分短く茹でてザルにあげておく。

 この時、茹で汁はお玉に1杯ほど取っておく。玉ねぎ1個をスライスし、ツナ缶の油をよく切っておく。


 フライパンにオリーブオイルを大さじ2入れて回して広げたら、玉ねぎに塩コショウ少々を加えて炒め、しんなりしてきたらツナ缶1缶を加えて混ぜ合わせ、茹でておいたパスタも加えて火が通るまで炒めたら、茹で汁をお玉1杯分加えて更に混ぜ合わせる。


 しば漬け30グラム、生クリーム200ミリリットル、粉末の昆布茶と顆粒のコンソメを、それぞれ小さじ1を加えてざっくりと混ぜ合わたら、最後に醤油を小さじ1加えて軽く混ぜ合わせて、お皿に盛り付けてパセリを散らしたら、しば漬けとツナ缶と玉ねぎのクリームパスタの完成だ。生クリームは牛乳でもいい。量は2人前である。


「あ、待ってくれ、しば漬けの汁は捨てないでくれ。まだ使うんだ。」

 しば漬けの入っていたビニール袋から、残った汁を捨てようとしたロンメルを手で制しつつ止める。

「汁を料理に加えるのか?」

「いや、酒に使うのさ。」

「酒?」


 グラスにロックアイスと、焼酎と、しば漬けの汁を入れて、炭酸を入れてかき混ぜるだけだ。これでしば漬けサワーの完成である。

 今日の昼ご飯とツマミは、しば漬けとツナ缶と玉ねぎのクリームパスタ、しば漬けタルタルソースの唐揚げ、しば漬けタルタルソースのポテトサラダ、しば漬けサワーである。

 実にしば漬けづくしだな。


「──美味いな!これがさっきの、漬物の汁なのか?パスタにもなるし、サラダにもなるし、こうして酒にも使える。随分と万能なんだなあ、しば漬けってやつは。」

「実は以外とクリームに合うんだよな、しば漬けって。唐揚げにも合うだろう?」

「前に料理対決で食べた時も美味かったが、こうしてしば漬けのソースを加えると、また違った感じで美味いな!」


 グイグイとしば漬けサワーをあおりつつ、パスタやツマミを食べる。真っ昼間っから飲む酒は美味いな。実にいい休日だ。

「仕事のほうは順調なのか?」

「まあ、順次主要都市に拠点を広げつつあるよ。工房もそうだが、従業員の住むところを整えるのが大変だな。なにせこれまで家がなかったところに、工房や家を建てているもんだから、色々と大変なんだ。」


 まず公園ひとつ作るにしたって、いわゆる児童公園タイプの公園と、通常の公園を作らないと、駆け回ったりして遊び回りたい子どもたちと、静かに公園で過ごしたい人たちの棲み分けが出来ないからな。

 スペースだけはふんだんにあるから、遊具やベンチ、噴水なんかを作ってもらった。

 通常の公園では遊ぶのは禁止としている。


 こうすることで、お年寄りと子どもの接触事故をさける目的がある。代わりに児童公園では、子連れじゃない大人は来園禁止とさせてもらっている。家から近いからって児童公園で静かに過ごそうとして、子どもが騒いで危ないと言われても、こちらも困るからな。

 都市計画は大変だ。


 まあ、金だけはあるし、人が住む前の更地にいちから色々なものを置けるわけだから、後から工事して苦情が出るわけでもないし、そのあたりは楽ではあるけどな。

 国営であって然るべきの老人ホームも、前世にもなかったが当然この世界にもない。


 お金がある人は普段から従者に世話されているので、平民が暮らす為の老人ホームを作らないとな。それこそ年金で入れる程度の。

 今は保育所しかないが、平民の為の学校を作る目的で人手を募集している。

 きちんと福祉や教育を考えると本当にやることが山積みだ。俺は単なる社長ではなく、領地を持つ男爵なのだから。


「他の領主たちがどうしているのか、知りたいんだよな……。領地経営だなんて初めてで、普通はどうなのかサッパリわからん。」

「ああ、ジョージは突然叙爵されたんだものな。普通は先代なり、家令なりに、領地経営に関する教育を受けて過ごすものだと聞くしな。それがないのは困るよな。王宮から誰か派遣してもらえないのか?」


「派遣してもらえるものなのか?」

「いや?わからん。こちとら平民だからな。

 お貴族様のことはわからんよ。」

「なんだそりゃ。」

 俺達は顔を見合わせて笑った。

「誰か貴族に話を聞けたらいいんだがな。

 領地経営を直接自分でやっていて、必要なことがわかる人がいいんだが。家令とやらを長年やっているっていう人でもいい。」


「それならパーティクル公爵に聞いてみちゃあどうだ?親しいだろう?」

「確かに温泉に招待されてはいるが、親しいかと言われるとな……。まあ、どうしても聞ける人がいなければ、温泉に招待された時にでも話してみるか……。」

「それがいいさ。」

 しば漬けサワーをグビリと飲みつつ、ロンメルが笑った。


「お前のほうこそ、仕事はどうなんだ?」

「馬車の事故にあっちまった同僚がいてな。だいぶ忙しいよ。鎖骨を骨折したとかで、長い事治らないんだ。回復薬を飲み続けることで、多少は回復しつつあるみたいなんだが、あれも長いこと飲むときかなくなってくるからな。クスリはなんでもそうさ。しばらく飲み続けると効果が落ちてくるんだ。」


「ああ、そういうものか。」

 そこは現代と同じなんだな。それに鎖骨はなあ……。結構治りにくいものなんだよな。

 昔友人が交通事故にあって鎖骨を骨折した時も、半年以上よくならなかったからな。

 鎖骨とあと、どこだかを怪我して、神経と筋肉だけで腕がぶら下がっている状態になっちまって、利き腕で凄く苦労していたなあ。


 何度か怪我をしている最中に自宅に遊びに行ったが、腕の骨折とはいえ気軽に遊びに出られるわけでもないので、レンタルDVDを(レンタルビデオだったかも知れないが)借りて来て、俺の作った料理を食べながら一緒に過ごしていたんだが、風呂だけでなく、食事ひとつ大変だということに気が付いた。


 そのまま泊まって次の日の朝食を作った後で、重たい蓋付きのピッチャーから、麦茶をグラスに移してラップをかぶせて冷蔵庫に入れ、料理も出来るだけ小さい小鉢に分けて入れて、食器の入った引き出しも重たくて大変そうだったので、小鉢にラップを巻いたフォークを乗せて帰ったら、随分と感謝されたっけ。その人もきっと大変なんだろうな。


「聖魔法使いにかかればすぐなんだが……。

 あれもどうして診察だけでも高いからな。

 それに名だたる聖魔法使いは、有名な冒険者になっているか、王族や貴族がお抱えにしてるかだからな。診察すら難しいよ。」

「──ん?聖魔法使いなら、うちに専任の産業医がいるぞ?外部に向けた診療所も開いているから、診察することは可能だ。」


「ほんとかい?そいつが金を出せるかとの相談になるが、選択肢は多いほうがいい。

 さっそく奴に連絡をとってみるよ。」

「ああ、決まったら連絡をくれ。基本従業員とその家族しか診察しないことになっているから、診療所が外部の人間が進入不可の敷地内にあるんだ。外部の人間をみるときは、うちの敷地に入る為の許可証が必要だから。」

「わかった。」

 ロンメルが嬉しそうに笑った。


「そういやあ、うちにある折りたたみ式コンテナって、ジョージのところの品物なんだよな?最近郵便窓口にあったのを見かけたよ。

 今までリーティアやミーティアを入れるのに、布袋しか入れるものがないってんで、床に置くしかなくて、場所をとって大変だったのが、立体的につめるようになったってんで、かなり助かってるって話していたよ。

 随分と手広くやってるんだな。」


「ああ、確かに、エドモンドさんから郵便事業から、大量に買付があったとは聞いているな。それで大量に欲しかったのか。」

「出稼ぎの多いこの国じゃ、貧乏人には家族とやり取り出来る唯一の手段だからな。

 もちろん通信具なんてもんもあるが、そんなお高い魔道具買えるのは、お貴族様か、大商人くらいのものだからな。

 俺も時々家族にリーティアを送っているから、買いに行って目についたんだ。王宮にあるのと同じものが置いてあるな?ってな。」


「ああ、家族と離れて過ごしているんだものな。出身の村は、ここからだいぶ遠いのか?

 うちもそれなりに距離があるが。」

「まあ、そうだな。王宮からジョージの家に行くよりは、少し遠いな。」

「なんだ、そんなに変わらないじゃないか。

 だったら魔法の手紙なんかじゃなく、直接家に帰ってやったらいいのに。」


「せっかくの休日を、毎週家族の顔見て過ごすなんてごめんだよ。友だちともこうして遊びたいしな。料理の研究だってある。実家に帰ったらそのどっちも出来ないだろう?

 その代わり月イチ手紙は出しているよ。」

「まあ、それはそうか。」

 見た目だけ若い俺と違って、ロンメルは実際に若いんだものな。休日にやりたいことがたくさんあるだろうし、家族とやたら過ごしたい年齢でもないからな。


「そういえば、恋人はどうなったんだ?」

「ん?そんなもの、いないぞ?」

「しばらく家に直接遊びに行けなかった時期があったろう?てっきり同棲でもしてるんじゃないかと思っていたんだが。」

「ああ、あれか……。あれは知り合いをしばらく預かっていたんだ。かなり人に怯えていたから、致し方なくな。」


 半分嘘ではない。王宮から兵士が来ていて聖女さまに対するかん口令がしかれて、人を近付けられなかったというのも事実だが、召喚されたノインセシア王国でされた対応に、円璃花が怯えて、知り合い以外と関わるのを嫌がっていたのも事実だからな。

 俺は王宮の兵士の人たちとも交流を持っていたが、円璃花は人間と犬との間の子のような、コボルトとのアシュリーさんとララさん以外とは、あんまり関わらなかったしな。


「なんだ、てっきり、ようやくジョージに恋人が出来たのかと思っていたのに。その見た目でどうして恋人がいないのか不思議だったんだ。どうして作らないんだ?」

「どうしてってこともないが……。」

 見た目は10代でも、中身はアラフィフのおっさんだからな。若い女性に食指が動かないというだけだ。かといって年齢が近い女性だと、今の俺とでは親子になってしまうし。


「そういうロンメルこそ、パーティクル公爵が、セレスさまとの仲を疑うくらい、爽やかで、一見モテそうな見た目じゃないか。

 どうして恋人を作らないんだ?」

「職場は男ばかりだし、王宮の侍女たちともあまり新人の俺たちは関わることが出来ないからな。先輩たちは職場結婚も多いから、俺もそのうちその中から作れたらなと思ってるよ。今はまだ仕事を頑張る時だな。」


「そうか、お互い頑張ろうな。」

「釣りなら大物を釣れるんだけどなあ。」

 と自慢げにロンメルが言う。

「おっ。なら久しぶりにやるか?

 家の裏手の川と、湖と、どっちがいい?」

「正直湖のヌシを釣りたいところではあるが……。酔ってるからな、帰ることを考えたら裏手の川にしよう。道具を貸してくれ。」


「よしきた、飲みながら釣ろう。」

「いいな、外につまみも持って行こう。」

 俺とロンメルは、川べりに小さなシートを置いて、その上に小さなテーブルを置き、酒のおかわりとツマミを乗せて、そいつを飲んだり、食べたり、おしゃべりしながら、少し暑い日差しに汗を拭きつつ、家の裏手の川での釣りと飲みを楽しんだのだった。


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まただいぶ間あきました汗

久しぶりの更新です。


コミカライズが決まり、現在イラスト担当の方と編集部を通してやり取りしております。

情報解禁日が決まるまでは、イラスト等も公開出来ない為、コミカライズ進行中であることのみ記載可能となっております。


ある程度描き溜めてからのスタートとのことですので、恐らく来年になるかと。

なんとか更新頑張りたいところです。

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