第78話 エドモンドさんと王宮へ

 俺はカイアとアエラキに朝ごはんを食べさせ、マジックバッグの中に入って貰って、予定の時間よりも早く家を出た。

 もし都合がつくようであれば、ルピラス商会のエドモンドさんにも同席して欲しいと思ったからだ。


 店を探してもらったのも、本来売買にあたってメインで動いて貰ったのもエドモンドさんだからな。俺はこの世界の常識がわからないし、なにか必要なことがあった場合に助言を求めたいし、同席してもらえるにこしたことはない。


 呼び出されたのは俺だけだが、今までの経緯があるし、王宮出入りの商会だから、断られることはないと思うが、念の為に駄目だった場合の可能性についても話しておかないとな。そう思ってルピラス商会の中に入ったのだが、エドモンドさんはいなかった。


「すぐに戻ると思いますので、あちらにおかけになってしばらくお待ち下さい。」

 若い従業員さんにそう声をかけられたので、まだ時間もあることだし、ソファにかけて待たせてもらうことにした。ほどなくしてエドモンドさんが帰ってきた。


「おお!どうしたんだ、ジョージ。」

「王宮から、コボルトの店舗の売買にあたって、パトリシア王女様の保証書が出来たと連絡がありまして。今日、これから向かう予定なのですが、もしよろしければエドモンドさんにも同席していただけないかと思いまして……。」


「ああ、そういうことか。もちろん構わないさ。予定は何時なんだ?」

「だいぶ早く来てしまったので、まだ30分以上ありますね。

 ただ……呼び出されたのは俺だけなので、ひょっとしたら万が一、中に入れて貰えない可能性もあるかも知れないのですが……。」


「ああ、なるほどな。まあ、その時はその時だ。別にそれでも構わんさ。

 まあ、事情を知ってくれているから、そうはならないとは思うがな。

 それまでに、取り扱わせて貰っている商品の精算をしたいんだが構わないか?」


「ええ、問題ありません。」

 ちょっと待っていてくれ、と言って、エドモンドさんは書類をいくつか、机の上の小引き出しから出してきた。

「まず、レモンのハーブソルトなんだが、既にいくつか引き合いが来ていてな。」


「そうなんですか。良かったです。」

「ジョージが販売しないというから、そちらの精算はアラベラさんとジャスミンさんと直接行うことになるが、ジョージが渡した分だけじゃ、レモンと乾燥剤が足らなくなるから、仕入れたいという希望を受けている。」


「ああ、じゃあ、それは必要な数をお出ししますね。」

「それと、乾燥剤自体だな。これを仕入れたいという要望がある。だからこれも出してくれ。」

「いくつですか?小分けになっていないので、出しておくと空気中の水分を吸ってしまうんですが。」


「いくつで1セットなんだ?」

「100個入りですね。」

「ふむ、なら、アラベラさんとジャスミンさんの要望が200、新規顧客がお試しで100だから、300出してくれ。

 レモンは300だ。

 まあ、効果が浸透すればどんどん売れると思うが、乾燥剤ってものの便利さが、まだ伝わってないからな。」


 まあ、知らないものだとそうなるか。

 キッチンペーパータオルみたいに、使ってすぐに結果が見えるものでも、薬用せっけんみたいに、もともと石鹸と消毒用アルコールが広まっているわけでもないものな。


「売れたものとしては、まず折りたたみ式の輸送コンテナだな。1987個だが、2000個分として支払おう。これの販売価格が、中金貨1枚と小金貨5枚だな。

 それとキッチンペーパータオル。出して貰った50000個すべてがカラになったよ。これが銀貨2枚だな。」


「それはまた凄いですね……。」

「どちらもよその国からも引き合いがあってな、大人気だよ。追加で出して欲しい。

 それと出汁こし布だが、100セット売れた。5枚セットで銀貨5枚だ。これはじんわりと売れているから、追加は注文があってからでいい。」


 まあ、洗って使い回せるものだしな。

「それと薬用せっけん。これが王宮用を含めて500個売れた。1つにつき銀貨3枚でおろしている。こいつもたくさん注文が来ているから、1000個追加で出してくれ。

 それとオンバ茶が王宮分だけで100個だな。これが小金貨5枚だ。」


 お茶が5万円!?これでも安くしたと言っていたよな、確か……。まあ若返りの効能を考えるとそれでも安いのか……。

 コボルトの集落に塀やゴーレムの出る魔法石を配置しておいて大正解だな……。

 知られたらやがて狙われるだろう。


「それと、ジョスラン侍従長から、魔宝石について、防水魔法、魔法防御、物理防御、速度強化、姿隠し、閃光魔法、ゴーレムの魔宝石が、それぞれ100個ずつ注文が入ってきている。時間のある時でいいから、アシュリーさんたちに作って貰って欲しい。」

「分かりました。」


「それと、これから定期的に、セッテ、ペシ、ラカンがそれぞれ週一回、10ずつ欲しいそうだ。これについては、配送の問題があるから、次のオンバ茶の注文時か、店が出来てからでお願いしたいと伝えてある。

 30個の食材のためだけに、コボルトの集落から馬車を出していたら、輸送費だけでばかにならないからな。」


「そうですね。」

「合計で、折りたたみ式の輸送コンテナが、2000個で中白金貨3枚。キッチンペーパータオルが50000個。これが銀貨2枚だから中白金貨1枚だな。

 それと出汁こし布が100セット、5枚セットで銀貨5枚だから中金貨5枚だな。」


 細かいものばかりなのに、今回も凄い金額になりそうだなあ……。出汁こし布はそこまで特殊な商品でもないから、アイデア料ってところなんだろうな。

「薬用せっけんが500個、1つで銀貨3枚だから、大金貨1枚に中金貨5枚だな。

 それとオンバ茶が王宮分だけで100個だな。これが小金貨5枚だから、合計で大金貨5枚だ。」


 既に見失いつつあるぞ。

「あと、前回おさめたコボルトの食器が、皿が大皿20枚と、小皿が60枚、ティーカップのセットが30客、セッテ、ペシ、ラカンが10ずつ。

 食器が大皿1枚につき中金貨5枚、小皿が小金貨5枚、ティーカップのセットが一客につき中金貨3枚だな。合計小白金貨2枚に大金貨2枚だ。」


 まあ、現代でもブランドのいい陶器のお皿は、日常使い品でも高いからなあ。マイセンやバカラなんて10万以上もざらだ。

 そう考えると、お皿1枚50万でも、それほど不思議じゃなあないのいか……。でも、平民には売れなくなるなあ……。


「セッテ、ペシ、ラカンが、ひとつにつき銀貨3枚だ。合計小金貨9枚だな。

 これは大きいから食べごたえがあるし、庶民にもそこまで贅沢じゃない値段に設定してみた。ある程度保存がきくうえに肉だからな、手間と原材料費を考えると、これ以上安くは出来ないが、味を知ればたまに買ってみたくなると思う。」


「はい、食べ物の味は広めたいですからね、俺も食べるものの販売価格は、あまり高くしたくないと考えていました。」

「少し使って料理に入れるくらいなら、料理の材料次第で、料理の値段はおさえられるだろう。多分平民も食べに来てくれる筈だ。」

「そうですね、楽しみです。」

 俺はうんうんとうなずいた。


「それで、全部の合計が、中白金貨4枚、小白金貨2枚、大金貨9枚、小金貨9枚だな。今回は仕入れはすべてジョージからだから、うちの手数料、中白金貨1枚、小白金貨2枚、大金貨8枚、中金貨7枚、小金貨2枚、銀貨7枚を引いて、ジョージの取り分が、中白金貨3枚、中金貨3枚、小金貨6枚、銀貨3枚だな。」


 はい、もう、それでいいです……。

 エドモンドさんが従業員に声をかけて、奥からお金を持ってこさせる。目の前で数えて布袋に入れ、それを渡してくれた。

「倉庫に品物を出して欲しいところだが、そろそろ行かないと時間がないな、王宮から戻ったら、すぐに土地を契約に行くだろう?

 その後でまた倉庫に寄ってくれ。」


「分かりました。」

「──よし、ちょっと王宮に行ってくる。お前たち、あとは頼んだぞ。」

 エドモンドさんは従業員に声をかけて、自ら馬車を操りながら、俺とともに王宮へと向かった。


 今日は仕入れがないから正面入口からだ。

 豪華な甲冑を身に着けた兵士に、昨日使いの方が渡してくれた、リボンのついた書状を差し出すと、お待ち下さい、と言って一度中に引っ込み、すぐに門があいて、別の従者に促され、俺たちは中に通された。


 そういえば、正門から入るのは初めてだなあ。広大な手入れのされた庭に、中央に美しい噴水。小鳥のさえずりなんかも聞こえる。

 裏門からだと王宮は割とすぐのところにあったが、正面入口からだと、王宮ははるか先にあった。


 馬車を降りると、馬番の従者が出てきて、馬車を引き取ってくれる。

 直接王宮の前に馬車をつけられるのは王族だけで、たとえ貴族であってもここで馬車を降りて、歩いて王宮まで向かうのだそうだ。

 庭を楽しんで貰おうという趣向なのだろうが、いかんせん距離が遠すぎる。


 たしかにとても美しくて、色合いも計算された庭だったけれど、あそこまで歩いていくとなるとなあ……。たまに海外の大金持ちの家にそういうところがあるけれど、普通は車で玄関まで行くもんだしなあ。


 1回や2回なら、物珍しさや、王宮に圧倒されて、たどり着くまでに緊張しながらも、王宮にいるということにテンションが上がるかも知れないが、何度も王宮に尋ねて来るとしたら、非常に迷惑な話だな……。


 俺たちの前を、門番の兵士とは別の従者が歩いている。その従者が、王宮の入り口の兵士に、俺の手渡した書状を見せて、ようやく王宮の入り口を開けて貰った。

「うわあ……。」

 正面から入るのは初めてだったが、ここまで豪華だったとは。


 真っ赤な絨毯のしかれた広いスペース。宝塚の大階段のような、2階から降りてこれる末広がりの金色の階段が左右にあって、その間の下に、奥に通じる扉のようなものがある。天井がばかみたいに高くて、白い壁に金色の装飾がほどこされ、天井近くの丸い窓から柔らかい光が注いでいる。


 階段の脇の巨大な窓はカーテンが閉められているのだが、なぜか窓の外にカーテンがかかっているかのように見える。二重窓なんだろうか?どういう作りなんだろうな。

 奥に通じる扉の上の2階には石像があり、その下に獅子と鷲と剣を描いたような、国旗のようなものが垂れ下がっていた。


「ここは天井が凄いんだぜ?」

 とエドモンドさんに言われて真上を見上げると、巨大な天井画が描かれている。

 まさに王宮。圧倒されるばかりだった。

 パトリシア王女やセレス様が非常に気さくだったこともあり、俺は普通に接していたのだが、改めて緊張してきたのだった。

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