第77話 本気のホットケーキと、煮干しとチーズと豆乳のホットケーキ
「おはよう、2人とも、昨日の夜はちゃんと眠れたか?」
「ピィイ!!」
「ピョル!」
2人は顔を上げると、ニッコリ笑って挨拶してくれた。手には積み木を持ったままだ。
「そうか、2人仲良く遊んでたんだな。今日は朝ごはんの前に、新しい作物を植えるつもりだから、2人とも手伝ってくれるか?」
「ピョル!」
「ピュイー!」
カイアもアエラキもやる気満々だな。
「じゃあ、まずは庭に行こうな。」
カイアとアエラキは手を繋いで庭に出る。可愛らしいなあ。すっかり仲良くなったみたいだ。
「今日はトウモロコシを植えるぞ。
ナスは苗を植えたけど、今日のトウモロコシは種から植えるからな。」
これは俺の父のやり方がそうだったから俺もそうというだけで、もちろん色んなやり方があるのだが、子どもの頃に覚えたやり方というのは、なかなか変えられないものだと思う。もちろん挑戦はしたいんだけどな。
ほんとはセルトレイを使って、発芽と間引きと、ポッドに植え替えをして、苗まで育てて、そこから土に植えるやり方と、種から植えるやり方じゃ、土の深さも違うし、苗からのほうが育てやすいらしいんだが、そこまで俺は手をかけなかったからな。
トウモロコシは苗になったら、深く植えた方が寒さにも強いし、苗からなら、春になる前に土に植えられるしなあ。
こっちでは時間があるんだし、そのやり方も試してみたいところではある。
「トウモロコシを植える時は、穴に種をまくんだぞ。」
そう言いながら、作っておいた畝3列の両端に、ナスの時と同じように、マルチフィルムの上から、30センチ幅をあけて、次々と穴を開けていく。
だいたいトウモロコシの列全体が、上から見て四角くなるような感じに植えると、どこから風が吹いていても、自然とヒゲに受粉しやすくなるし、隙間なく身が詰まったトウモロコシが出来る。
畝の長さは短くてもいいので、面積を広くした方がいいのだ。
「さあ、この穴に、それぞれ3〜4粒ずつ種をまいてくれな。」
俺はカイアとアエラキに、袋に入れたトウモロコシの種を渡した。2人が俺のあけた穴に上手に種をまいていく。
「おおー!!上手いじゃないか!」
「ピョル!」
「ピュイ!」
褒められたことが嬉しいのか、2人ともニコニコしながらどんどん種をまいていっている。あっという間に終わりそうだな。
「よし、あとは上から土をかけるだけだな。カイアは右半分の畝に土をかぶせておいてくれ。俺は左半分の畝をやるよ。アエラキは真ん中の畝の土で頼むな。」
3人で協力してトウモロコシの種に土をかけていく。土をかぶせたら、上から手で軽く土をおさえる。
あとは芽が出たら間引いて、大きくなるのを待つだけだ。苗になったら、穴のあいたマルチの部分や、マルチ全体に土をかぶせて重しにする。
成長点さえ埋めなければだいじょうぶなので、結構埋める。
風がマルチの穴の部分に当たると、マルチがはがれたり、苗が揺れて折れたり飛ばされたりするからな。
この工程1つでかなり育てやすくなる。ナスの時は農ポリでカバーをしたが、トウモロコシはよほど寒くなければマルチフィルムのみだ。
まだ夜霜が出来る時期なら、農ポリでカバーをして、その中に、パスライトという不織布を防寒対策にかけてやる。
トウモロコシは真夏で雨が少なすぎることがなければ、土にある水分だけでじゅうぶんなので、基本水やりをしない。
他の野菜に水をまく。じょうろに虹が出来て、カイアは自分で水をまいて虹を作りたがったのでやらせてあげた。アエラキはそれを見て嬉しそうに、ピョンピョンとカイアのまわりを飛び跳ねていた。
「疲れたろう。朝ごはんにしような。」
家に戻り2人の足を拭いてやる。
「ピョル!」
「ピュイー!」
2人もお腹が空いていたらしく、すぐにテーブルについた。こらこら、先にお手々を洗ってからだぞ?と言って一緒に手を洗った。
今日のメニューはホットケーキだ。前々から一緒に作ろうと、カイアと約束していたからな。本気のホットケーキと、くまさんのホットケーキの作り方の、栄養たっぷりホットケーキの、2種類を作るつもりだ。
薄力粉、ベーキングパウダー、卵、牛乳、豆乳、プレーンヨーグルト、チーズ、干しぶどう、煮干しの粉末、蜂蜜、グラニュー糖、レモン汁、サラダ油、キッチンペーパータオル、クッキングシートを準備した。
クッキングシートを、膨らませたいと思っている、ホットケーキの高さより、厚くなるよう切って、くるんと回して輪っかを作ってテープでとめる。
セルクル型が家にある人はそれでいい。
この時クッキングシートの断面は、自分で切った方を下にしないこと。ガタガタなので生地が漏れてしまうからな。
ボウルに水分や油なんかがついていると、味が変わったり膨らまなかったりするので、よく洗ってしっかり拭き取ってやる。
事前に薄力粉を170グラムに対して、ベーキングパウダーを8グラムを、合わせて粉ふるいで振るっておく。
卵黄と卵白に分けて、卵白を冷蔵庫で冷やしておく。メレンゲを作るつもりなので、卵白に卵黄が入るとできなくなってしまうからだ。卵白は4個分を冷やす。
また、牛乳が冷たくても膨らまないので、畑仕事の前に冷蔵庫から出して、常温に戻したものを入れてやる。これも大事なコツだ。
卵黄2個分と、それに対し、牛乳80ミリリットル、プレーンヨーグルト60グラム、蜂蜜10グラムを入れて、なめらかになるまで泡立て器でよく混ぜる。
そこにふるっておいた粉を、3回に分けてダマにならないよう丁寧に混ぜてやる。
次に卵白を冷蔵庫から取り出して、機械のハンドミキサーで混ぜてやる。これを手でやろうとすると相当な筋肉が必要になるので、絶対に機械の力に頼ったほうがいい。
グラニュー糖30グラムを3回に分けて入れる。グラニュー糖以外だとメレンゲがしぼむので絶対にグラニュー糖にする。
グラニュー糖を一気に入れても泡立ちにくくなるので、分けるのがコツだ。
レモン汁を小さじ1弱入れ、一気に混ぜてやる。長時間混ぜても泡が死ぬ。メレンゲは本当に繊細な食べ物だ。
混ぜておいた卵黄に、ゴムベラでひとすくいだけメレンゲを加えて手早く混ぜたら、残りを一気に全部入れて混ぜる。回数を分けすぎるとメレンゲが潰れるので、分けるのは最初だけだ。
ゴムベラは尖っているほうと丸い方があるので、丸い方を使うと混ぜやすい。
卵黄と卵白をわけて混ぜなくてもそれなりに膨らむが、白身が見える状態だと膨らまない。卵がサラサラになるまでよーく混ぜてやる。ケーキ、というだけあって、これをやらないと膨らまなくなるのだ。
あと牛乳が常温なこと。
それさえやれば、市販のホットケーキミックスでも、普通に混ぜて焼くより、ふわふわで分厚いホットケーキが楽しめるのだ。
そこに干しぶどうを混ぜた。母がよく作ってくれたやり方だ。
俺はそのままが好きなので普段あまりやらないが、干しぶどうが硬いと感じる人は、水を2〜3回変えながら、干しぶどうを15分程煮てやるといい。柔らかくなって食べやすくなるし、甘みもそんなに損なわれない。パンによく入ってるような感じになる。今回はふわふわさせる予定なのでそのやり方だ。
もう一つ、煮干しの粉末と、チーズ、牛乳のかわりに豆乳を入れた生地を作る。プロバレーボール選手が子どもの頃に食べていたものに、チーズを入れて牛乳を豆乳に変えただけのものだ。煮干しの粉末のせいで普通のホットケーキのように膨らまない。
チーズを幼児用にすれば、手づかみ食べの出来る年齢の子どもの離乳食にもなるやり方だ。他に水で柔らかく戻した海苔を入れてやってもいい。少しでも栄養を取らないとな。
フライパンを熱して一度水濡れふきんに乗せてさまし、熱を均等にさせる。
また火にかけて一番弱火にし、バターを入れて溶かす。サラダ油を使う場合は、余分な油をキッチンペーパータオルで拭き取ってやる。手作りセルクル型をフライパンの上に乗せて、その中に干しぶどう入りの生地を、最初にすこーしだけ流し込んでやる。
厚みと重みがないから、どうしても一気に流し込むと、下から漏れてくる量がおおくなってしまうんだよな。大体30秒くらい待って、下の部分の生地が少ーし固くなりだしたら、残りを流し込んでやる。
周囲にほんの少し、さし水を入れて、蓋をして10分間蒸し焼きにする。
水が蒸発したら、また追加で少し加える感じだ。一気に入れると生地に水が染み込むので、様子を見ながらやる必要がある。
表面を竹串などでツンツンしても、生地がついてこなければ裏返す合図だ。
フライ返しで裏返したら、手作りセルクル型を外して、再度さし水を入れて、5分蒸し焼きにする。セルクル型についた生地を洗うのが大変なので、俺はこのやり方が好きだ。
竹串をさして生地が付いてこなければ、ふわふわの本気のホットケーキの完成だ。
バター乗せてやって、うん、うまそうだ。
更に煮干しの粉入りを焼いていく。これは平たくするので絵本の焼き方にする。
ジュワーっと音がして、ゆっくり甘い匂いが広がる。表面にプツプツと水疱が出来る。
くまさんがホットケーキを作る絵本が大好きなカイアは、当然というか、ひっくり返すのをやりたがった。
フライ返しを持つカイアの手を、外側から覆うように手をそえて、一緒にホットケーキをひっくり返す。
まあ、平たくて表面積が大きい分、大体表面3分、裏面2分半ってとこか。一気にひっくり返すのがコツだ。
「ピョル!」
上手に出来てとても嬉しそうだった。それを見たアエラキも、カイアを乗せている椅子に、つま先立ちで前足を乗せて俺たちを見上げながら、ひっくり返すのをやりたがった。
「やってみるか?
ちょっと重たいから俺が手伝うぞ。」
出来上がったホットケーキをお皿に移したら、フライパンを熱しなおし、水濡れふきんに一度あてて、新しい生地を流し込み、プツプツと水疱が出来るのを待って、アエラキと一緒にフライ返しでひっくり返す。
「ピュイー!」
アエラキはカイアよりも更に力が弱かったが、それでも俺と一緒に上手にホットケーキをひっくり返すことが出来て喜んでいた。
海藻サラダと、余った卵黄と玉ねぎとキノコで作ったスープと、カイアの大好きなイチゴを準備して、2種類のホットケーキを1つのプレートに置いて、テーブルに並べる。
「いただきます。」
俺とカイアが両手を胸の前で合わせるのを見て、アエラキも真似をした。
アエラキはナイフをまだ上手に使えなかったので、俺がホットケーキを切ってやった。
「ピュイ!」
「ピョル!」
「美味しいな!」
2人はパクッと一口食べると、顔を見合わせて笑っていた。2人の笑顔を見ながら、幸せだなぁと思う。
オムツをしているし、アエラキはせいぜい1歳半くらいかなあと思っていたのだが、遊び食べも手掴み食べも、まったくしないところを見ると、もう2歳くらいだろうか?まあ人間基準だから精霊年齢は不明だが。
そしてカーバンクルの親御さんいわく、アエラキは男の子だそうだ。
朝食を終えたら、洗濯物を干す。カイアがお手伝いをしようとしてくれたので、靴下とタオルをつるすのを手伝って貰った。
カイアはいつも畳むのも手伝ってくれる。まだきれいには畳めないが、せっかくカイアが畳んでくれているので、そのままタンスにしまっている。
子どもの頃にいかにお手伝いをしたかで、将来職場で自主的に動けるかどうかが決まるからな、大事な成長過程だ。まあ、カイアがどこかに就職することはないと思うが。
「ありがとう!助かるよ。」
「ピョルル!」
得意げに笑う。可愛いな。
掃除や片付けをして、洗濯物とは別に、ベッドマットを、俺と子ども用ベッド、双方窓際に干して、すべてが終わった頃にはもう昼近かった。昼食を食べたら、また少しだけ庭に出て、追いかけっ子をしたりして遊んだ。
午後からは部屋の中で絵本を読んだり、おもちゃで遊ばせたりした。
そうこうしていると、家に誰かが尋ねてきた音がする。
「……誰だろうな?
2人は2階にいてくれな。」
俺はカイアとアエラキを抱き上げて、2階の寝室におろして扉を閉めると、1階に降りて玄関を開けた。扉の前に立っていた礼服を身に着けた男性は、王宮からの使いだと名乗って、リボンのついた書状を見せてくれた。
「ああ、ようやくいらしてくださったのですね、何度かお尋ねしたのですが、いらっしゃらなくて……。」
使いの方は、思わずほっとしたような笑顔を見せた。ああ、しばらく家をあけてしまっていたからなあ……。
「ああ、申し訳ありません、ちょっとパーティクル公爵家の依頼で、クエストでよその街に出ておりまして……。」
「パーティクル公爵家の……。そうだったのですね。明日、王宮にお越しいただきたいのですが、お願いできますでしょうか?」
使いの方が俺に、王宮からのリボンのついた書状を差し出したのでそれを受け取った。
「はい、問題ないとお伝え下さい。」
俺はうなずいてそう言った。
使いの方が帰ったあとで、リボンでしばられた書状を開いてみる。
「ああ、出来たんだな、ついに。」
そこには、コボルトの店用の店舗と、土地を購入するための、パトリシア王女の保証書類が完成したので、受け取りのために王宮におこし願いたいと書かれていた。
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