第76話 サニーレタスと水菜ときゅうりのチョレギサラダ、餅入り参鶏湯風スープ、イカとにんにくの芽の甘辛炒め
俺は家について扉を閉めると、カイアとアエラキをマジックバッグから出してやった。
「さあ、ここが新しいおうちだぞ。」
アエラキは興味深げにあたりを見回した。
「家の中を見てみるか?」
俺はアエラキに部屋をひとつひとつ案内してやった。
2階に上がろうとすると、アエラキが一階で上を見上げたまま、のぼろうとしない。
まだ階段をのぼれないのかな?カイアもゆっくりじゃないと登れないからなあ。
「よしよし、抱っこしてやろうな。」
俺はアエラキを抱き上げて一緒に2階に上がると、2階の部屋を見せてやった。
おかしいな、カイアがついてこない。
カイアがまだ1階に立ち止まったまま、しょんぼりと俺を見上げている。いつもなら俺についてすぐに階段を上がってくるのに。
赤ちゃん返りしちゃったのかな?
「アエラキ、ちょっとごめんな?」
俺はアエラキを床におろすと、階段を降りてカイアの前にしゃがんで両手を広げた。
「さあカイア、抱っこしてあげるから、お父さんと2階に行こうな。」
カイアは嬉しそうに、突進する勢いで俺に抱きついてきたので、それを受け止める。。
「──おっと。」
やっぱりそうみたいだ。俺はカイアを抱き上げて、一緒に2階に上がった。
階段に手すりでもつけようかなあ。
2人同時に抱えるとなると、両手が塞がるのは流石にのぼりにくいからな。
この大きさなら、2人を片腕に抱えることは可能だから、手すりにつかまりながら登ったほうが良さそうだ。
俺は2階に上がると、床の上で見上げてくるアエラキをうながして、寝室に入った。
「さあ、ご飯までまだ時間があるから、絵本でも読んであげような。」
俺は2人をベッドの脇に座らせて、絵本を取り出した。お風呂の嫌いな犬のお話だ。
泥とススだらけになったことで、家族に気付いて貰えなくて、さあどうする?という、ワクワクドキドキする物語だ。二人とも夢中になって絵本を見ていた。
「おもしろかったかな?」
「ピョル!」
「ピュイイ!」
言ってることは分からないが、2人が喜んでいることはなんとなく伝わった。世代も種族も関係なく、面白いってことが伝わるのは凄いことだよな。
長年読みつがれているだけのことはあるよなあ。アエラキは余程気に入ったのか、何度も絵本に触れてきたので、何度か同じ絵本を読んでやった。
「さて、俺はそろそろご飯を作るから、あとは2人で遊べるかな?
下に降りて積み木をしような。」
俺は2人を同時に抱き上げると、ソロソロと壁に手を触れて、落ちないように気を付けながら階段を降りた。
ダイニングキッチンの床の一角に、小さな絨毯をしいた場所の上に、カイアとアエラキをそっとおろしてやる。
カラーボックスにしまっている、積み木の入っているおもちゃ箱を出してやると、カイアが優しく自分の積み木をアエラキにも渡してあげている。カイアはそれから自分の分の積み木をおもちゃ箱の中から出して、楽しく遊び始めた。仲良く遊べそうだな。
「好きに遊んでて構わないからな。」
そう言って料理の支度を初めていると、ちょっと目を離した隙に、絨毯の上に座ったままのアエラキが泣いていた。
カイアは遊んでいる最中だったのだろう、それぞれの枝の手に積み木を持ったまま、困ったように俺を見上げてきた。
「──どうしたんだ?」
まあ、聞いたところで話せないから、事情がよく分からない。アエラキは目の前に、カイアに渡された積み木を置いたままだ。
カイアと同じ精霊とはいえ、動物タイプだから、遊んだりはしないのかな?
けど、絵本を読んで貰ったのは初めての筈だが、しっかり興味を示していたから、オモチャで遊ぶのに興味がないというわけでもないと思うんだが……。
ひょっとして遊び方が分からないのかな?
積み木は自由なおもちゃだからなあ。
俺も自由にしていいと言われると、困ってしまう子どもだったし、そういうことかも知れない。ちょっと遊び方を教えてみるか。
「積み木は色んな遊び方が出来るんだぞ?
例えばな。」
俺は積み木を並べて、形を作ってみせた。
「ほーら、お花だぞ。」
アエラキがちょっと興味を示したようだ。
「こうすると……。ほら。
カイアとアエラキだ。そっくりだろう?」
「ピョルル!ピョルル!」
「ピュイイ!」
カイアもアエラキも嬉しそうにしている。
「ピュイ!」
「ピョル?」
アエラキが何かをカイアに頼んだようだ。2人一緒になにやらゴソゴソと、ああでもないこうでもない、と積み木を動かしていた。
「ピュイイ!」
満足のいく仕上がりになったようだ。アエラキが俺の顔をチラリと見てくる。
「ひょっとして、俺の顔を作ってくれたのか?2人とも上手じゃないか!」
なんとなく、人の顔だと分かるように積み木が並べられていた。意図が伝わったのを、カイアもアエラキも嬉しそうにしている。
「ピョル!」
カイアが両手を振りながら、アエラキを重なっている積み木のところまで誘導する。
恐らく、一緒に作ろうとでも言ったのだろう。2人でなにやらまた作り出した。アエラキはようやく積み木で楽しく遊べるようになったようだった。
アエラキはいくつなんだろうな?オムツを履いているし、カイアよりも小さいのかも知れない。絵本の内容も考えないとなあ。
今度からはオモチャを出す時も、2人が楽しめる内容にしていこう。
俺はそんなことを考えながら、夕食の準備を続けた。
しかし何を食べるんだろうなあ?
お餅が気に入ったみたいだから、試しにお餅を使った料理にしてみるかな?
ウサギの体だから、野菜多めのほうがいいだろうか?肉は食べられるんだろうか?試しに少しだけ使ってみよう。
俺はサニーレタス、水菜、きゅうり、白菜、大根、人参、長ネギ、万能ネギ、冷凍イカ、冷凍のにんにくの芽、しょうが、鶏もも肉、手羽先を出し、胡麻油、麺つゆ、ニンニクチューブ、鶏がらスープの素、白炒り胡麻、焼海苔、醤油、塩、みりん、料理酒、蜂蜜、砂糖、黒胡椒、ウェイパーを用意した。
適当な大きさに切ったサニーレタスと水菜ときゅうりをそれぞれ1個の半分に対し、胡麻油を大さじ2、麺つゆ大さじ1、ニンニクチューブ小さじ1、鶏がらスープの素小さじ半分を、優しく混ぜ合わせたら、白炒り胡麻と、焼海苔を千切るか料理ハサミで切ったものを適量上に散らして、サニーレタスと水菜ときゅうりのチョレギサラダの完成だ。
麺つゆは醤油でも構わないが、その場合はお好みで砂糖を加えて欲しい。レタスを水洗いしたあとは、きっちりキッチンペーパーで水を切ったほうがいい。
ちなみにこれ、日本発祥の韓国風の料理だと知って驚いた。だから韓国海苔じゃなく普通の海苔を使うんだな。
ふと見ると、2人はいつの間にか寝てしまったようだった。色々あったから疲れたのかな。俺は2人をそっと抱き上げた。
このままでは風邪を引いてしまうかもしれない。俺は2人を抱き上げて2階に連れて行って、子ども用のベッドに寝かせ、布団をかけてやると、1人で1階に降りた。
さて、夕食の時間には起こさないとな。
続いて鍋に半分くらいまで水を入れ、強火にかけて沸騰させる。骨に沿って包丁で切り目を入れた手羽元6本に、塩と胡麻油を大さじ1揉み込んでから、鶏もも肉200グラムを4つに切ったものと、一緒に鍋に入れて下茹でをする。鶏肉の表面が白くなったら、ざるに上げて、流水で一度洗い流す。
手羽先は骨と身を分けて、骨は出汁こし布に入れて、一緒に鍋に戻す。
白菜はそぎ切り、大根と人参は銀杏切り、長ネギの白い部分は斜め切りにして鍋に入れ、万能ネギは小口切りにしておく。
ニンニクチューブを1センチくらい、ウェイパーを大さじ1、しょうが一欠片、料理酒150ミリリットル、長ネギの青い部分を1本分を入れ、塩小さじ1を入れ、具材が浸る程度の水を加えて中火にかけ、沸騰したら30分煮込む。
長ネギの青い部分と、手羽先の骨を出汁こし布ごと取りだして、一口サイズに切った餅を加えて更に20分煮込む。アクを取りたい人は取って貰っても構わない。
餅は焼いてから入れた方が崩れにくいが、今回は小さく切ったので後から入れた。餅の代わりに米でももちろん構わない。
煮えたら醤油と黒胡椒で味を調える。
最後に小口切りにした万能ネギを入れて、少ししんなりとしたら、餅入り参鶏湯風スープの完成だ。まあ、本来の参鶏湯は薬膳料理だから、あくまでも風、だけどな。
ニンニクの芽を一口大に切り、フライパンにゴマ油を大さじ1入れ、おろしたしょうがを小さじ1と、ニンニクチューブを大さじ2入れ、火にかけ風味を出したら、冷凍イカ300グラムと、冷凍のにんにくの芽ひとつかみを入れ、軽く炒める。
そこに、しょうゆ大さじ1、みりん大さじ2、コチュジャン大さじ1、はちみつ大さじ1、砂糖小さじ1をよく混ぜたものを、回しかけてさらに炒める。
最後に白炒り胡麻を振りかけたら、イカとにんにくの芽の甘辛炒めの出来上がりだ。
甘辛いので意外と子どもも食べられる。
今日のご飯はサニーレタスと水菜ときゅうりのチョレギサラダ、餅入り参鶏湯風スープ、イカとにんにくの芽の甘辛炒めだ。野菜たっぷりなので、栄養満点だぞ。
煮込むのに時間がかかるから、2人が起きるまで、ゆっくり待とうかなと思ったが、全然起きてくる気配がなかった。
仕方がないので2階に起こしに行く。
「2人とも起きろ。ご飯出来たぞ?」
「ピョルゥ。」
「ピュイィ。」
そっと2人の体を揺すってやると、どうやら目を覚ましたらしい。
「起きたなら下に降りるぞ。
ちゃんとお腹空いてるか?」
コクリコクリと首を振る2人を抱き上げると、俺は1階に降りていった。
1階のテーブルの上には、既にお皿に盛った食事が用意されている。
「よし、じゃあ食べような。
いただきます。」
「ピョル!」
「ピューイ!」
まずはスープからかな?
テーブルを見つめたままのアエラキに、スプーンを持たせてあげる。
普段はカラトリーなんて使わないんだろうからなあ。餅入り中華わかめスープを飲めたんだから、カラトリーを使えるみたいではあるが。
「熱くないから大丈夫だぞ。」
「ピー……」
アエラキは恐る恐るという感じだったが、一口飲むとすぐに気に入ったようで、ガツガツと飲み始めた。
「美味しいよな。
いっぱい飲んで大きくなれよ。」
「ピィッ!!」
「ちゃんと全部飲めたな。えらいぞ。」
「ピィ〜」
アエラキがちょっと照れたように笑っている。カイアも空っぽになった自分のお皿を俺に見せてきたので、えらいぞ、と褒めた。カイアも嬉しそうだった。
ご飯を食べ終わると、食器を片付けてお風呂の時間だ。
カイアもアエラキもまだ、自分でお湯に浸かれるほどの大きさではないので、俺が手伝ってやる必要がある。
カイアは自分でお湯を体にかけることも出来るし、俺を手伝ってもくれるが、アエラキはお風呂自体初めてかも知れないな。
「先に体を洗ってやるからな。
こっちに来てくれ。」
アエラキは少し不思議そうな顔をしていたが、大人しく俺の前にやってきた。
「ピュイイ……!?︎」
お湯をかけてやると、アエラキは突然びっくりした声を出した。
「どうした?どこか痛いところがあるのか?それとも熱かったか?」
「ピュイイ!」
どうやら違うらしい。
「──どうしたんだ?怖くなったのか?」
「ピュイ……」
ああ、お風呂に入ったことがないから、水が苦手なのかな?
「水が苦手なら無理しなくてもいいぞ、急にかけちまってごめんな?」
カイアも心配そうにアエラキを見ている。
「ピュイ……。」
しばらくすると、アエラキも落ち着いたようだ。
「もう平気そうだな。次は頭と体を洗うぞ。目を閉じてくれよ?」
「ピュイ!」
アエラキの体を洗い終わってお湯をかけてやると、今度は気持ちが良さそうに目を閉じていた。
カイアは樹木の精霊だからか、最初から別に水を怖がらなかったんだよな。実家の猫も子猫の時から入れてやってる子は風呂好きだし、慣れれば気持ちいいんだよな。
「綺麗になったな。よく頑張ったな!」
褒めてあげながら頭を撫でてやると、嬉しそうにしていた。
「よし、じゃあ最後にこれに入るぞ!」
俺は浴槽に2人を抱えて入れてやった。
「ピョル〜。」
「ピィッ!ピィーー!」
アエラキは驚いている様子だが、カイアは喜んで泳ぐように体を動かしている。
「2人とも、お湯の中に入ると体が浮かぶだろう?それが楽しいんだよな。」
「ピョル!」
「ピュイイ♪」
アエラキは最初はおっかなびっくりしていたが、最終的には2人とも楽しんでくれたようで何よりだ。
こうしてアエラキを我が家に迎えての最初の1日が終わった。明日はアエラキも畑作りをやらせてみようかな?カイアは楽しそうにしていたし、アエラキも喜んでくれるかも知れない。
カイアも毎日遊べるお友だちが出来て良かったな。明日もたくさん遊ぼうな。
子ども用のベッドに寝かせようとしたのだが、カイアが俺と一緒に寝たがったので、アエラキと2人まとめて俺のベッドで寝ることにした。まあ、どうせ別に寝かせても朝になると潜り込んでくるわけなんだが、寝返りで潰してしまいそうで怖いんだよな。
──次の日の朝、目が覚めると腕の中にいたはずの2人が居なかった。
「ん……?あれ?
どこに行ったんだ?」
目をこすりながら1階に降りると、既にカイアとアエラキの2人で、楽しそうに積み木で遊んでいたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます