第49話 トウモロコシご飯のリメイクオムライス、星形ハッシュドポテト、厚切りハムのスライスチーズ巻き、にんじんの豚肉巻き
俺は朝から弁当作りに精を出していた。
卵、豚の薄切り肉、玉ねぎ、じゃがいも、ピーマン、にんじん、厚切りのハム、スライスチーズ、(かぼちゃ、チーズinソーセージ、紅白カマボコ、黒ごま、揚げパスタ)、を出した。()の中は前に作ったレシピの材料だ。
昨日のトウモロコシご飯、醤油、塩、こしょう、みりん、トマトケチャップ、バター、顆粒のコンソメ、片栗粉、サラダ油、(酒、砂糖、顆粒出汁の素)、卵焼き器、マッシャー、クッキーの星形の型抜き、ラップ、可愛らしいピック、(爪楊枝)、キッチンペーパータオルを用意した。
まずは皮をむいたじゃがいも3個を一口大に切って、耐熱皿に入れてふんわりとラップをかけ、700Wで5分加熱する。
その間に昨日作ったトウモロコシご飯の、リメイクオムライスだ。
玉ねぎ、ピーマンを細かく切ってバターで炒め、塩、こしょうを少々に、トマトケチャップを大さじ4加えて更に混ぜる。
卵焼き器で味付けをしない薄焼き卵を作って、その上に味付けを加えたトウモロコシご飯を乗せたら、ラップで巻き寿司を作る要領でくるくると巻いてやり、形を整えたら、両サイドをカットして、一口大に切ってやる。
そのまま出してもケーキみたいで可愛いんだが、お弁当に入れるからな。
弁当箱につめて、上にチョコンとトマトケチャップを添える。
鶏肉やソーセージを入れないのは、カットする時に切りづらくて邪魔になるからだ。
入れたい人は入れてもらって構わない。
オムライスの余った端っこをつまみ食い。うん、いい出来だな。
デコ弁なんて作れないが、せめて少しでもカイアが見て喜ぶ見た目の弁当にしたい。
加熱されたじゃがいもを電子レンジから取り出したら、熱いうちにマッシャーで潰し、塩、こしょうを少々と、顆粒のコンソメを小さじに半分くらい、片栗粉を大さじ1加えて混ぜ合わせる。
ラップをしいた上にマッシュしたじゃがいもをのせ、更にラップをかぶせて挟んでやって、麺棒で平たく伸ばしていく。
アーリーちゃんとクッキーを作った時の型抜きを使って、じゃがいもを星形にくり抜いたら、フライパンにサラダ油を、じゃがいもと同じ厚さになるよう入れて、170℃〜180℃で揚げ焼きにし、キッチンペーパータオルで油を切って冷ましたら、星形ハッシュドポテトの完成だ。
作ってしまってから、生クリームか牛乳を加えるレシピのほうが、子どもウケが良かったかなあと考えたが、お弁当だからあんまり持ちが悪いかも知れないし、やっぱりこれで良かったか、と思い直した。
続いて厚切りハムの上にスライスチーズを重ねて、端からくるくる巻いて、可愛らしいピックを均等に刺してやり、お好みの大きさにカットしたらハムのスライスチーズ巻きの完成だ。簡単だが見た目が綺麗で味も美味しい。切ってから刺しても別にいい。
にんじんを1本を細切りにして、耐熱容器に広げて入れてバターを少し乗せたら、700Wで、厚く重ねるなら3分、薄く広げるなら30秒加熱し、汁が出たら絞ってやる。
豚の薄切り肉に塩を少々振ったら、にんじんを乗せて巻いて片栗粉を少々まぶす。
フライパンにサラダ油を入れて熱したら、豚肉に火が通るように焼いてやる。
醤油小さじ2、みりん大さじ1、水大さじ2を加えて煮詰めていく。味が馴染んだら食べやすい大きさにカットして、にんじんの豚肉巻きの完成だ。
更にパトリシア王女の時に作った、亀と葉っぱのかぼちゃの煮つけ、チーズinウインナーの鳥、紅白かまぼこのうさぎを作る。
かなりきれいな彩りかつ、子どもが喜んでくれて、栄養満点のお弁当が出来たんじゃないかな?と自画自賛する。
俺が弁当を詰めていると、カイアが起きてきて、2階からゆっくり階段を降りてきた。
いい匂いにつられて、俺が詰めている弁当が気になっているらしい。
「これはお昼に食べるんだ。
昼飯をたっぷり食べるから、朝ごはんは軽く済ませような。」
そう言って、既に用意しておいた、豆腐とワカメの味噌汁、鮭の切身の焼いたもの、納豆、味のり、卵焼き、ほうれん草のおひたしで朝ごはんを済ませる。
「さあ、ピクニックに行こう。」
お弁当とカイアをマジックバッグに入れ、近くの山まで出発した。
山道の入り口で、カイアをマジックバッグから出してやる。
「そんなにきつくない坂道だけど、大変だったらおぶってあげるから言うんだぞ。」
俺にとってはそこまで急な道ではないが、小さいカイアにとっては大変だろう。
俺はカイアのペースに合わせて、ゆっくりと山道を登っていく。
カイアは山道に生えている草花が気になるようだった。
元いた森には生えていなかった植物ばかりだものな。
植物同士は会話を出来るというが、カイアも出来るんだろうか?じっと花を見つめているけど、何か話しているんだろうか?
そんな風に考えると、なんだかとても微笑ましく思う。何の花か教えてやれたらなあ。
この山は以前俺が魔物を出して倒すのに何度か使った山で、冒険者ギルドからも危険な魔物が出ないと言われている山だ。
開けた場所があるのでそこまで登るつもりなのだが、半分くらい登ったところで、カイアがだんだんへばりだした。
「少し休憩しようか。」
俺は水を出してカイアに飲ませ、自分も飲んだ。心地いい風が頬を撫でて、天気もいいし、絶好のピクニック日和だな。
少し休憩すると、カイアがまた山の頂上目指してゆっくりと歩き出した。
「いけるところまで頑張るのか?
よし、無理せず頑張ってみような。」
しかしまただんだんと、更にカイアの山を登るペースがゆっくりになっていく。
「おんぶするか?カイア。」
カイアは首を、というか首がないので体を振った。この仕草がとても可愛い。
「カイアは頑張り屋さんだな。
でも本当に辛かったら無理せず休もうな?
後少しで目的の場所だけど、疲れてお弁当が食べられなかったら意味ないからな。」
カイアはこっくりとうなずいて、ゆっくりと山を登っていく。
こういう経験も大事だな、自分で何かを成し遂げた、という感覚は、子どもを成長させる。カイアが頑張りたいうちは、もう少し様子をみるか。
カイアはなんと、とうとう最後まで1人で山を登りきった。
「凄いぞカイア!」
俺はてっきり半分くらいのところでおんぶするだろうと思っていたので、カイアの成長にびっくりした。カイアは登りきれたことがとても嬉しそうだった。
「疲れただろう。少し遊んだらお弁当にしような。」
この開けた場所には、シロツメクサのような植物が生えている。
食べられないので名前は分からない。
俺の能力は食材に特化しているからな。
俺はそれを摘み取って、王冠の作り方をカイアに教えてやることにした。
長めの茎を2本交差させ、上の茎をくるっと下の茎に巻きつける。巻き付けた茎が一番上にくるようにしてまとめて持ったら、次も同じ手順で上に置き、くるっと巻き付け、新しい茎が一番上になるようにまとめる。これをずっと繰り返してやるだけだ。
「昔お父さんのお母さんに、作ってプレゼントしてあげたことがあるんだ。」
カイアもシロツメクサもどきを集めるのを手伝ってくれる。適当な長さまで編んだら、最初の花を最後のまとめた茎の上に乗せて、茎をまとめる用の花を別に用意し、繋げて結んでいき、余った茎を隙間に埋めて目立たないようにすれば、シロツメクサもどきの王冠の完成だ。
俺はそれをカイアの頭に乗せてやった。
「似合うぞカイア。」
笑顔の俺に、カイアもニッコリと微笑む。
昔俺はこれを父親から教わった。その遊びを、今カイアに教えてやっている。
なんだか感慨深いなあ。
王様の王冠にも見えるし、お姫様のティアラにも見える。シロツメクサもどきの王冠をつけたカイアはとても可愛かった。
「さあお弁当にしよう。」
俺はブルーシートを広げて、その上に弁当を広げた。
トウモロコシご飯のリメイクオムライス、星形ハッシュドポテト、厚切りハムのスライスチーズ巻き、にんじんの豚肉巻き、亀と葉っぱのかぼちゃの煮つけ、チーズinウインナーの鳥、紅白かまぼこのうさぎ。ミニトマトとナスとエリンギの中華マリネサラダ。
それをキラキラした目で見つめるカイア。
「きれいだろう?お父さん頑張ったんだ。
さあ、一緒に食べような。」
携帯用おしぼりで手を拭いてやって、一緒にお弁当を食べる。
カイアはどれも嬉しそうに食べた。
俺もそれを見て嬉しくなる。
早起きしたこともあって、お弁当を食べたら少し眠たくなってきてしまった。
俺はブルーシートの上に寝転んだ。
するとカイアは1人でごそごそとブルーシートを出ていく。
「カイア、1人であんまり遠くにいったら駄目だぞ、遊んでもいいけど、お父さんが見える場所で遊びなさい。」
カイアはこっくりうなずくと、俺に背を向けて何やらモゾモゾやっている。
ちらりと見ると、どうやら先程教えたシロツメクサの王冠を作っているらしい。
ちらっと俺を振り返ると、俺が見ていることに気が付いて、慌ててそれを隠す。
慌てるところを見ると、俺に隠れて俺にくれる為の王冠を作ってくれているらしい。
これは知らんぷりしてたほうが良さそうだな。俺はカイアに背を向けて横になった。
俺に気付かれていないと思っているカイアが可愛くてたまらない。
どれくらい経ったのだろう、少しうとうとし始めた頃だった。ザザザザッと何やら音がしたかと思うと、バキバキバキッと木の枝が折れる音がして俺は飛び起きた。
「──カイア!!!」
作りかけのシロツメクサもどきの王冠を手にしたまま、立ち尽くしているカイアの目の前に、数体の灰色の巨大なミミズのような魔物が、流しの菊割れゴムの蓋のような口を広げて迫っているではないか。
俺は慌ててオリハルコン銃ではなく、使い慣れたライフル銃を取り出して、オリハルコン弾をつめて狙撃した。
紫色の体液をぶちまけながら、灰色の巨大ミミズがのたうち回るが、まだ死にそうにない。カイアが泣きながら俺の方に走ってくるが、いかんせん足が遅い。
やれることは3〜4歳児くらいのカイアだが、体の大きさは1〜2歳児と変わらない。
走るのと歩くのが殆ど変わらない速度だ。
慌てて根っこが絡まってカイアが転んでしまう。すぐ真後ろに巨大ミミズが迫る。
俺は狙撃を繰り返しながら、カイアに駆け寄ると、カイアと、カイアの作りかけのシロツメクサもどきの王冠を掴みあげた。
「中に入ってるんだ、カイア。」
俺はカイアと、カイアの作りかけのシロツメクサもどきの王冠をマジックバッグに入れると、改めてオリハルコン銃を取り出して、灰色の巨大ミミズにオリハルコン弾をぶち込んだ。1体の巨大ミミズが倒れる。
「──そうだ、そういや、こいつを試す為に来たんだったな。」
俺はマジックバッグから魔法陣を数枚取り出すと、巨大ミミズに向けた。
「よくもカイアの楽しい思い出を汚してくれたな。──フォティアカーフシ!」
呪文を唱える。魔法陣すべてから炎が飛び出したかと思うと、巨大ミミズ数体を包み込んで、一気に巨大な炎となって燃え盛る。
天に向かって燃え広がる巨大な炎は、不思議なことに、足元のシロツメクサもどきなどの草にも、後ろの木にも火が燃え移らない。
対象物のみを燃やす炎なのか?
凄いな、魔法ってのは。
炎が巨大ミミズを焼き尽くすと、紫色の液体の詰まった瓶のようなものが5つと、魔石が落ちていた。
俺はそれを拾ってマジックバッグに入れると、ブルーシートをしまって急いで山をおりて、報告の為に冒険者ギルドへと向かった。
「近くの山に、こんなものを落とす魔物がわいたんですが。」
俺の差し出した、紫色の液体のつまった瓶に、冒険者ギルドの受付嬢の顔色が変わる。
「これはワームのドロップアイテムです。
人を食べる凶暴な魔物です。
早速山に調査クエストを依頼します。」
「はい、お願いします。」
安全な筈の近所の山に、そんな危険な魔物がわくだなんて、この間依頼された調査とも関係しているのだろうか。
やはり勇者と聖女が現れないから、どんどん凶暴な魔物が増えているのだろうか……。
俺は心に引っかかりを感じながらも、家に戻ってカイアをマジックバッグから出してやった。カイアはまだ泣いていた。
「もう大丈夫だ、ここはおうちだぞ?」
カイアが泣きながら俺に抱きついてくる。
「よしよし、怖かったな。ごめんな、安全な場所だと思ってお前を連れて行ったのに。」
俺はしばらくカイアが落ち着くまで、抱っこして背中を撫でてやった。
カイアがようやく落ち着いた。
「お父さんはお仕事の続きをするから、カイアは1人で遊んでられるか?」
と尋ねた。カイアはこっくりとうなずく。
俺は2階の部屋に行き、別の魔法陣をスキャンして汚れを消す作業を開始した。
しばらくすると、コツコツとドアを叩く音がする。ドアを開けると、カイアがもじもじしながら、後ろに枝の手を隠すようにして俺を見上げている。
俺にはその理由が分かっていた。ふふふ、と笑い出しそうになるのをこらえながら、
「どうしたんだ?カイア。」
とカイアの目線にしゃがみこんで尋ねた。
俺はカイアの作りかけのシロツメクサもどきの王冠を椅子の上に置き、最初にカイアの寝床に出してやった植木鉢に、シロツメクサもどきをこっそりはやしておいたのだ。
それに気付いたカイアが、今の時間で頑張って作ったのだろう、後ろに隠していた王冠を出して、俺の頭にそっと乗せてくれる。
「お父さんにくれるのか?凄い上手じゃないか!ありがとうな、カイア。」
俺はカイアをそっと抱き上げて抱きしめてやる。カイアが俺に抱きついてくる。
「──今日は楽しかったか?カイア。」
これでさっきの怖い思いが、少しでも消えてくれていればいいが。
カイアは嬉しそうにニコーッと笑った。
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