第48話 トウモロコシご飯、ミニトマトとナスとエリンギの中華マリネサラダ
俺は自宅に戻ると、カイアをマジックバッグから出してやった。
「カイア、夕飯までまだ時間があるから、お父さんはこれからお仕事をするから、少し1人で遊んでいてくれるか?」
そう話しかけると、カイアは不思議そうにしながらも、こっくりとうなずいた。
俺は自室に入ると、パソコンと、スキャナープリンターと、最近のプリンターはUSBケーブルがついてないことも多いから、USBケーブルも出して、パソコンとスキャナープリンターをコンセントにつなぎ、パソコンとスキャナープリンターを直接つないだ。
発電機から2階に電気が来るよう、既に配線を済ませてあるのだ。電気を使う量も増えたので、発電機の数も増やしてある。
冬が厳しい場合、暖房はストーブでいいと思っていたが、カイアがいるからエアコンを出す予定で増やしたのだ。危ないからな。
パソコンを出す際、俺はソフトが既にプリインストールされているのをイメージして出した。自宅で使っていたのと同じ仕様だ。
なぜかって?
ソフトを別に出していちいちインストールした場合、インターネット認証か、電話認証を求められるからだ。
インターネットも電話も当然ない。何度も認証を要求してくるポップアップが出る程度なら、ちょっと鬱陶しいくらいで済むが、ソフトによっては一ヶ月以内に認証しないと一生使えなくなるものも存在する。
だったら最初からプリインストールされてセットアップ済みのものを出すに限るのだ。
月額料金タイプなんて最悪だしな。
ソフト単体の場合は、他のパソコンに買い替えた際にも、認証し直せば使えるが、セットアップ済みのものの場合は、一台だけにしかインストール出来ない代わりに、パソコンの代金に込みで安くソフトが使えたりする。オフィスソフトがその代表例だ。
俺が使いたいのは、今のところ、イラストレーター、フォトショップ、書き出しの出来るPDFのみなので、それをイメージして出したところ、インデザインやら色々セット版をプリインストールされたものが出てきた。
まあ俺はクォークとインデザインも使えるし、別にあっても困らないからいいか。
問題はイラストレーターとフォトショップは、バージョンが違うと仕様がまるでことなる部分があったり、互換性が低くてデータがおかしくなることだが、ちゃんと普段使っているのと同じものがプリインストールされていたので安心した。
俺は早速魔法陣の描き方の本をマジックバッグから取り出し、フォトショップにスキャナープリンターで読み込んだ、魔法陣の画像を出して、魔法陣の円の周囲をごっそり範囲選択して削除してから、モノクロ2階調に変更し、拡大して魔法陣の内側の汚れを丁寧に消していった。
どうしても取り込む際に、本のシワとか汚れとか、スキャナーの汚れを読むんだよな。どれだけ綺麗に拭いても、たとえ新品でも。
別に中も選択して消してしまってもいいのだが、文字の尖った部分なんかも、削除されてしまったら面倒臭い。
パスを切って範囲選択しても、絶対に余計なところが残ったり、余計なところを取ってしまうものなのだ。取り込んだ画像を印刷するのでは駄目なら、これをイラストレーターに取り込んで貼って、下絵にしてパスで描けば、流石に俺が作ったことになるだろう。
俺が作業を続けていると、何やら階段を登ってくる音がする。多分カイアだろう。
退屈になっちゃったのかな?
俺が内開きのドアをそっと開けて廊下を覗くと、カイアの顔が階段のてっぺんから覗いて見える。
おれはしゃがんで、一度ドアを閉じてまたそっと開けると、カイアが階段を上がりきって、少しだけこちらに近付いて来ていた。
更にドアを閉じてまたそっと開けると、カイアが更に少しだけこちらに近付いてきている。まるで、だるまさんがころんだだ。
俺と遊んでるつもりなのか、気付かれないように近付いているつもりなのか、どちらなのかが分からないが、黒目でいっぱいの可愛らしい目をしたカイアが、少しずつこちらに近付いてくる姿が可愛すぎる。
俺はわざとドアをしめて、またドアをあけて廊下を覗いた。
ドアを閉めて開けて覗くたびに、少しずつこちらに近付いてくるカイア。
ついには俺の顔の目の前に、カイアの顔が来るところまで近付いた時点で、俺は思わずフハッと吹き出してしまった。
なんて世界一かわいい、だるまさんがころんだなんだろうか。
本人は真面目にそっと近付いていたつもりだったのか、笑う俺に不思議そうな表情を向けたあと、なぜ笑われているのか、少し不満げな顔になった。
「すまんすまん、カイアがあんまりにも、かわいすぎたんだ。お父さん、カイアのかわいさに耐えられなかったぞ?」
俺は思わずカイアを抱き上げて、そっと抱きしめた。俺が喜んでいるのが分かって、カイアも嬉しそうに抱きついてくる。
「お仕事の邪魔しないなら、お父さんと一緒にいるか?」
俺はそう言ってカイアを部屋に入れ、膝の上に座らせた。
カイアは俺の作業を興味深げに見ていた。
「今はな、魔法陣、っていうのを作ってるんだ。家の柱にもこの間作った、同じようなのが貼ってあるだろう?
これをたくさん作れないか試してみてるところなんだ。お父さんはカイアと違って魔法が使えないけど、これがあれば使えるようになるかも知れないんだよ。」
カイアが俺の顔を見上げる。
「ん?やってみたいのか?
これはお父さんの大事なやつだからな、やるなら、お父さんと一緒に、ちょっとだけやってみようか。」
俺はカイアの枝の手に重ねるようにマウスを持って、消しゴムツールで魔法陣の内側の汚れを消していく。
「おお、上手だぞ、カイア、」
カイアは嬉しそうにもっとやりたがった。
消しても大きなトラブルにならなそうな、白の面積の広いところのゴミを、一緒に消していく。
「ほーら、きれいになったな。
こうやって、全部の汚れを消して、本の魔法陣と同じものを再現していくんだ。」
広い場所の汚れをカイアと一緒に消したあと、いったん保存してから、
「ここは細かいからお父さんがやるな。」
と言って、文字の周辺の消え残りを、文字を消さないように消していく。
今回俺が選んだのは、火魔法の使える魔法陣だ。文字や円が少ないので、作業が一番やりやすいからという理由だ。
まずは作りやすい魔法陣で試してみて、これを清められた紙に、ミスティさんが作ってくれた魔導具で魔力を込めた、インクカートリッジを使って魔法陣を印刷したら、どこか人のいないところで試してみて、それで問題なく魔法が使えるようなら、自分で魔法が使える魔法陣を量産出来るのだ。
そう考えると地味な作業も楽しかった。
「よし、綺麗に出来たな。」
画像扱いで駄目なら、インデザインに貼って書類扱いにしてみて、それでも駄目ならイラストレーターで、これを下書きにして作るしかない。それでも駄目なら、初めて無属性の魔法使いを探してみよう。
俺はマジックバッグから、ミスティさんが作ってくれた、無属性魔法を付与出来る魔導具を取り出すと、黒のカートリッジを中に入れた。ボタンを押すと小さく音がして光を放ち、それが消える。これで無属性魔法の魔力付与完了だとミスティさんは言っていた。
さて、問題は紙なんだよな。清められた紙は、日頃使っているようなしっかりした均等な厚みの紙じゃなく、どこか和紙のように均等じゃなく薄い箇所があったりする代物だ。これをきちんとプリンターが巻き取ってくれるのかどうか。
紙は一枚だけ入れると、引っかかって逆に出てこなかったりするので、ある程度枚数を入れる必要がある。俺は清められた紙を100枚出してプリンターの給紙トレイの引き出しをあけ、中におさめた。のだが。
「これ……、A4でもB5でもないな。」
現代の規格で作られていないのか、用紙のサイズを合わせる部分にピッタリと合わないのだ。仕方がなく定規を出して縦横の長さを図る。縦が250センチで横が200センチだった。このスキャナープリンターは不定形サイズの紙でも印刷出来るので、手差し印刷の蓋をあけてそこに紙を置く。
定形外を印刷するのに、プリンタードライバーを、いちいちネットからダウンロードして登録するタイプのバージョンでなくて良かった。パソコンから出し直しになっちまう。
俺はインデザインに画像を貼って、ドキュメント設定のレイアウト調整から、用紙の幅と高さの値を変更した。
無属性の魔力の込められた黒のインクカートリッジと、それ以外の色のカートリッジをプリンターにセットする。他の色は別に必要ないのだが、入っていないとプリンターが反応しないから入れる必要があるのだ。
印刷指定で手差しトレイを選択して、モノクロを指定し印刷を開始する。
ここでカラーを選択すると、魔力の込められていない他のカラーのカートリッジまで反応して、すべての色を使用した状態で、フルカラーの黒色印刷が出て来てしまうので要注意だ。魔力の込められたインクの量が減る。
無事にスキャナープリンターが紙を吸い込んでいき、印刷された紙がはきだされた。
同じようにモノクロ印刷で10枚魔法陣を印刷する。複数試してみないことには、必ず発動するかの不安があるからだ。
「よし……。あとは人のいないところで使ってみて、魔法が発動するようなら、これを大量に印刷しよう。」
俺はインデザインで作ったデータを保存して、パソコンの電源を落とした。
「よし、そろそろ夜ご飯にするか。
カイア、明日はお父さんとお山にピクニックに行こうな。」
俺としては山で魔法陣を試すつもりで言ったのだが、カイアが嬉しそうに両枝を振ってぴょんぴょん跳ねるので、これはお弁当も頑張るしかないな、と思った。
まずは夕飯だな。
栄養バランスの為に、使う食材の種類を考え、俺は唐揚げの材料、白菜、ワカメ、油揚げ、トウモロコシ、ミニトマト、ナス、エリンギ、小ネギ、生姜を出して、ゴマ油、鶏ガラスープの素、レモン汁、醤油、塩、砂糖、味噌、バター、無洗米、白炒り胡麻、おろし金、ボウル、キッチンペーパータオルを用意した。
トウモロコシ2本分の粒を生の状態で芯から外していく。はずし辛ければ包丁を使う。この時芯は捨てずにとっておく。
炊飯器に米4合を入れ、炊く米の量に合わせた水を加え、醤油小さじ1と塩少々、バター大さじ2を入れたら、上にトウモロコシの粒、トウモロコシの芯の順に上に重ねる。ちなみに俺はちょっと硬めが好きだ。
炊きあがったらトウモロコシの芯を除いて混ぜてやり、お茶碗に盛ったらトウモロコシご飯の出来上がりだ。
トウモロコシは芯にも栄養と旨味が詰まっているので、一緒に炊くのがコツである。今ぐらいから夏の間に出てくるご飯だ。
ミニトマトを60個、ヘタを取って半分に切り、ナスは6本、半月切りにして水にさらしておく。エリンギ6本は拍子木切りといって、縦長の四角錐の形に切る。
ちなみに常備菜分も合わせて作っているので、家族4人なら今の3分の1の量でいい。
ボウルに鶏ガラスープの素を大さじ1入れて、同量の熱湯で溶いたら、レモン汁を大さじ6、醤油を大さじ4、砂糖大さじ2、生姜をすりおろしたものを大さじ6加えて混ぜ合わせ、ミニトマトを加えてあえて味を馴染ませておく。
ちなみに生姜チューブを使う場合、風味が落ちると感じる人は、1.25倍くらい多めに使った方が風味が落ちない。
まあ、俺はそこまで気にしないが。
フライパンを中火で熱し、ゴマ油を大さじ12加え、キッチンペーパータオルで水気を切ったナスを焼いていく。
一度ナスが油を吸うのだが、それが再び出てくる状態になったら、キッチンペーパータオルで(なくてもいいが)軽くナスの油を切って、馴染ませておいたミニトマトのボウルの中に加えて混ぜる。
この時フライパンにゴマ油を残しておく。
フライパンに残ったゴマ油で、エリンギを炒めたあとに、ゴマ油を切って、ミニトマトとナスのボウルに加えて、白炒り胡麻を大さじ2と、小ねぎを適量加えて混ぜ、粗熱が取れたら、今日食べる分の6分の1の量を、10分冷凍庫に入れたあと、残りとともに冷蔵庫に入れて冷やしてやる。
これでミニトマトとナスとエリンギの中華マリネサラダの完成だ。
本当は一晩くらい冷やして、味をしっかり馴染ませたいのだが、まあ残りを常備菜にする予定だから、本当の味は明日以降楽しむということにして、今日の分は今日の分として食べよう。それはそれで美味しいしな。
彩りも綺麗だし、明日のお弁当にも入れるつもりだ。
大葉を加えて、鶏ガラスープの代わりにポン酢を入れてもうまい。その場合砂糖とレモン汁は加えない。次はそれにするかな。
俺は最後に唐揚げを作って、白菜とワカメと油揚げの味噌汁を作った。
今日の夕飯は、トウモロコシご飯、ミニトマトとナスとエリンギの中華マリネサラダ、唐揚げ、白菜とワカメと油揚げの味噌汁、常備菜の切り干し大根の煮物だ。カイアは喜んでくれるかな。
炊飯器の蓋をあけ、中からトウモロコシの芯をとりのぞき、炊きあがった米をしゃもじでかき混ぜていると、カイアがやりたがったのでやらせてやったが、米の量が多くて重たすぎるのか、なかなかひっくり返らなかった。手を添えて一緒にかき混ぜてやる。
きれいなトウモロコシご飯に、カイアの目がキラキラする。
テーブルに料理を並べて一緒にいただきますをする。トウモロコシご飯は、トウモロコシの粒のプチプチとした食感が食べていて楽しく、甘さが美味しい炊き込みご飯だ。
カイアも気に入ってくれたようで楽しそうに食べている。うん、マリネも短い時間の割にしっかり味がしみているな。
たくさん食材を使ったが、子どもに一日3食の中で50品目食べさせるって、やっぱり難しいよなあ。子どもの食べられる味で考えないといけないし。
楽しく夕食を取りながら、明日のお弁当は何を作ってやろうかなあと、既に考えている俺だった。
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