第47話 驚愕の売上
「やあ、ジョージじゃないか、ちょうどよかった、お前さんに報告したいことがあったんだ。」
ルピラス商会にいくと、今日は無事エドモンドさんがいて、笑顔で両手を広げながら俺を出迎えてくれた。
「すみません、俺も伝えたいことがあって来ました。」
「なんだ?先に聞こうか。」
「コボルトの集落で、お茶や食器を仕入れてきたのに、お渡しするのをすっかり失念してまして……。」
「ああ、そういや行くって言ってたな!
すまない、俺もバタバタしていてすっかり忘れていたよ。
マジックバッグから出せるんだよな?
部下に運ばせるから、表に馬車をつけるからそこに出して貰えるか?」
「はい、分かりました。」
エドモンドさんが部下に声をかけると、ほどなくしてルピラス商会の入り口の前に馬車がとまり、その荷台に2人の部下たちが乗り込んで折りたたみ式コンテナを広げ始めた。
「どうぞ、出して下さい。」
そう言われて、次々とコボルトから預かったお茶や食器、ペシなどを出していく。
折りたたみ式コンテナの中に、種類に分けて商品をつめ、どんどんと積んでいく。
手際の良さが倉庫の作業員と比べても段違いだ。まだ若いのに凄いなこの2人。
「積み込みが終わりました。」
「よし、じゃあ札は持ったな、王宮におさめてきてくれ。納品書のサインは必ずジョスラン侍従長に書いていただくように。」
「分かりました。」
そう言って、エドモンドさんの部下2人は馬車を走らせ王宮へと出発していった。
「王宮の分はこれでいいな。ジョージの話はこれで終わりか?」
「……全部王宮におさめてしまってよかったんですか?かなり大量に持ってきてしまいましたが。お茶だけは一日10杯は飲める量を1か月分と指定しましたが……。」
「現時点であるだけくれと頼まれていたからな。問題ないさ。用件はこれだけか?」
「ええ、俺の用事はこれだけです。」
「じゃあ俺の話に移ろうか。そこのソファに座ってくれ。」
俺とエドモンドさんは、テーブルを挟んで互いにソファに座った。
「本当は一ヶ月分まとめて報告の予定だったんだがな。思いのほかまとまった金が入ったんで、途中精算しようとおもってな。」
「なんのですか?」
「キッチンペーパータオルと、折りたたみ式コンテナと、業務用食器洗浄機と、家庭用自動食器乾燥機能付き洗浄機の話だ。」
「ああ……。なるほど。
かなりの注文が入って大変だと、ヴァッシュさんの工房で伺いました。」
「業務用食器洗浄機と、家庭用自動食器乾燥機能付き洗浄機は、現時点であそこの工房でしか作れないからな。
だがうちは完全前金制なんでな、どーんと前金を支払ったら、休み無しで働いて、大急ぎで作ってくれているみたいだ。」
「……工員の方々は大丈夫なんですかね?」
魔導具の開発を頼まれて、死にそうな表情をしていたミスティさんを思い出す。
「稼ぎ時に稼がないと、魔導具ってのは、そんなにいくつも一度に注文の入るもんじゃあ本来ないからな。大事な臨時収入源だから、みんな張り切ってるみたいだぜ。」
「それなら良かったですが……。」
「本来登録者の取り分は、商人ギルドを通じて支払いされるものなんだが、ジョージはルピラス商会と直接契約をしているからな、うちから支払うことになっている。
それでだ。まずはキッチンペーパータオルだな、これが1万個さばけた。
まだまだ注文が入ってるから、あとで倉庫に追加分を出してくれ。」
「はい、分かりました。」
「キッチンペーパータオルが1個につき、銀貨2枚で販売している。これはジョージから直接仕入れているから、仕入れ値関係なく、うちの取り分が1個につき銅貨6枚、ジョージの取り分が小白金貨1枚と大金貨4枚だ。
まあまあな売上だろう?」
エドモンドさんがニヤリとする。
ん?ということは、キッチンペーパー1セットを2千円で販売したということか?
元の世界でも300〜400円程度で売っているものもあるから、それを海外から仕入れて転売と考えると、そこまで高いというわけでもないのかな。
まあ他に存在しない希少価値もあるのか。
「大分流通するようになったとはいえ、紙はまだまだ貴重なんだ。それを油と水を吸う特殊な機能つきで1個があの量だ。
王宮や高級料理店からの引き合いが凄くて取り合いさ。いくらでも手に入る分、転売なんかはおきてはいないがな。」
なるほど。
でも流石にそれで一等地の土地と家を買うには至らないにしても、確かに家1軒建てられる価格だ。エドモンドさんが、キッチンペーパータオルの売上だけで、あの店を手に入れてみせると言ったのも、あながち大げさではなかったわけだ。
「次に折りたたみ式コンテナだが、これはうちと、王宮と、郵便なんかの流通大手からの売上のみだな、現状は。それでも1400個売れたから、後で倉庫に出してくれ。」
「分かりました。」
まあ使う人が限定されるだろうし、もともとの値段も高いものだからな。というか、この世界も郵便は民間業者なのか。
「折りたたみ式コンテナは、1個につき中金貨1枚と小金貨5枚だ。」
「えっ?」
「安かったか?」
元が1万前後するものではあるが、それを15万で売ったのか!?
ていうか売れたのか!?1400個も!?
「うちの取り分が1個につき小金貨4枚と銀貨5枚だ。これもジョージから直接仕入れたから、ジョージの取り分が中白金貨1枚と小白金貨4枚と大金貨7枚だな。」
次第に呆気に取られていく俺。
「次に業務用の自動食器洗浄機だな。
これはそこまで数は売れていない。」
まあそうだろうな。使うところも限られているだろうし。
「これは1台につき中金貨8枚だ。もともと流通しているものに自動の機能が追加されただけだから、そこまで高くはない。」
「もともとのはおいくらなんですか?」
「大きさにもよるが、中金貨5枚から6枚ってところだな。」
自動機能1つで20万以上の差か……。
「こいつはヴァッシュ工房から仕入れた分の金額があるからな、仕入れ値が中金貨4枚、うちの取り分が中金貨2枚と銀貨4枚、35台売り上げてるから、ジョージの取り分は大金貨5枚と中金貨6枚だ。
少なくてすまんな。」
「いえ、問題ないです。」
アイデアを出しただけで560万だ、不満なんてあろう筈もない。
「それで、家庭用自動食器乾燥機能付き洗浄機なんだがな、売れると思ってはいたが、こいつが予想以上に、まあ売れに売れてな。
よその国からも引き合いがあるほどだよ。
金を先に支払ったところから、優先的に作って渡すことになってはいるんだが、それでもかなりの順番待ちさ。」
「はあ……凄いですね。」
「こいつが今のところ、1台大金貨2枚で、2500台売れてるな。」
「大金貨2枚!?」
1台200万なんて、最新の巨大テレビ並みの超高級家電じゃないか!
「使ってる魔石の数が尋常じゃないんだぜ?
仕入れ値が1台につき大金貨1枚なんだ、みんなそれを知っているから別に普通さ。」
乾燥機能付きと排水をなくさせるというだけで、ここまで値段がはるのか……。
家庭用といいつつ、まったく一般家庭向きじゃないな……。
「というかそんな値段のものを、ロンメルにタダでいただけるんですか?」
「ああ、今既にあるから、持って帰って喜ばせてやってくれ。」
持ってることを他人に知られないようにしたほうがいいだろうなあ……、泥棒が入るぞ確実に。ロンメルの家にも防御結界の魔法陣を作って渡してやろうかな……。
「うちの取り分が1台につき中金貨6枚、バッシュ工房の仕入れ値が大金貨1枚、ジョージの取り分が合計大白金貨1枚だな。」
「ええと……、合計でいくらに?」
あまりの高額に、脳が思考をとめて、考えることをやめてしまっている。
「しめて大白金貨1枚と、中白金貨1枚と、小白金貨6枚と、大金貨6枚と、中金貨6枚だな。」
ええと……、11億6660万……かな?
「まだまだ売れ続けてるからな、またある程度まとまった金額が出来たら、月の途中でも精算させてもらうぜ。」
ルピラス商会は俺以上に稼いでいるのだ、大金貨2枚の家庭用自動食器乾燥機能付き洗浄機1台をプレゼントしたところで、痛くも痒くもないということか……。
というか、ヴァッシュ工房自体も、大金貨1枚の商品を2500台も注文されたのだ。しかも完全前金で。
原材料費にどのくらい使うのか分からないが、相当な儲けになることは間違いない。
そんな中でミスティさんがあいてて助かったな……。他の注文を受ける余裕なんて恐らくないだろうからな。
俺はエドモンドさんからお金を受け取り、受け取りの書類にサインをした。
「これだけあれば、内装は好きなように金をかけられるな。貴族受けを考えるなら、ある程度内装に金をかけることはさけられないからな。預かったコボルトの商品は、また今度精算させて貰うからよろしくな。」
「はい、分かりました。」
「じゃあ、すまないが、これから倉庫に来てくれるか?追加の商品を出して欲しいんだ。
馬車はゆっくり走らせるからよ。
なんなら後ろで寝ていくか?」
そう言ってエドモンドさんは笑った。
「いえ、さすがに大丈夫です。
ゆっくり走らせていただければ。」
俺は苦笑しながら言った。
倉庫につくと中は空だった。既に大勢の作業員が集まっていた。前回よりも更に人数が多い。倉庫の入り口には、空になった折りたたみ式コンテナが、きちん畳んで積まれていて、すべてさばけたことを示していた。
「ここは前回同様、キッチンペーパータオルだけを出してくれ。」
「分かりました。
どのくらい出せばいいですか?」
「そうだな、お互い忙しいだろうし、なかなか会う時間も取れないだろう。店の準備もあるからな。ここに来るにもそもそも時間がかかるから、今回は5万個っててとこか。」
消耗品とはいえ、そんなに売れると見込んでるのか……凄いな。
さすがに5万個をいちいち1個ずつ出しているとしんどい。このマジックバッグのいいところは、形の大きなものでも、無理やり入れたり出したり出来るところだ。
物理法則どうなってんだと思うが、それが魔法というものだと言われれば、そうですかと言うしかないが。
「みなさんいったん中に入らないで下がって貰ってもいいですか?」
俺はそう言うと、1人倉庫の中に入り、倉庫の真ん中よりも少し奥に立った。
5万個のキッチンペーパータオルをイメージして、マジックバッグの口を斜め上に向けた。ニュニュニュッと変形しながら、一気にマジックバッグから吐き出されるキッチンペーパータオルが、自然と山に積み上がって奥に向かって崩れて行く。俺は取り出しながら少しずつ後ろに下がって行った。
誰も見てないなら一気に5万個出すところなんだが、万が一覗かれたら面倒だし、さすがにそこは慎重にならざるをえない。
「はい、5万個です。」
倉庫いっぱいに山と積まれた、崩れたキッチンペーパータオルを見て、作業員たちが、うわあ……という表情を浮かべる。これをこれから折りたたみ式コンテナに箱詰めして、積み上げるわけだものな。気持ちは分かる。
「よし、じゃあここは彼らに任せて、次の倉庫に行こう。」
そう言って、エドモンドさんは2つ隣の倉庫に俺を案内した。
「ここの倉庫を、新しくジョージの商品の為にあけたんだ、この中に折りたたみ式コンテナを3000個出してくれ。」
「分かりました。」
再び倉庫の中央から奥に行き、折りたたみ式コンテナを3000個、マジックバッグから取り出した風に出して積む。
エドモンドさんはそれを綺麗に積み直すよう、別の作業員たちに指示をした。
「馬車の荷台に、ロンメルさんに渡す用の、自動乾燥機能付き食器洗浄機が積んであるから、そいつを持ってロンメルさんのとこに寄るつもりなら送っていくぜ?」
「いえ、ロンメルの休みの日が分からないですし、もし仕事ならまだ終わる時間じゃないので、今日は預かって帰るだけにします。
パトリシア王女から書類をいただく際に、また王宮に呼ばれるかも知れませんし、仮にそうなら、その時にでも渡そうかと。」
「ああ、パトリシア王女なら、確かにその可能性もあるかも知れないな。」
そんなわけで、エドモンドさんは、そのまま馬車で俺を自宅まで送ってくれた。
道すがら教えて貰ったのだが、パトリシア王女の書類は国王の印章がいるので、もう少し時間がかかると事前に言われたらしい。
だがその間に既に内装を担当する業者と、大工を手配してくれていて、先に店の内装の相談をしたいのだと言われた。
「内装に関する相談なんだが、コボルトの伝統を取り入れるのなら、コボルトと相談する必要があると思うんだ。誰もそれを知る業者は人間にはいないからな。
コボルトの集落に内装業者を向かわせるのと、コボルトの集落から誰かに来て貰って打ち合わせするのと、どっちがいい?」
そう言われて、俺はすぐにどちらがいいか答えられなかった。
「コボルトたちに聞いてみないと、なんとも言えないですね……。」
必要なことなのだから、この間行った時にでも聞いてみればよかったなあ、と思った。
「業者はサニーと言うんだが、どちらでも構わないと言ってくれてる。コボルトたちに聞いてみてくれ。今はまだ彼らがこっちに来るのが、怖いかも知れないからな。」
確かにそれはそうかも知れない。
エドモンドさんとサニーさんの気遣いがありがたかった。相談してみます、と話して俺は家の前でエドモンドさんと別れた。
店の話がどんどん具体的になってくる。
みんなの為にも必ず成功させよう。俺は改めて、そう決意を固めた。
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