第27話 玉ねぎ丸ごとスープとデザートのスモア

「照明の魔宝石が早速役に立つな。

 ランタンじゃ足元が心もとないが、半径10メートルというのはかなり強力だ。

 魔法雑貨屋に立ち寄っておいて正解だったぜ。」

 アスターさんの言葉にみんながうなずく。


 アスターさんを先頭に、マジオさん、アシュリーさん、俺、インダーさん、しんがりがザキさんの順で洞穴を進んでいく。

 2人並べなくもないが、ちょっと余裕がないからだ。


 アスターさんの持った照明の魔法石は、一番後ろのザキさんの足元までしっかり照らしてくれているらしい。

 この距離なら、魔物が来てもすぐに気付けるし、かなり便利だな、魔宝石。

 いや、精霊魔法が便利なのか。


 魔法というのは、使えるMP総量に限界があるものの、次の日になると回復するので、魔法を使わない日は、魔宝石に力を込めるのが、魔法使いの内職らしい。

 冒険者をせずに、魔宝石作成専門に仕事をしている魔法使いもいるのだという。


 みんながみんな、魔物と戦いたいわけではないだろうから、そういう選択肢があるのはありがたいだろうな。

 おかげで俺のような、魔法を使えない人間にも、魔法の恩恵に預かれるわけだし。


「おっ!?」

「こりゃあ……。」

 しばらく進むと、広い道に出た。

 だが。

「3つに分かれてやがるな……。

 どうする?」


「目印をつけて、順番にすすみましょう。

 どちらから行く?」

「うーん、そうだな。左のやつ!」

 そう言ったアスターさん、アシュリーさん、インダーさんが手をあげる。


「真ん中がいいやつ!」

 俺が手をあげる。

「右がいいやつ!」

 マジオさん、ザキさんが手をあげる。

「多数決で左だな。よし、行こう。」

 アスターさんが左の洞穴の壁に傷をつけ、俺たちは奥へと進んだ。


 奥へ、奥へと進むと、突如として、鍾乳洞のような壁から、同じ石造りでも、レンガのように重ねられた部屋が現れる。

 そして、その部屋の奥に置かれた、複数のとあるもの。


「宝箱……?

 つまりここはダンジョンというわけか。」

「ダンジョンが急に発生するだなんて、相当強い魔物が、中にいる可能性もあるね。」

 ザキさんとマジオさんが、宝箱を眺めながら冷や汗を流している。


 ダンジョンは特別な場所なのか。

「これが一部当たりで他が魔物か、全部が魔物の可能性もあるな。」

「魔物?」

 インダーさんの言葉に俺が首をかしげる。


「ミミックっていう、擬態する魔物さ。宝箱に偽装してることが多いんだ。

 その場合、蓋が歯になっていて噛みちぎってくる。罠解除の魔法を使うと、本性をあらわすんだけど。」

 インダーさんが説明してくれる。


「アシュリー、宝箱の罠解除の精霊魔法は使えるか?」

 アスターさんがアシュリーさんに尋ねる。

「ええ。さっきの店にもおろしてたんだけど、売り切れだったみたいね。」


「本当かい?今度作って取りおいてくれ。買いにくるよ。」

 インダーさんがアシュリーさんに言う。かなり貴重なんだな、罠解除の精霊魔法。わざわざ予約するなんて。

 というか、魔法使いのインダーさんが頼むということは、精霊魔法にしかないのか、罠解除。


「リムーブトラップ!」

 目の前には5つの宝箱が並んでいる。アシュリーさんが、左から順番に、罠解除の精霊魔法を使った。

 まず1つ目は普通の宝箱だった。蓋を開けると、中には金の財宝がたんまり。みんなが思わず、おお、と声を漏らす。


 2つ目の宝箱も普通の宝箱だった。

 中には防具のようなもの。アスターさんとザキさんが、よだれを垂らしそうな表情を浮かべている。

 何かいいやつだったのだろうか。


 問題は3つ目だった。

「ミミックだ!」

「くるぞ!」

 宝箱だったそれは、口を大きく開き、巨大な舌が口からのぞいている。


 ピョンピョンと、不規則な動きではねながら、こちらに襲いかかってくる。

「ディクリース・ウエイト!」

 アシュリーさんが、アスターさんの大剣に魔法をかける。


「おお、重量低下の魔法か!ありがたい!」

 マジオさんのデバフ付与の矢がミミックに直撃する。

「ファイヤーボール!」

 アシュリーさんを狙ったミミックに、インダーさんの火魔法が当たり、ギエエエエ!とミミックが鳴く。


 跳ね回っていたミミックが地面に転がり、

「いまだ!」

 アスターさんが軽々と大剣を振り上げ、一刀両断、ミミックはふわっとその姿を消し、その場に魔石と瓶をドロップした。


「ポーションだな。やれやれ、肝が冷えたぜ。気を抜かずにいこう。」

 ザキさんがドロップアイテムを拾って鞄にしまった。

 4つ目は杖のようだった。今度はインダーさんがよだれを垂らしそうな表情を浮かべている。いいやつなんだろうな。


 5つ目は片手剣と盾だった。ザキさんの武器だ。ザキさん、よだれよだれ。

「ザキ……、防具、俺が貰ってもいいか?」

「もちろん……。じゃあ、俺はこの武器と盾を……。」

「つ、杖、貰ってもいいよな?」


「財宝は、マジオとアシュリーさんとジョージで分けて貰うってことでいいか?」

 アスターさんの言葉に、マジオさんとアシュリーさんがうなずく。俺は別にいらないと言ったが、3等分されて押し付けられた。まあいいか。


「ここ当たりだったな!来て良かった!」

「そうだな!早く他も見にいこう!」

 インダーさんとザキさんが、溢れるような笑顔でそううながしてくる。

 どちらにしろ、ここは突き当りだから、戻るしかなかった。


「じゃあ次は、2番目に希望の多かった、右の洞穴に進もう。」

 アスターさんの言葉に全員がうなずき、一度戻って右の洞穴にすすんだが、右の洞穴はただの行き止まりで何もなかった。


「ということは……。ジョージの選んだ真ん中から、この近隣に現れる魔物が出てきている可能性があるな。」

「更に奥で分かれている可能性もあるけど、一度ここで回復しておいたほうがいいね。」


 ザキさんとマジオさんの言葉に全員がうなずく。

 俺たちは持ってきた弁当を広げることにした。

 お湯を沸かして、コーヒーを淹れ始めたアスターさんに俺が驚く。


「コーヒーですか?」

 以前アスターさんの家に行った時にはお茶が出たのだ。

「ああ。贅沢品だから、こんな時くらいしか飲まないけどな。」


 コーヒーあるんだな、この世界。

 俺は防水シートを地面に置いて、弁当を広げた。俺の広げた弁当に、みんなが一斉にわあー!っと声をあげる。初めて見たアシュリーさんは目を丸くしている。


「これ、ジョージが作ったの?」

「ええ、食い道楽なもんで。」

 ひとくち食べた途端、アシュリーさんは、

「ジョージ、私のところにお嫁にこない?」

 と言った。婿じゃなくてですか。俺は思わす笑う。


 みんなが弁当を食べ進める中、俺は湯を沸かしていた。

「ジョージ、食べないのか?」

「食べてますよ、でも、ちょっと作りたいものがあって。」

と笑う。


「はいどうぞ、玉ねぎ丸ごとスープです。」

 俺はどうしても温かいものを食べるのを諦めきれず、家で準備をしてきていたのだ。その場でも作れるものだから、今まさに作ったともごまかせる。


 玉ねぎの皮をむいて、根っこと葉の部分をくり抜き、500ミリリットルの水に対してコンソメキューブを1つ入れて、落し蓋をして中火で30分煮るだけ。キャンプでもよく食べる。お好みで黒胡椒とみじん切りしたパセリを乗せれば完成だ。


 ウインナーを追加したり、色々アレンジ出来て便利な料理だ。俺は自宅から持ってきたデカめのマグカップに、玉ねぎ丸ごとスープを入れて全員に配った。

「うまい!温かいスープは最高だな!」


 みんながワイワイ盛り上がる中、俺は更に、マシュマロを火であぶって溶かし、クラッカーの間に板チョコと重ねて挟んだものを作っていた。

「はい、デザートのスモアです。」


 これもキャンプでよく食べられる伝統的なデザートだ。

 至って簡単だが、あるとテンションがあがる。特に自分で作るとなおのこと。

 みんながおかわりを欲しがったので、試しに作って貰ったところ、楽しそうにマシュマロを焼いて挟んで食べていた。


「うーん、お腹いっぱいよ。」

「最高だ……。

 このまま寝たいくらいだぜ。」

 みんなが防水シートの上に、めいめいに横になり、腹ごなしをはじめた。

 俺はそれを見て嬉しくなって笑った。


「さて、いつまでもこうしていられないな、俺たちは事前調査に来たんだ、奥にすすまないと。」

 アスターさんがガバっと起き上がってそう言い、みんなも気を引き締めたような表情になる。


「じゅうぶん回復出来たし、どんな魔物が出てもきっと大丈夫だわ、いきましょう。」

 アシュリーさんもそう言い、全員立ち上がる。俺は防水シートを畳んでアイテムバッグにしまった。


 休憩したことで照明の魔宝石が消えてしまったので、インダーさんが新しい魔宝石を使った。

 奥へ進んでいくと、更にぽっかりと開けた場所に出る。


 半径10メートルは照らす筈の照明の魔宝石でも届かない程、中は広いらしい。

「全員で照明の魔宝石を使ってみよう。

 これじゃあ、何がなんだか分からないからな。」


 アスターさんの言葉にみんながうなずき、少し広がって輪になり、俺をはじめとして、全員で照明の魔宝石を使った。

「な……!!!」

 洞窟の中が照らし出される。


 祭壇のような場所の壁に、黒い球体の中心に目があり、黒い触手が太陽の紅炎のようにうごめく巨大な魔物が貼りついている。

「テネブル!?」

「闇の王が、なぜこんなところに……!」


 驚いていないのは俺だけだった。

 確かに見た目が気持ち悪いが、みんなが何をそこまで驚いているのかが、さっぱり分からないのだ。

「あれは一体なんなんです?」

 俺はこっそりとアスターさんに尋ねる。


「テネブルは、別の種族の魔物を操ることの出来る、別名、魔物の王、闇の王とも呼ばれる魔物だ。

 魔物が生まれる瘴気が集まって生まれたものとも言われている。俺たちのかなう相手じゃない。みんな、逃げるぞ!」


 壁に張り付いて動く様子を見せないテネブルに、俺たちは一斉に回れ右して外に出ようとした。だが。

「なんてことなの……!

 囲まれてしまったわ……!」

 アシュリーさんが悲鳴をあげる。


 入ってきた入り口を、いつの間にか現れたたくさんの、ゴブリン、オーク、オーガ、トロールが塞いでいる。

「戦わないと逃げられないぞ!」

「けど、こんな数をどうやって!?」

 みんながパニックになる中、俺は1人、さて、どうしようかなと考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る