第25話 かぼちゃのサラダ、カリカリチーズ蓮根と長芋、ピーマンのおかか白ごま和え
「事前調査……ですか?」
俺は冒険者ギルドに呼び出され、受付嬢から話を聞いていた。
「最近、事前調査の結果よりも、群れの数が多かったり、本来いる筈のない魔物が出たりして、ランクの低い冒険者が危険な目にあっているんです。」
俺も何度か遭遇したな。というか、ロンメルから聞いたばかりの話だ。
「冒険者ギルドから人を派遣したり、Cランクまでの冒険者に募集をかけたりしているんですが、依頼の数が増えすぎて限界になってきてまして……。」
受付嬢が申し訳無さそうに眉を下げる。
「本来ならば、そういう時は事前調査に行かないこともあるのですが、状況が思わしくなくて。」
普段出る魔物が決まっている地域ならば、事前調査がなくても行かれた筈が、数が多かったり、普段いない魔物がわいて大変になっているということか。
「そこで、Cランク以上の冒険者の皆さんは協力をあおぐ形、Bランク以上の冒険者の皆さんは強制的に、事前調査をお願いすることに、このたび全国の冒険者ギルドで決まりました。」
「なるほど、よく分かりました。」
俺はうなずいた。
「事前調査はクエスト受注料も安いですし、通常であればギルド内で解決すべきことで、ランクの高い冒険者の方たちに、お願いするようなことではないのですが……。
もしも事前に依頼のあった魔物よりも強い魔物が出た場合は、そのまま討伐に切り替えていただいても結構ですので。」
「俺1人で行っても大丈夫ですか?」
「いえ、今回だけは、もしも予定外にランクの高い魔物が出た場合と、それを冒険者ギルドに即時報告していただき、把握する観点から、必ずパーティーを組んでいただきます。
メンバーはこちらでご用意させていただきますので。」
「組みたくない相手だけは、指定することが可能でしょうか?それ以外の相手でしたら、どなたでも結構ですので。」
「ああ……はい、ジョージさんは……。
はい、この3人だけは外して欲しいということですね、承っております。」
良かった。
例のパーティーと組まされたりなんかしたら、たまったものじゃないからな。
「討伐に切り替えた場合は、クエスト受注量と報奨金も別途発生いたします。
明日、同じ時間に受付までいらしていただけますか?パーティーメンバーを紹介いたしますので。」
「ちなみに、どのあたりになるのか、もう決まってるんですか?事前の準備が変わってくるのですが。」
「あ、そちらの説明がまだでしたね、失礼いたしました。
今回ランクの高い冒険者の皆様には、町から遠い場所をお願いすることになります。基本泊まりを想定いただければと。」
「泊まり……ですか。」
この世界で外で泊まるなんて初めてだな。
キャンプ用品を持っていくのは、さすがに目立つからまずいよな……。
それに食べ物も用意しなくちゃならない。現地で調達してもいいが、ある程度食料が手に入らなかった時のことも、考えなくてはならないだろう。
別に俺はその場で出すことが出来るが、1人じゃないだけに、目の前でポンポン出すわけにもいかないだろうしな。
「野営が初めてなのですが、他の冒険者の皆さんは、荷物や食料などは、どうされているんでしょうか?」
目立たぬように、参考にしたい。
「昼はお弁当を持っていかれる方が多いですね。夜以降は、現地で調達したり、携帯食料や、長期間保存出来る干し肉などを持参されたり、お酒を持参されたりと様々です。
携帯食料でしたら、あちらの受付で販売もいたしておりますが、お買い求めになられますか?」
「ああ、はい、じゃあ、一応……。」
酒か。体を温めたり、何もない時の手っ取り早いエネルギー補給なんだろうな。
俺は冒険者ギルドの受付カウンターで、携帯食料を3日分購入して、アイテムバッグに入れた。
一応何があるか分からないし、パーティーメンバーに渡すこともあるだろうからな。
俺は雑貨屋に寄って、明日の準備をすすめることにした。
まあ、一般的に考えて、明かり、火、水、寝袋、小さなフライパン、食器、調理道具を兼ねたナイフ、まな板、虫よけってとこか。
1人ならソロキャン用の耐水圧2000mlのテントを持っていくところなんだが。
明かりも寝袋も火を付ける道具も、この世界のものを用意しないとだよなあ……。
みんなと違うものを1人持っていては目立ち過ぎる。
1人離れたところに行かれればいいが、魔物の脅威を考えると、そんなわけにもいかないしな。
夜は特に魔物が凶暴化するという。
まあおそらくは、交代で火の番をすることになるだろうから、そもそもまともに寝られるか分からないが……。
虫除けだけは、現代のをこっそりふりかけよう。
「へい、らっしゃい。」
八百屋のような威勢のいい掛け声で、雑貨屋の店員が出迎えてくれる。
冒険者ギルドに近く、荒くれ者を相手にしているからなんだろうか。
雑貨屋の店員にしては、妙にガタイがいいうえに強面だ。
「冒険者をやっているのですが、泊まりでクエストに向かう人用のセットなんてありますか?泊まりが初めてでして……。」
ものは試しに聞いてみる。
「ああ、ございますよ、最近需要が多くて、あちらにひとまとめにしてあります。」
なるほど、冒険者ギルドから依頼された人たちが、買い求めに来ているらしい。
寝袋、ランタン、ランタンオイルの入った革袋、火打ち石と火打金、火口、付け木、水を入れる革袋がセットになっている。
残りは自前を持っていくか。鉄のフライパンと、木と陶器の食器は、そこまでこの世界のものと違わないしな。
「小金貨1枚になります。」
多分大半はランタンと寝袋の金額なんだろうな。普段はマグネシウムタイプを使っているから、うまく火がつくか不安だが。
寝袋は別途防水仕様のカバーがついていて簡単に折り畳める。現代の価格で言っても、そんなに高くない。
何よりカバーが別にあるところがいい。
寝袋自体を防水にしても、縫い目の穴からだとか、結構浸水してくるし、朝起きると濡れていることがある。
そこでカバーだ。防水のカバーをつけることで、寝袋が濡れるのを防いでくれるし、寝袋自体が重くなるのも防いでくれる。
これがあるということは、きっと冒険者だけでなく、旅人が使うことも多いのだろう。俺はそれを買い求めて家に戻ることにした。
とりあえず、今日の食事と弁当の準備だな。それと、家にいない間のカイアの食事をどうしようか。
動けるから用意しておけば食べると思うし、最悪樹木なのだから、土と水と光合成でも生きられる筈ではあるが……。
冷蔵庫を開けて取り出すとか、そんなことがあの細い枝の腕で出来るとも思えないし、外に出しておいても平気なものにする必要があるが、保冷剤を使っても、せいぜいもって一日。
保存食料そのままならいざしらず、調理したものが次の日までもつとは思えない。
2食分だけ俺と同じ食事にして、あとは携帯食料にするしかないか……。
俺はそう考えて、弁当のメニューを考えることにした。
まずは常備菜にしてる、切り干し大根の煮物は必須だな。長持ちするし。
同じく常備菜にしてる、しぐれ煮は入れるとして、唐揚げは絶対に欲しい。
とんかつでカツサンドを作るのもいいな。
温かいものが食べたいけれど、この世界のものを使って、温かな汁物を運ぶ手段がないから、今回は諦めよう。
根菜が欲しいから長芋と蓮根にチーズを乗せて焼くか。
色合いが茶色くなるから、赤と緑が欲しいな……。菜の花の辛子和えと、ピーマンのおかか白ごま和えでも作るか。
エノキとアスパラと人参の豚肉巻きも入れて、あとはプチトマトだな。卵焼きの黄色も欲しいけど、流石に昼飯が限界だよな……。夜の分はかぼちゃのサラダにでもするかな。それだけ食っちまう可能性があるから、作る量に気をつけないとだが。
揚げ物と揚げ物になるし、パンが油を吸うから、昼をカツサンドにして、夜を唐揚げにして……。
夜は見た目がきれいな炊き込みご飯を、おにぎりにでもするか。
以前作った料理以外の材料は、蓮根、長芋、ピーマン、かぼちゃ、ドライパセリを出して、玉ねぎ、白いりごま、鰹節、マヨネーズ、塩、コショウ、オリーブオイル、ごま油、スライスチーズを用意した。
蓮根を1cm弱の幅に切って、5分ほど水にさらしておく。
俺はついに出した新品の電子レンジに、ラップをかけて耐熱皿に入れたかぼちゃを入れ、500Wで1分加熱した。
こうすると切りやすくなるのだ。
その間に半分に切った玉ねぎを、更に半分に切って縦に薄切りにしておく。
耐熱皿に乗せてプラスチックのラップ代わりの蓋を乗せ、500Wで1分加熱する。
玉ねぎはレンジで加熱したほうが、辛味が消えて甘みが出る。
ただし水分が飛ぶので、水分を飛ばす調理法の時以外はあまりやらない。
加熱した玉ねぎの水気をしぼっておく。
スプーンでかぼちゃの種とワタを取り、一口大に切って、耐熱皿に入れ、さっきのラップを再びかけて500Wで6分加熱する。
かぼちゃの粗熱が取れたら、先程の玉ねぎと一緒にマヨネーズであえる。
熱があるうちにまぜると、マヨネーズが分離するので、必ず冷めてから行う。
だいたいかぼちゃ1/8個に対して玉ねぎ1/4個、そこにマヨネーズが大さじ2くらいだ。多くても別に構わない。
そこに塩コショウで味をととのえる。マッシュして完全につぶしてもいいが、俺は大きな形のものが残ったままにすることが多い。混ぜたらかぼちゃのサラダの完成だ。
フライパンにオリーブオイルを熱して、水に晒しておいた蓮根の水気を拭き取り、棒状のまま1cm幅に切った長芋とともに並べて、塩コショウを振りかけて両面こんがり焼いていく。
適当にちぎったスライスチーズを蓮根と長芋に乗せたら、裏返してチーズがカリカリになるまで弱火でじっくり焼いていく。
皿に乗せてお好みでドライパセリを振ったら、カリカリチーズ蓮根と長芋の完成だ。
俺はその間にその間にピーマン5個を千切りにして、ごま油を小さじ2程度回しかけたら、よく混ぜて耐熱皿に入れ、ふんわりとラップをかけたものを、電子レンジで500Wで2分半加熱していた。
鶏ガラスープの素を小さじ1、白いいりごまを大さじ1、鰹節少々、にんにくチューブを小さじ1/2程度加えて、更に混ぜ合わせたら、さましてピーマンのおかか白ごま和えの出来上がりだ。ごま油にすることで色が変色しないのでお弁当向きである。
昼の弁当が、
主食……カツサンド
黄色……卵焼き
緑色……菜の花の辛子和え
赤色……プチトマト
茶色……ニラレバ炒め
肉類……牛肉のしぐれ煮
根菜……カリカリチーズ長芋
茸類……エノキとアスパラと人参の豚肉巻き
夜の弁当が、
主食……中華風おこわの炊き込みご飯
黄色……かぼちゃサラダ
緑色……ピーマンのおかか白ごま和え
赤色……プチトマト
茶色……切り干し大根の煮物
肉類……唐揚げ
根菜……カリカリチーズ蓮根
茸類……エリンギと豚肉のオイスターソース炒め
というラインナップだ。
……我ながら張り切りすぎて疲れた。
これを、自分用とカイア用に弁当箱に詰めていく。カイアの食べる量が分からんが、一応このサイズ感で言うと、幼稚園児くらいでいいだろう。
俺はカイア用に弁当箱を出した。
小さな弁当箱にオカズを詰めていくと、子連れのシングルマザーと同棲していた頃を思い出す。毎日の3度の食事から、俺が運動会の弁当も作ったんだよなあ。
仕事から帰ってきたら、冷蔵庫に何もない状態で、明日運動会で弁当がいると言われた時は衝撃だった。
今頃あの子たちも成人か……。
これっぽちも入りやしない弁当箱に弁当を詰めていると、妙に感慨深い気持ちになってくる。
気に入ってくれればいいが。というか、量が足りればいいが。
これを明日テーブルに置いて、冒険者ギルドに行くとして、今日は弁当のあまりで食事にしよう。
カイアをテーブルの横に座らせて、一緒に食事にする。俺が手を合わせると、それを見たカイアが真似して手を合わせたので、ふっと笑ってしまう。
俺が笑ったのを見て、カイアはなぜか嬉しそうだった。
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