2→11「月下大戦・4」

「今のうちに朗の傷を治癒、よくて?」


「わかった、よろしく船長」


 後ろに下がる船員達を見送り、視線をスクロのほうに戻す。


「リーケッド久しぶりだね、コリスずっと、ずっ~と会いたかったよ」


わたくしは会いたくなかったですよ、粘着ストーカー女になんて」


 リーケッドは恰好つけて一人で請け負ったが正直逃げたくて仕方なかった。


(早く二人戻ってこないかな、私あまりスクロと関わりたくないのですが)


「コリスねリーケッドのために花嫁修業してきたよ、お料理とお洗濯とか沢山」


「そうですかー、いい相手が見つかるといいですね」


「相手はリーケッドだよ、何言ってるの?」


「そんな、そんな、私なんかより素敵な相手がいますは」


「コリスが愛しているのはリーケッドだけ、リーケッドと一緒なら、それだけで幸せ」


「私は不幸なんですが、いやですよあんな拷問みたいなプレイされるの」


「あの時はごめんね、コリス興奮し過ぎて酷いことしちゃった、大丈夫だよ今度はリーケッドが攻めだから、コリスはハードなプレイでもリーケッドにされるなら、何でもご褒美だから」


「ああああああ!! 埒があきませんは! いいこと私はあなたが嫌いです! もう目の前に現れるじゃない!」


 遂に本音を吐露してしまったリーケッド、気がついたときには遅かった。


「嘘だよね、嘘に決まってる、コリスはリーケッドのこと大好き、リーケッドもコリスのこと好きだよね」


「それは、その、えっと……」


 回答に困る。


 肯定しようと、否定しようと、血を見ることは明らか。


「はっきり言って! コリスのことどう思ってるの!」


「えっと可愛いとは思ってるんですけど、性格がちょっとね……」


 スクロの瞳から輝きが消え、光を通さない常闇へと変貌する。


「拒絶された、コリスこんなに頑張ってるのに、もういいや、悪いのはリーケッドだよ」


 蛇腹剣がリーケッドの肩をかすめると同時に戦いの幕が上がる。


「相変わらずおっかないお子様、てか聖剣まで持っていますし」


 迫る蛇腹剣を弾丸で叩き落とすと同時に〈手のひらサイズの少女ミニマム〉の魔法で縮小化するが、〈膨張する愛オーバーラブ〉の拡大の魔法で相殺される。


(聖剣の相性も微妙、どうにか打開策を)


 オーバーラブの刀身が伸び、リーケッドを包み込むように迫る、縮小する寸前で刃の円が鉛玉に破壊される。


 反撃に転じるリーケッド、マスケット銃をくるくる回しながら振り回す。


 槍やハンマーを振るうように、時折引き金を引き鉛玉をばらまく。


「いつの間にそんな力をつけたのですか、近接戦ならこちらに分があると思ったのに」


「身体も沢山鍛えたんだ、リーケッドに喜んでもらうためにね」


「それどう言うことですの、なんで私のためにトレーニングしまして、もしかして絞め殺されちゃいますの?」


「朝まで連戦できるように鍛えちゃった、てへ」


「いやそっちかい!」


 危機感を感じているのはリーケッドのみで、回りの船員達は「船長の痴情のもつれか」 「いつものやつね」


 呆れ半分で見ていた。


「こうなれば最後の手段ですわ、奥の手を見せて差し上げます!」


 マスケット銃を天に掲げると同時に、魔力がリーケッドの身体を包みこむ。


 するとみるみるその容姿が小さくなっていく。


 縮小が収まり、そこに立っていたのは妙齢の淑女ではなく十ニ、三ほどの少女だった。


「ミニマムの縮小化を自らの身体に使い、肉体年齢を全盛期まで戻す、名付けて〈魔性の若返りリバイバル〉」


「リーケッドが小さくなっちゃった、あ〜カワイイ!」


 リーケッドは揉みくちゃにしようとする二つの腕からするりと抜ける、攻撃は続きオーバーラブの切っ先が飛んでくる。


「なんで、この魔力量は人間を越えてるよ」


 切っ先はリーケッドの二本の指で止められてしまう。 


 ミニマムを中心にリーケッドの回りをとめどなく魔力が溢れる。


 その魔力量は人間を超え妖精に匹敵する程、人間が聖剣の一撃を指で止めるなど不可能、それすら可能にしてしまう。


「勝負ありましわね、誓いなさい、二度と私に近づかいないと」


 銃口をスクロの額に突きつける。


「嫌ぁ! コリスにはリーケッドしかいない! リーケッドと結ばれないならここで死んでやる!」


「なぜそんなにも私に固執するのです」


「リーケッドはコリスにとって、お母さんでお姉ちゃんで、恋人、だから好き! なんで……なんでコリスじゃ駄目なの、ねぇ?」


 とうとうスクロの大きな瞳から大粒の涙がボロボロ落ちる。

 

 流石にリーケッドも罪悪感を感じて仕方ない。


(いやいやここで折れたら一生この子に支配されますわ、生活もとい性活を送ることに、それは駄目ですの、私は色々な女の子と遊びたいわけですし)


「コリス何だってできるよ、リーケッドが思ってるより、ずっと大人だよ」


 大粒な涙を溜めた瞳で上目遣いを決めてくるコリス、流石のリーケッドも少しときめいてしまう。


「もう船長付き合ってやれよ〜」


「そろそろ身を固める年じゃん」


「船長マジ最低、手出したんだから責任最後まで取れ!」


 味方だったはずのレーディン海賊団がいつの間にかスクロ側につき、完全アウェイとなっていることに気がつく。


「お願いリーケッド、コリスの事を愛して」


 一度大きく息を吸い、大きく吐く、辺りを見回しても辺りは敵だらけ、リーケッドは覚悟を決め……決め……決めて


「ああいいですよ! 恋人でも、お母さんでも何でもなってやるよ! ちくしょぉぉぉぉ!!!!」


 リーケッドの英断に歓声が上がる。


 こうして彼女は自由の殆どを奪われてしまった。


 






 


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騎士は妖精少女の幸せを掴むため剣を取る 六月(ろくがつ) @6a6b6c

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