2→10「月下大戦・3」

「どうした魔法で反撃してこないのか、それとも反動で限界か」


 屋敷内でスワンはアデリーと対峙していた。


 純粋な力だけの勝負ならスワンに軍配が上がる、だが現状はスワンのほうが不利な状況にある。


「お前の魔力量は恐るべきだ、だがその身体、人間の身体で莫大な魔力を行使し続ければ反動でダメージを負う」


 スワンの魔力量は人間の域を脱し妖精に近い、圧倒的な魔力は宿主に強大な力を与えると同時に強大な反動をもたらす。


 時間が経てば経つほど魔法の反動でダメージを負い、不利になっていく。


 だがスワンは兄を手にかけるつもりは毛頭ない。


 エレミリアやメリアも、兄すらも救おうとしている、覚悟はとうに決まっている。


「エレミリアもメリアも兄さんだって助けてみせる、こんな傷くらい問題ない」


 スワンはエレミリアやレーディン海賊団と出会い大きく成長した。


 今までは力の暴走を恐れ、他人を恐れ、自分の世界に籠もっていた、だがエレミリアと出会い勇気をもらい。


 挫けかけた心をリーケッドに励まされ、今ここに立つ。


「待ってろ兄さん、目を覚まさせてやる」


「今度は自分の番だ」とスワンは思っている、出会った人達が自分に変わるきっかけをくれた、だからこそ今度は自分が兄を戻す。


 目の前に立つ兄は明らかに様子がおかしい、アデリーは騎士道精神を重んじる人物、そんな人物が妖精の少女を監禁して聖剣を作らせる、王女ミーンの手駒などに身を落とすとは考えれない。


 騙されて協力している線はない、今のアデリーはスワンのことを一切覚えてない、恐らく聖剣の魔法で凍結されていると考えられる。


(エレミリアが言ってた記憶を凍結させる聖剣の魔法を受けているんだろう)


 考察の末スワンの出した答えは……


「リーケッドさん、少し派手に暴れるので離れていてください、できれば屋敷の庭のほうに加勢にいってもらえると助かります」


「信じていいのですね、必ず勝つと」


 目を合わ力強くうなずくスワン、それを見るリーケッドは窓を突き破り庭に飛び出していく。


「信じてますわよスワン、必ず勝つこと、よろしくて?」


「もちろん、皆を助けます、誰一人取り残しません」


 チェーンベールの魔力をバーストさせる、紫の輝きをまき散らしながら加速。


 エアリスタも同様に魔力をバーストさせ、加速。


 二つの閃光が激しくぶつかり合う。


「兄さん目を覚ませ! 僕らは大切な人を守るために騎士になったんだろ、約束したのを忘れたの?」


「俺はお前の兄などではない、おれは黒史聖剣団こくしせいけんだんの一人アデリー、そんな約束などしらん」


「だったらメリアのことは覚えてるでしょ、おっかない僕らの幼馴染、兄さんの許嫁の、ずっと、ずっと、兄さんが帰ってくるのを待ってたんだよ」


 高濃度の魔力を宿した一撃でエアリスタを叩きつける。


「知るか、俺はただ任を果たす、貴様とエレミリアの首をもらう、それだけだ」


 一瞬で後ろを取られるスワン、魔力を放出し迎撃。


「馬鹿、馬鹿! 僕のこと忘れてもメリアのことは忘れるなよ!」


「知らないと言ってるだろ!!!!」


閃光が如き一撃を受け、宙舞うスワン。


「だったら思い出させてやる! 馬鹿兄貴! 〈紫紺の開花ヴァイオレットフラウリン〉」


 チェーンベールが捉えたのはアデリーではなく、聖剣〈流星の剣エアリスタ


 紫の魔力は爆ぜ、その様は花が咲き誇るようにすら見える。


 爆発に耐え切れずエアリスタは砕け散る、どうするにしても一度兄を無力化しないといけない、そうなれば聖剣の破壊は必須。


(聖剣の破壊には成功した、だがこれからどうしたら)


 兄の記憶を奪っているのは、エアリスタとは別の聖剣、根本的な解決にはなっていない。


「おのれよくも聖剣を……」


 砕けた聖剣の柄を握りしめスワンを睨みつけるアデリー、依然闘争心は消えてない。



「女王陛下の予想は的中したようですね」



 動けなかった。


 現れた青年と、ローブの人物。


 問題は兄の横に現れた青年、長身で白のロングコート、長いまつ毛に高い鼻、黒髪を夜風に遊ばせ、どこかの国の王子と言っても差し支えない容姿。


 だが肝心なのはそんなことではなかった、彼の放つ圧倒的な威圧感、スワンもアデリーも動けずにいた。


「アデリーを撃退しただけでなく鎧を捨て、魔力をある程度コントロールできるようになっていましたか」


「無駄話はいい、さっさと要件を済ますぞワイトネーム」


「そうだね、我らが女王がお待ちだ」


 白コートの青年ワイトネームはスワンを見る、腰から下げた木剣を引き抜く。


「あんた一体何者なんだ、何が目的なんだ」


「私の名はワイトネーム、黒史聖剣団の団長、単刀直入に言おう、スワン君、君の全力を見せて欲しい、それが我らが女王の望みなんだ」


 黒史聖剣団の団長、それが意味することは、黒史聖剣団の最強の騎士。


 納得できる、この圧倒的な迫力、嘘ではない。


「それでは始めよう、手早く済ませるため、彼女にご協力願おう」


 スワンの頭が真っ白になる、ワイトネームが握っていたのは細い少女の腕、その少女は……


「エレミリア!!!!」


 木剣が妖精少女の首をねじ切る、それを目の当たりにしたスワンは迷わず自分の中に眠っている魔力を全て解き放った。

 


 






 


 



 

 


 


 


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る