2→8「月下大戦・1」

「屋敷のほうもおっぱじまったようっすね」


 和服風のメイド少女が愛刀で鎧の騎士をなぎ倒す。


 彼女はほがら生彩せいさい、レーディン海賊団の船員。


「凄い轟音、これってもしかしてスワンの仕業」


 チャイナ服風のメイドが伸縮刀しんしゅくとうを振るい騎士を昏倒させる。


 彼女もまたレーディン海賊団の船員、月ノ羽つきのわこん


「かもしれねぇっすね、紺ちゃん」


「紺ちゃん言うな馬鹿ほがら、早くこっちを片ずけて船長と合流しないと」


 スワン達が屋敷内で交戦を始めた同時刻、屋敷の庭でもレーディン海賊団とフィーネスの騎士が戦っていた。


 戦況は若干レーディン海賊団が有利だった、数だけで見ればフィーネスの騎士達のほうが圧倒的に有利、だが。


「紺ちゃんの聖剣の加護のおかげで数的不利を打ち消せてるね、いやー助かるっす、傷を癒す聖剣って便利」


 紺の持つ聖剣〈姫空木ひめうつぎ〉、刻まれた魔法は月光を吸収し任意の相手の傷を癒すことができる。


 数では圧倒的に不利なレーディン海賊団が有利に戦えているのは、姫空木ひめうつぎの回復があったこそ。


「でも紺ちゃんの聖剣って夜にしか使えないのがネックっすよね」


「それは朗も同じ、向日葵ひまわりも日中しか魔法使えない」


「否定できないや、あとちょっとで押し切れるっすね」


「もうひと踏ん張り頑張る」



「皆なに押されてるの? 相手は海賊でしょ、誇り高きフィーネスの騎士が情っけなーい」



 館から出てきた一人の少女、普遍的なメイド服、年は十二~三と言ったところ、顔立ちは幼くもしっかりと整っており将来は美しい女性になるだろう。


「スクロ様どうしてここに、屋敷で仮眠をとっていらしたのでは?」


「そうだったけど、状況が少し変わっちったんだ、レーディン海賊団がここにいるってことは、リーケッドもいるってことだよね」


 メイド少女スクロの表情が歪む、それは彼女の中に渦巻く危険な愛情と同じように。


「君らは下がっていいから、おひさ~紺ちゃん、朗ちゃん、元気してた?」


 まるで久しぶりに会った友人に接するように手を振るスクロ、対する二人の反応は真逆。


「おいおいなんであいつ生きてるっすか、樽に押し込んで海に流したっすよね」


「間違いない、恐るべき生命力」


 スクロは以前レーディン海賊団の船員をしていた、だがある事件を起こしリーケッドが追放した。


「二人がいるってことはリーケッドもきてるってことだよね、楽しみだな、やっと会える、うふふふふ、リーケッドどんな顔するかな」


 スクロは元死刑囚でそれを見かねたリーケッドは彼女をさらい、自分の妹のように大切に育てた……のだが、問題は起こる。


 いままで他人から愛をもらったことがなかったスクロ。


 突如現れた無償の愛を与えてくれる存在、そんなの依存しないわけがない。


 暴走した愛はリーケッドを容赦なく襲った。


 監禁され、拘束され、視界を奪われ、永遠と唇やらなんやらを奪われ続けられたらしい(本人談)、最初のうちは「こういうプレイも悪くないですわ」など思っていたが三日が経過した辺りから流石に狂ってしまったらしい。


船長あの人が痴情のもつれを起こすのは日常茶飯事っすけど、この件だけは完全に被害者っす」


「いくら変態無節操下着泥棒覗き魔の船長でも十歳の子供には手を出さない……多分」


 と本人がいない所で部下にボロクソに言われる海賊淑女。


「お二人さん、コリスのリーケッドがどこにいるか教えてくださいな」


「そりゃできない話っす、あんなんでもうちの命の恩人っす」


 抜き放った刀がスクロの聖剣を弾く、だが次の瞬間に朗を違和感が襲う。


「なっ、刀が馬鹿重いっす、持ち上がらない」


 地面に触れた刀の切っ先、朗が力を入れ持ち上げようとするが全く持ち上がらない。


「コリスの聖剣の魔法にかかっちゃたね、とっても重いでしょ」


 にこにこしながら朗に近ずくスクロ、碇のようにビクともしなくなった向日葵のせいで身動きが取れなくなっていた。


「リーケッドの居場所を教えてくれた、助けてあげるけどどうする?」



「三文芝居ご苦労、紺達は聖剣に刻まれた魔法を把握済み、騙されたね」



 姫空木ひめうつぎの柄を使いスクロの聖剣を殴りつけ、手の中から弾く。


「相変わらず、紺ちゃんは朗ちゃんにお熱だね」


「どいつもこいつも言ってるだろ、紺ちゃん言うな」


ーーーーー


「魔力の制御ができるようになったか、いや、まだ完璧ではないようだな」


 チェーンベールの一撃をもらい、砕けた鎧を脱ぎ捨てるアデリー、戦況は劣勢でありながら落ち着いていた。


「だが問題ではない、流星の剣エアリスタにはついてこれまい」


 アデリーの姿が消えると同時にスワンの頬にうっすらと切り傷が浮かぶ、聖剣〈流星の剣エアリスタ〉に刻まれた魔法が術者を夜空を駆ける星が如き速さを与える。


「確かにその速さは追えない、だが」


 エアリスタの切っ先がスワンを捉える寸前、紫の魔力に遮られる。


「攻撃される瞬間はわかるか、そのタイミングで魔力を放出し攻撃を阻止しする、桁外れの魔力量を宿すお前にしかできない芸当だな」


「防御だけではないさ、リーケッドさん飛んで!」


 チェーンベールを地面に突き刺すと同時に激流のように魔力を流し込む、魔力は地面を駆け、フィーネスの騎士達、包み込み爆発を起こす、それはさながら無数の紫紺しこんの花が咲き誇るように。


「〈紫紺の花束ヴァイオレットブーケ〉、聖剣を核に魔力を地面の走らせ敵を攻撃する広範囲攻撃さ」


「厄介な技だな、俺以外に誰も残ってないか、だが貴様もそろそろ限界なんだろ?」


 意識を失い地面の転がる騎士達、戦況はスワン達のほうが圧倒的有利のように見えるが、アデリーは気がついていた。


「魔法の反動でボロボロなんだろ、当たり前だよな不完全な魔力コントロールであんな大技を使ったのだからな」


 スワンの身体が魔力の逆流でダメージを負っていたことに。


 




 


 




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