2→6「騎士と海賊の……」

「いやー捕まったね、これからどうしよう」


「どうしようじゃねぇぇぇぇ!!!!」


 頭を抱えうずくまる、最悪だ……


 横に座る能天気な魔法使いのせいで、僕らは海賊団に捕まってしまった。


「でも良かったじゃないか、一様治療用の薬と包帯はもらえたわけだし、ねぇ上等じゃない?」


「全然上等じゃないですよ、いったいこれからどうするんですか」


 牢屋に入れられ金目の全て奪われてしまった、鎧は必死の抵抗で守り抜いた。 (聖剣は身体から離れないため妥協)、後傷を塞ぐ薬と包帯はもらえた。


「財布とかその他金目の物を全部取られたけどね、スワン君も聖剣封印されてるし」


 聖剣に貼られた札は魔力を遮断して魔法の使用を封じるもの。


 鎧を外さないでも全力で魔力を流せば無理やり剥がせるが、兄との戦いでの魔力消費が響き、できそうにない。


「僕なんて身体に御札貼られちゃったし、さっき魔力使い尽くしたし、もう八方塞がりだね」



「あなた達が何をしにきたのか、洗いざらい話して頂きますわよ」



 牢の前に立つのは一人の女性


 純白のドレスに同色のツバの長い帽子、容姿だけなら淑女と言っても差し支えない。


 海賊淑女かいぞくしゅくじょの二つ名を持つ。


 海の大悪党『レーディン海賊団』の首領しゅりょうリーケッド・ブーツその人。


「君達と同盟が組みたいのさ、少し面倒ないざこざに巻き込まれてしまってね、人手が欲しい所だったのさ」


「揉めごとなら軍を頼ったほうがよろしいのでは、それとも頼れない理由がお有りで?」 


 リーケッド・ブーツの言うことは正解だ。


 事件なら海賊なんかよりも、国軍なんかに相談するのが普通、だが相手次第ではそうもいかない。


「『黒史聖剣団』それが僕らの、いや彼の喧嘩相手さ」


 黒史聖剣団の名を聞き流石のリーケッド・ブーツの表情にも驚きの色が出る。


「それなら国軍に頼れませんわね、噂は本当でしたか『呪われた騎士スワンが妖精の少女と共に逃亡している』と言う噂は」


 僕らのことはすでに知れ渡っていたらしい。


 おおよそ情報の発信源は以前戦った黒史聖剣団のバンナだろう。


 深手こそ負わせたが止めはさしていなかった、無事王都まで帰りミーンに事を報告し、それが外に漏れたと考えられる。


「ではあのピンクの髪の少女が妖精だったわけですか」


 メリアはこの街では相当名が通っているから、消去方で残ったエレミリアが妖精だと考えたに違いない。


「今屋敷は黒史聖剣団に占領されていてね、彼女達は人質に取られたしまっているのさ、そこで君達に協力してもらい屋敷を奪還したいわけだ」


「いやですわ、フィーネスを相手どって喧嘩なんて自殺行為そのもの、なによりわたくし達になんのメリットもありませんし」


 リーケッド・ブーツの言う通りだ。


 大国を敵に回してまで加担する義理もメリットもない、当然の回答と言える。


「何より気に入らないのは、あなたがその鎧を外して戦えば彼らにも勝てるのでしょ? どうしてそうしないのかしら」


「それは……」


 そんなこと言われなくなってわかっている、僕だってできればそうしたさ。


 だが万が一魔力が暴走したら、一番大切な人を手にかけてしまうことになる。


「私がこの話を断った一番の理由はそこです、あなたには力がある、なのにそれを使わず他人にすがろうとしている……」


「そんなこと僕だってわかってますよ! 鎧を外して戦えば勝てるかもしれない、でも、もし魔力のコントロールを間違えれば……皆を殺してしまう、できることならそうしたいさ、僕だってエレミリアを助けたい!」


 この海賊の言うこともわかる、でもできないんだ、怖いだ。


 もし大切な人を自分が殺してまったら、そう考えたら足がすくむ。


 ズガッンンン!! 鉛玉が牢屋を破壊する、コツ、コツと靴音を鳴らし近づいてきた、海賊淑女が僕を掴み上げる。


「きっと彼女達は何もせずとも殺されますわ、だったら一か八か破れ被れで戦うのが騎士というものでなくて! そのエレミリアと言うを子を救いたいのでしょ、ならやることはわかってますわね?」


 そう言うと海賊淑女は牢を後にした。


 ーーーーー


「フォレオさん、今の僕って相当にかっこ悪いですよね?」


「うん世界で一番格好悪いまである、淑女に怒鳴った所とかもう最悪」


「何もそこまで言わなくても」


 海賊淑女に容赦なく言い負かされ、ショックの余り僕は床に転がっていた。


「でも覚悟も同時にしたんじゃない、君はエレミリアのことが好きなんだろ?」


 そうだよ僕はエレミリアのことが好きで、彼女に幸せに生きて欲しいと思ってる。


 だったらやることは一つ。


「辺り前のことだったのに忘れてましたよ、大切な人を幸せにしたいなら、命を懸けるくらいの覚悟をしなきゃいけないことを」


「よろしいでは、淑女殿に再度同盟を持ちかけよう」


 身体が魔力の粒子に変わると同時に、僕らは別の場所に移動していた、恐らくはフォレオさんの魔法だろう。


 そこでは沢山の海賊達が食事をしたりお酒を嗜んなんだり、いわば酒盛りをしていた。


 その中でも幾人もの女性をはべらす、白い淑女の元に着地する、すると瞬時に二つの刃が喉元に当てられる。


こんほがら、剣を下げてよくてよ、坊や一体何の用かしから、今は女の子と遊ぶのが忙しいから手短にお願いしますわ」


「僕と同盟を組んでもらいたい、黒史聖剣団と戦うために」


「そのお話なら先程お断りした筈では、こちら側には何も利益がないと」


「利益ならある、まずは物を見てから考えて欲しい」


 大丈夫、ビビるな、自分に自己暗示をかけ落ち着かせる、今からやることは自殺行為に等しい。


 自らを守る鎧に魔力を流し解除する、鎧は身体から剥がれ落ち地面に転がる。


 もう僕の容姿を隠せるものは他なくなった。


 気が狂いそうだ、海賊達の視線が僕に集まる、やめてくれ、見ないでくれ。


「同盟に加わってくれた暁にはその鎧を差し上げます、この鎧の魔力耐性は妖精クラスの魔力量でも抑え込むことができます」


「売れば一国の宝物庫相当の価値がありますわね、でもよろしくて、魔力が暴走するのでは?」


「コントロールしてみせますよ、どうですかこの話乗りますか?」


「断ると言ったらどうします」


「魔力を全開にして船に風穴を開けて沈めます」


 僕の回答を聞き海賊淑女は帽子のツバで目元を隠す、冗談で言ったのだがまずかったか。


 プルプル震えている、いやこれは。


「っぷ! ~~~あっはははは! いいねやっとらしくなってきたじゃないか、野郎どもいつでも出れるよう準備しな、海賊騎士同盟の初めての戦いだ!」


 どうやら上手くいったらしい。


 待っててエレミリア、今助けにいくから。


 

 


 

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