2→5「兄さん」
「悪い冗談だよね、兄さんが『
目の前で起きている現実を受け入れられずにいた。
「俺は黒史聖剣団が一人『アデリー・パラディナイト』、お前のことは知らんが主の命によりその首を持ち帰る」
数年前に突如失踪した兄が目の前にあらわれた、それも記憶を失い僕の命を狙っている。
聖剣に呪われても最後まで味方でいてくれた兄、辛すぎる、大好きな兄が僕のことを忘れたこと、無機質な殺意をむけられたこと、どうしたらいいんだ!
「手早く済ませよう、聖剣〈
夜空を駆ける流れ星のように大地を飛び回る兄アデリー、『高速移動』が聖剣に刻まれた魔法のようだ、確かに驚異的な速さだが、以前戦ったバンナの聖剣〈
だが僕にできるのか、大切な兄に対し聖剣の魔法を行使できるのか、いや答えなんて火をみるより明らかだ。
できない、もし何かの手違いで兄を殺めてしまったら、そう思う手の震えて止まらない。
まずい! エアリスタの刃が目前に迫る、チェーンベールから紫の魔力が溢れると同時に打ち上げ攻撃を弾く……いや違うこれは!
「それは残像だ、高速で移動した際にできたな」
エアリスタで横なぎにされ無防備になる、これはまずい、チェーンベールから魔力を噴射し一気に距離を離す。
「それで逃げ切ったつもりか、なら残念だったな追いついたぞ」
エアリスタの切っ先が鎧を突き破り僕の身体に突きつけられる、戦うしかないのか、だが鎧を装備したままでは絶対に勝てない。
鎧を外して魔力を解き放ち失敗したら、兄さんは
「どうした鎧を外さないのか、それはお前の魔力を制限しているのだろ?」
渋っている場合じゃないのはわかる、でもそう簡単に鎧を外せない。
「別に外さないなら構わない、始末することには変わらないからな」
いつの間にかエアリスタの切っ先は僕の喉元まで伸び貫く寸前まできていた。
チェーンベールで防ごうにも間に合わない、鎧を外せればまた違った結果があるかもしれないが、それは不可能。
「ダメだぜ彼を殺された僕の計画が総狂いしちゃうじゃないか」
エアリスタの切っ先は杖に阻まれ威力を失う、聖剣に宿っていた魔力は絶大、それを難なく止めてしまった。
「あなたは、ビーチで溺れていた……」
「『そうそう溺れていた魔法使い』改め、さすらいの魔法使いフォレオ、助けに来たぜスワンくん」
フォレオが杖を一振りするや、スワンの身体は宙に浮く、逃走の準備は整ったがそれを阻止しようとする者が一人。
「そいつは渡せんよ、主の命で首を貰うからな」
「そうかいなら差し上げよう、僕の首をね!」
両手で頭を握るやフォレオの頭は首から外れ、アデリーに差し出される。
血は一切垂れていない、だが頭は首から離れている、その上、驚くべきは頭のみでも会話が可能、流石のアデリーも動揺が隠せない。
「どうしたんだい遠慮はいらない、さぁ受け取りたまえ!」
頭を失った身体から何かが投げ出される、それはフォレオの頭。
アデリーはそれを迷わず一刀両断、同時に煙が立ち込める。
「なるほど、あの男相当な魔法の使い手のようだ」
ここまできてようやく状況が理解できた、煙が晴れるとそこにはスワンの姿も、あの胡散臭い魔法使いの姿もなかった。
「上手く撒かれたか、だが奴は必ずここに現れる、聖女が我々の手にある限り」
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「へーいお姉さん達、色男二人入りまーす!」
一体この人は何を考えているんだ。
屋敷から上手く逃げ
「げっ! 呪われた騎士スワンとよくわからんおっさんが乗り込んできたっす」
女傑リーケッド・ブーツの束ねる『レーディン海賊団』のアジト、海賊船だった。
「たった二人で乗り込んでくるたぁいい度胸だ」
「身ぐるみ剥いで海に捨ててやるぜ」
「それともペットとして飼ってやろうか、首輪なんかつけてさ」
おっかねぇぇぇぇ、レーディン海賊団の船員は全て女性で構成されているが、華やかさからはかけ離れた罵詈雑言が飛び交っている。
「まぁ待ってよ、僕らは君達に提案をしにきたのさ、双方にとってけして悪い話じゃない、船長を呼んでくれないかい?」
交渉を持ち掛けているのだろうか、でも一体何を……
「その必要はない、お前達はこれから牢にぶち込まれるから」
早い! この子は依然屋敷を襲った少女の一人、聖剣の魔法のせいか至近距離に近ずかれるまで気がつかなかった。
「交渉決裂なら実力行使……っぶひぇ!!!!」
「え……、何やられてんですか!!!!」
頼りのフォレオさんは、かわすなり魔法で防ぐなりすると思っていたが、そんなことは一切なく無惨にやられてしまった。
本当にこの人は何を考えているのだろう、いや何も考えていないのでは。
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