2→4「決まりきらない覚悟」

『坊や、力の暴走を躊躇っていたら大切な物を失うわよ』


 何度もその言葉が頭の中を反響する。


 アルストロ家の屋敷で、一戦交えた海賊の言葉。


 力の暴走を恐れて縛っていては、いざと言うときに戦えない、それは僕自身もわかっている。


 事実屋敷での一戦、保安官が突入してなかったら僕の敗北は確実。


 最悪のあの状況でも、鎧を外すことをためらっていた。


「結局ダメじゃん……全然変われてない」


 エレミリアと出会って恋に落ちて、彼女を守るためなら鎧を外すこともできるそう思っていたが……


森での一戦あれは偶然だった……か」


「何が偶然だったんですか、お待たせしました」


 頬が熱を帯びて高揚するのがわかる、目の前に立つ少女のいつもと違った装い、ノースリーブから伸びる粉雪をまぶしたように白い腕がまぶしい。


 そしてなにより、エレミリアのたわわな胸がこれでもかと強調されている、原因はあのコルセットのような物だろう。


 コルセットとロングスカートをかけあわせた服装、凄い破壊力だ。


「どうよ、この私のコーディネート力、名づけて『清楚の皮を被った妖艶コーデ』」


「メリアがこしらえてくれました、どうでしょう似合っていますか?」


「とっても……似合ってます」


 動揺で声が上ずる僕を見てニヤニヤするメリア、好きな女の子のこんな姿見せられたら仕方ない。


 館の一件の後日、僕とエレミリアはメリアの案内でブルーシの街を観光していた。


「エレミリアほら今がちゃんすよ、スワンに渡しなよ」


「でも、此方こなたのセンスなので、スワンに似合うかわかりませんが、開けて見てください」


 渡された紙袋を開け中から服を取り出す、出てきたの緑色のドラゴン……柄のパーカー。


 緑の生地に鱗を模した模様が入っていて、フード部分には大きな二つの瞳とギラギラの牙を模した刺繍が施されている。


 正直子供用の服なのでは、いや僕は年齢こそ十八だが見た目は十二にそこそこの少年なので着れなくない。


「手作りの服です、よかったら着てください」


「列車で作ってた奴ですね、大切にします」


 鎧つけてるし中に着れば恥ずかしくないか、いや寝間着として使ったほうがいいのだろうか。


「それじゃ二人とも、観光の続きいくわよ」


 それから僕らはブルーシの街で食事をしたり、名所を見て回ったり、エレミリアの様々な表情を見ているうちに、僕を苛んでいた無力感も小さくなっていた。


 -----


「スワンあんた、エレミリアのこと好きなんでしょ?」


「ぶはぁ!!!!」


 屋敷に戻ってきた僕ら、エレミリアは眠たそうだったので先に部屋に戻っていた。


 僕はと言うとメリアの部屋に呼ばれていたのだが……


「その反応から図星ね、あんたの行動見てればまるわかりだったけど」


 心に秘めた恋を暴かれてしまっていた。


「ささささてそれはどうかな、それは僕にしかわからないよ」


「もう勝負はついてるのよ諦めなさい、しかしスワンはあんな感じのタイプの子が好みだったのね」


 ヤバい、ヤバ過ぎる、メリアが大悪女に豹変、この時の絡みかたは最悪だ。


「所でスワンは彼女のどこに惹かれたのかな、クルーに見えて世話焼きな所かな?、それともりっぱなお胸かな?」


「そんなんじゃないです! クールで世話焼きな所は……好きです」


「なるほどね、スワンはやっぱり年上好きか」


「別に年上が好きなわけじゃないです、エレミリアだから好きなんです」


「言うわね、でも良かったは、王都でのことで『人なんて信じれるか!』なんて言い出したどうしようかと思っては」


 思ってたさ、もう人と関わるのはやめようした、けどエレミリアのくれた優しさがもう一度心に火を灯してくれた。


 きっとエレミリアが妖精じゃなくて人間だったとしても好きになってた……と思う。


 根拠はないけど。


「そうと決まったら、早くその鎧外せるようにならないとね、あの子にもらった服も着れないものね」


 あの海賊も言ってたがそうだ、でもそれは恐ろしい。


 もし魔力が暴走すれば、間違いなく僕は死ぬだろう、それだけならまだいい、他人を大切な人を巻き込んだ日には、死んでも死にきれない。


「別に焦る必要はないわよ、あなたのペースでいい、自身を持ちないなさい、あなたは自分が思うよりずっと凄いわ」


 彼女のこう言った所が兄さんも好きだと言ってた、確かに眩しいや。



「ここにいたのか手間を取らせやがる」



 部屋に現れた人影、月明かりに照らされる黒い鎧、もう追手がきたか。


「メリア僕の後に飛んで! 紫紺の開花ヴァイオレットフラウリン


 チェーンベールの刃が鎧に振れると同時に誘爆、メリアの手を引き部屋を飛び出す。


 エレミリアが心配だ、ドアを蹴破り彼女の部屋を目指す。


「スワンあなた私に何か隠していたでしょう、アイツは何者なの」


「後で説明します、無事にこの状況を切り抜けられたら!」


 ドアを開け部屋に入る僕達、そこには二人の少女がいた。


「ありゃ~スワンこっちに来てるじゃん、コリスは聖女様担当だったのに、あんにゃろミスったか」


 メイド服の少女、だがその手に握らた一振りの剣が明らかに浮いていた。


「スワンこっちに来てはダメです、彼女の聖剣は……」


「もう遅いよ、コリスの剣は君を貫いた」


 ガシャン、いぶし銀の鎧は膝か崩れ落ちる、一瞬遅れ状況を理解した。


「この鎧を貫いた、その細い剣で!」


「ピンポーン正解だよ、コリスは剣の貫通力を増幅したのです、この聖剣の魔法は『増幅』それじゃこれでお別れだね、ってありゃ」


 刀身は鎧を貫くや、勢いのあまり僕は窓から外に投げ出される。


 早く、早く屋敷に戻らないと、メリアがエレミリアが危ない。


「屋敷には戻らせんさ、お前は倒される」


 目の前に立つ鎧の騎士、僕を追ってきたのだろう。


 騎士は兜を外し投げ捨てると素顔が顕わになる、そのとき僕の思考は限界を超え停止した。


「この鎧は不要だな、手加減の必要もないからな」


「嘘だろ……どうして、どうして、兄さん」


 鎧の騎士の正体は僕の兄。


 もう何がなんだかわからない、いったい何が起こってるんだ。


 兄さんが……黒史聖剣団。


 僕を殺そうとしている? 








  

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