プロローグ「森を出て……」

「ここらでお昼にしましょうか」


 森を抜けた先にある花畑。


 大小様々で色鮮やかな花達が咲き乱れ、その香りを辺りに振り撒いていた。


 聖女さまに手渡されたサンドイッチを頬張る、ブルーベリーとバターのさっぱりとした甘さが美味しい。


「しかし数日前のことが嘘のようですね」


 数日前この森で大きな戦いがあった。


 聖剣を携えたフィーネス王国からの刺客『黒史聖剣団こくしせいけんだん』がやってきて死闘の末追い返すことに成功した。


「鎧を脱ぎ捨てて必死に戦うあなたはとても素敵でしたよ」


 見られてた! てっきり意識がないものだと思っていたのだが。


 バンナとの戦闘のさなか、追い詰められた僕は鎧を外し魔力出力の上限を開放。


 土壇場だったから出来たことだったし、何より聖女さまの言葉が僕に勇気をくれたおかげだ。


『スワンは怪物なんかじゃないです』


 容姿を見られようと、目線を合わすことになっても、例え怪物と罵られても、聖女さまの言葉があれば何度でも立ち上がることができた気がする。


 だがあの時一つだけ不可解なことがあった、魔力出力を七割に上げようとした際できなかった。


 まるで何かに引っ張られるように、


「何を考えてるんですか?」


 目線の先には少女のような大きな瞳に白い肌、薄紅の唇があり、花々にも劣らない甘い香りが鎧越しにでも漂よってくる、そこには聖女さまの小顔があった。


「~っん!!!!」


 驚きのあまり僕は後ろに転んでしまう、仕方ない意中の少女がほぼ零距離にいたのだから。


「そんなに驚くことなくないですか? 此方こなたこんなに美少女なのに」


 「美少女だから驚いてるんですよ」とは言えない。


 それはそうと、そろそろ本題を切り出さないと。


「聖女さま、バンナの最後の言ってたこと覚えてますか?『俺を倒した程度で……満足するなよ、次の刺客が現れお前達の命を狙う……せいぜい怯えて過ごすんだな』 つまり第二、第三の刺客がやってくるわけなんですよ」


「恐らくそうでしょうね、此方達二人の命を狙ってやってくるでしょう」


「そこでですね、二人で旅に出ませんか? 聖女さまの記憶にある『約束の場所』を目指して」


 これは希望的観測だが、聖女さまの言う『約束の場所』とは妖精の国『ブルーム王国』のことじゃないかと思った。


 ブルーム王国、妖精が住むとされる場所で、どこにあるかもいまだ不明。


 聖女さまは妖精でフィーネス王国軍にこの島に拉致され、聖剣を作らされている。


 聖剣を作れる妖精は一部のみ、そんな彼女を妖精側がみすみす捨てるとは思えない、そこで考えられたのが、彼女の記憶を消し情報の漏洩を阻止し、帰るための記憶の断片を残していたとしたら、納得できる。


 無論聖剣が作れないと分かれば処分される危険があるので、製造法は消されなかったのだろう。


「きっと『約束の場所』はブルーム島なんだと思います、妖精の国ならきっと聖女さまを受け入れてくれます」


 それにブルーム王国の魔法技術フィーネス王国とは比べも物にならないくらい発展しているはず、なんといっても魔法の本場である妖精の国なのだから。


 そんな国相手に戦いを挑もうなら返り討ちは確実、最悪フィーネスが滅びる。


 ミーンもそこまでアホではないだろうし、ブルームまで逃げれれば安心だろう。


 それに僕とバンナの戦いの余波で森を覆う結界も壊れ外に出られる。


「此方はいいですが、一つだけ約束してください、『もしブルーム王国があなたの受け入れを拒否した場合、此方もブルームには止まらない』と言うことを」


「なんでですか、ブルームにいれば身の安全は保障されたも同じなんですよ?」


「たしかに此方は安全かもしれません、でもあなたはどうなんですか、ずっと黒史聖剣団と戦いながら生きてくつもりですか」


 聖女さまの心配してたのは僕のことだったのか。


 好きな女の子に心配してもらえるなんて嬉しいものだ


 ……なんで僕なんかにそこまで優しくしてくれるですか。


 あっダメだ上手く話せそうにない。


 話せば泣いているのがバレてしまう。


「もうあなたを一人にはしません、此方こなたはずっと傍にいますよ」


 僕はこの日、胸の中で決意した、何があってもこの人を守ろうと。


「僕だって聖女さまを守り抜いてみせま……何かまずかったですか?」


 なぜだろう、聖女さまは頬を膨らませジト目でこちらを見ている、セリフが青臭すぎて嫌だったの?


「その『聖女さま』っての禁止です、今後は『エレミリア』と呼ぶように」


「呼び捨てですか! それはハードル高すぎませんか」


「異論は認めません、頑張ってくださいね小さな騎士ナイトさん」


「…………はい」


 こうして僕と妖精の少女エレミリアの旅は始まった。



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