1→7「誰かのための勇気」
バンナの指はスワンの鎧に触れるや否や、バキバキと握り潰し持ち上げる。
地面に思い切り叩きつけ、ラッシュで一気畳みかける。
戦いは防戦一方だった、奥の手を使ったバンナが圧倒的に有利、スワンはなされるがままと言った感じ、だがスワンにも起死回生の一手はあった。
それは鎧を脱ぎ去りリミッターを解除すること。
スワンの着ている鎧は使用者の魔力を大幅に抑える効果がある、鎧装着時は最大で四割ほどまでしか魔力を使用できない。
鎧さえ脱げば全力で戦うことができ、バンナでは足元にも及ばないほどの魔力を有している。
だがスワンは鎧を脱ぐことができない。
彼は王都での辛い体験から他人に自分の容姿が見られたり、視線が合うことを極度に嫌い恐れている。
理由はそれだけでなく、スワンは自身の膨大な魔力を制御でない。
人間は魔力そのものを放出できないが、物を伝い魔力をコントロールすることができる。
以前スワンが剣に魔力を流した際、一瞬で剣は砕け逆流した魔力で自身を傷つけることがあった。
その際スワンの流した魔力は六割ほど聖剣の力で増幅されていたとしても人間離れしている。
例え鎧を脱ぐことができても逆流した魔力で自滅してしまう。
「なんだよ、もうお終いかよあっけな、おっそうだそうだ」
バンナが握っていたのは白い細腕、それはエレミリアだった。
「これなんだ? お前の愛しの聖女さま、まだ息があるんだろ? まずはコイツから片ずけますか」
消えたかと思えば再び現れたバンナ、その手が握っていたのは気を失ったエレミリア、身体強化を生かし一瞬のうちに彼女を連れて来たのだろう。
(だめだ、聖女さま殺される、早く鎧を脱いで戦わないと……でも)
スワン自身どうすればエレミリアを救うことができるかは理解できていた。
たが鎧を脱げない、容姿を見られること、怪物を見るような目で見られること、恐怖で手が震え上手く動いてくれない。
エレミリアの言葉で覚悟は決まったはず、だがいざ鎧を失うことを考えると恐ろしくてたまらない。
魔力を鎧に流せば簡単に外すことができる。
できるが……
『スワンは化け物なんかじゃないです』
『
瀕死のスワンの頭の中でエレミリアの声が反響する、自分に優しくしてくれた少女、その彼女が今、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされている。
『この子は怪物なんかじゃないです!』
止まりかけた頭の中で響くのは、最も自分が欲しかった言葉。
『この子を怪物に変えたのは
「っふ、ふあはっはははは、僕は何をやっているんだ……怪物呼ばわりされた程度で傷ついて、目の前で苦しんでいる少女一人救えない」
この絶対絶命のピンチに立たされたスワン、緊張、恐怖も全部踏みつぶして前をむく。
最も大切な少女を守るために。
「それは騎士道精神に反する、騎士の剣は誰かを守るためにある、ましてや自分を救ってくれた恩人、今ここで抜けなければ意味がない!」
鎧に力いっぱい魔力を注ぐと、魔力の渦が弾け爆裂でもしたかのように鎧が弾け飛ぶ。
そこには一人の少年が立っていた。
くりくりとした大きな瞳、その下に泣き黒子が一つ、アメジストのような紫の長髪、二つの魅力が相まって少年の言うよりも、神秘的な少女のように見える。
だが真に目線を引くのは美しい容姿ではなかった、スワンを中心に魔力が渦を巻くように溢れ竜巻のようになっていた。
鎧を外すことでリミッターが解除され魔力の出力が限界まで引き出せるようになっていた。
「お待たせしました聖女さま、今あいつを倒しますね」
スワンの腕にはエレミリアが抱えられていた、この状況を当事者のスワン以外は全く理解できていなかった。
スワンは
「今ので五割ってころだ、お前に勝ち目はないぞ、大人しく引くなら後は追わないがどうする」
バンナ自身勝機がゼロなのは理解できていた、なら……
「わかった、わかった、降参だ」
両手を上げ白旗を上げるバンナしかし、その手の中からデンジャラスビーストが消えていた。
弧を描き宙を舞う聖剣、その刃がむく先はスワンではなくエレミリアだった。
今のスワンは手に余ると思い、せめてもう一人のターゲットの聖女エレミリアだけでも殺そうと画策したが
「引くきはないんだな、なら」
デンジャラスビーストはチェーンヴェールに阻まれエレミリアの前で地面に転がる。
エレミリアを木陰に下し、スワンは聖剣をかまえる、刀身に魔力が集中し紫色に変わっていく。
「〈
チェーンヴェールの一閃がバンナを切り裂くや、魔力爆発が起き、それを皮切りに連続で爆撃が続く、それは紫紺の花が一斉に咲き乱れるように美しかった。
「くそっ! くそっ! 俺は
「いいやお前は負ける、僕には守るべき人がいる、ただ力を振りまわすだけのお前じゃ絶対に勝てない」
再度紫色の魔力がチェーンヴェールに点火、すれ違いざまにスワンは一閃を叩き込む。
「『
一閃を受けた傷から紫の焔が上がる、バイオレットレッドは攻撃した対象を紫の焔で包み焼く技、身を焼かれるなかバンナの放った言葉によってスワンの考えていた最悪の予想が的中する。
「俺を倒した程度で……満足するなよ、次の刺客が現れお前達の命を狙う……せいぜい怯えて過ごすんだな」
そう言いうとバンナはスワン達の前から姿を消した、どうにか退けることができたが。
「次の刺客か……」
スワンはバンナの残した不安要素がどうにも拭えずにいた。
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