1→6「青年は自らの意志で剣を取る」
「さてと、フィーネス最強の騎士様の本気見せてもらいましょうかね」
エレミリアを抱き上げるスワン、少女の前髪を優しく整える。
「さっき傷を治してくれた聖剣、『傷を治す』じゃなくて、自分が変りに『請け負う』魔法なんですよね?」
エレミリアの身体には所々切り傷があり、それも一つ一つが深く痛々しい。
スワンに指摘どうり、先程の聖剣に刻まれた魔法は『対象の傷を治癒する』ではなく『対象の傷を使い手が変りに受ける』と言ったものだった。
「バレてましたか……上手く隠せてたつもりだったんですけどね」
エレミリアは治癒魔法は使えるが即効性に欠ける、魔法での治癒だとスワンの傷を完治させるにはあまりに時間がかかってしまうため、聖剣での治癒を選択していた。
「無茶し過ぎです、でもありがとう聖女さまの言葉とっても暖かった、僕もう少し頑張ってみますね」
バンナに背をむけるスワン、喉から出た声はおおよそ少年が出したとは思えなかった。
孕んだ怒気と殺気が肌を刺し否応を言わせない。
「聖女さまを安全な所に移動させる、そこで待ってろ」
スワンの身体から溢れる魔力が爆発し大気を揺るがす、バンナに背をむけるとチェーンベールから魔力を噴射、エレミリアの家の中まで移動し彼女を下す。
そして再度森の中に戻った。
「なめた野郎だぜ……行くぜ化物野郎!」
迫るデンジャラスビーストが弾かれる、聖剣の肉体強化で威力は絶大にも昇華されたにも関わらず、対するスワンはカウンターの一撃をお見舞いする。
命中こそすれど手ごたえが薄い、直前で回避されたのだろう。
ここまでは予想通りの展開、ここから先が上手くいくかスワンにもわからない、デンジャラスビーストを破る手立てはある、しかし可能性が低いうえ成功したとしても効果があるかもわからない。
圧倒的に不利なこの状況、だがスワンの中に逃げると言う選択肢はなかった。
自分のことを思いあんなにも怒ってくれたエレミリアのため、彼女のこれからを守るためにも
「邪魔者が消えて戦いやすくなったてか、キザな奴だ」
「勘違いするな、聖女さまがいようがいまいが、お前程度相手にならない」
スワンの挑発を受け、怒りを顕わにしたバンナ、その攻撃はより激しくなる。
猛撃に対し目を閉じ、第六感を研ぎ澄まし回避を試みる、全ての攻撃をかわすことはできていないが、命中するよりも回避の成功のほうが多い。
体感十回に八回は回避を成功させている、だが命中した攻撃はスワンの身体を切り裂き鮮血を撒き散らかす。
バンナの放つ高速剣の余波で森の木々も倒されていく。
猛獣剣がスワンの首めがけ迫る、バンナも「確実に決まった」そう思い疑わなかった……が
「馬鹿な、この超高濃度の魔力で強化された一撃を指で止めただと!」
猛獣剣の刃はスワンの指と指の間で捉えられたいた、その現実をバンナは理解できないでいた。
「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なー!!!!」
力任せに振られる刃をスワンは躱し、弾き、受け止め、無力化する。
絶対的優位が覆りバンナの表情は死んだように青ざめていた。
「気がつかないのか、自分の肉体強化が消えていることに」
戦闘のさなかバンナの身体から湯水のように溢れていた放たれていた魔力は徐々に消え去っていた、だが戦いに夢中になるあまりそれに気がついてなかった。
「何故だ、何故聖剣の魔法が発動しない、ここは森の中、獣にとっては絶好の
同様するバンナにスワンは種明かしを始める。
「ここは森じゃないさ、よく周りを見てみるんだな」
スワンに言われ見回すバンナ、辺りには自分の放った攻撃で倒れた木々と抉れ緑を失った大地、そして気がついた。
「俺自身が森を破壊していたのか、まさか逃げまどっていたのも」
「もちろん、お前の聖剣を封じるためだ」
スワンを仕留めるために放った攻撃は森を破壊し結果、魔法発動の条件を満たせなくなっていた、通常量に戻り、素の魔力量で劣るバンナの一撃はスワンに通用する筈もない。
回避のみを続けていたのも、
「僕の作戦勝だ、これで決着だ」
剣の柄がバンナの腹部を突き上げる、メキメキメキ! 何かが軋むような音が森に小さく響く。
「何勝った気になってんだ……俺は、俺は負けんぞぉぉぉぉ!!!!」
ふらふらと立ち上がるバンナ、何を始めるかと思いきや、猛獣剣で自分をめった刺しにし始めたのだ。
「敬意を払うぞ、俺に本気を出させたこと、奥の手を使わせたことぉ!」
バンナは立っているのがやっとのはずだった、ズタズタになった身体、もう戦えないほどにボロボロだが……
「なんだよこの魔力量、森にいるときと同等いやそれ以上」
溢れる魔力は森の中にいたとき以上、一体なにが起こっているのかスワンは理解できなかった。
「これが追い込まれた獣の本気、
バンナは一瞬のうちにスワンとの距離はゼロになる、魔力の爆発力を応用し距離を詰める。
「最後の死闘といこうか」
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