1→2「聖女」

 ここは……


 視界のモヤが消え、辺が鮮明に見え始める。


 身体を起こすとそこは木造の部屋、家具等はベットと化粧台が一つ。


 僕はベッドの上で眠っていた。


 たしかミミズモンスターと戦って、壁に叩きつけられ……


 壁の外は広い森が広がって、そうだ洞窟から落ちたんだ。


 誰が助けてくれたのだろう?


 待て……と言うことはこの森には人間が住んでいる。

 

 噂は本当で聖剣を打つ聖女は存在しているのだろうか。


 ふと目をやった先に小さな化粧台があった。


 そこに写っていたのは、泣きぼくろが特徴的な少年。


 伸ばしたままの紫の髪の相まって少女のように見える。


 「…………!!!!」


 僕は衝撃でベッドから転がり落ちる、辺を見回しあるものを探す。


 それはこの家にくる前に装備していた鎧と服。


 現状僕は裸、それも不味いが何より顔が隠せないのが最悪だ。


 部屋に視線を巡らせる、服を見つけすぐさま袖を通す、次は、次は鎧、鎧はどこだ!


 僕は他人に姿を見られたり、目線が合うのが凄く苦手だ、昔はそうなかったが、今は違う、見られようものなら卒倒しかねない。


 この部屋に鎧がないとわかると、扉を激しく開き次の部屋に入る?


 どこだ鎧! この状況で他人と出会うのは最悪だ。

 血走った目線で鎧を探す、どこだ! どこにいったんだ僕の鎧!


「鎧、鎧、鎧、鎧……よろ」


 血の気がサァーっと引いていく。


 部屋の中にいたのは一人の少女だった、年の頃は十二〜三と言ったところ。


 腰の辺まで届く桃色の髪に双眸の色は情熱の紅、粉雪のような肌は惜しげなく晒され、彼女の幼い容姿とは不釣り合いなほどに乳房は成長していた。


「目が覚めたのですね」


 落ち着いた声音で話かける少女、しかし彼女は今一糸まとわぬ姿。


 僕は顔を見られたショックやら、裸を見てしまったショックで頭のなかでごちゃまぜになり、限界を迎えた僕の意識は飛んでいってしまった。


 ーーーーー


「……お騒がせしました」


 二度目の覚醒後、僕の顔には鎧の甲が被せられていた。

 顔を隠せているお陰で普通に会話ができる。


 僕は今、裸を見てしまった少女と机を挟み会話をしていた。


 彼女は寝室を僕に貸していて使えなかったのでリビングで着替をしていたらしい。


「『鎧、鎧』と言っていたので、全てつけようと思いましたが、無理だったので甲だけ被せましたが、正解だったようですね」


「本当にすいません、他人に顔を見られるのが怖くて、つい同様してしまって」


「可愛らしい顔なのに勿体ないですね、……所であなたは何者ですか?」


 早速答えづらい質問が飛んできた、自分が嫌われ者のスワンであることを説明するのははばかれる、しかし嘘をつくのも忍びない。


 いや正体がバレるのも時間の問題だ。


 それに今日にでもここを発つわけだしいいだろう。


「僕の名はスワン、元……フィーネス王国の騎士、今は聖剣に呪われ国を追い出された根無し草です」


 ちらりと少女の顔を見ると、驚きも恐れもましてや哀れみもない視線で僕を見つめていた。


 さっきからだが、この子は感情が薄くて何を考えているかわからない。


 返答がない辺り、まだ僕に身の上話させる気だろう。


「人目のない洞窟に定住しようと考えて探索していたら、巨大なミミズモンスターに襲われここにやって来ました……終わり」


「そうですかフィーネスから……次は此方こなたの番ですね、名はエレミリア・……」


「ちょっと待って、スワン・パラディナイトですよ、あの聖剣が身体から離れない怪物の、知らないわけないですよね?」


「知らない、ただ貴方が良ければ数日ここにいてもらえないだろうか?」


 話が読めなくなってきたぞ、僕を追い出すことはあっても、いて欲しいとは一体何が目的なんだろう。


此方こなたは人間達に聖剣の聖女と呼ばれている、文字通り聖剣を作ることができる、貴方の持つ聖剣も多分此方が作ったものだと思う」


 目の前に座る少女こそが「聖剣の聖女」その人、まさか本当に存在していたなんて。


「此方の作った聖剣で貴方が苦しんでいる、だからこそ此方はその呪いを解きたい、お願いします、少しの間だけ時間をください」


 紅の双眸に強い意志が宿ったように感じる。


 そんなことより「呪いが解ける」という事実に驚くなり喜ぶなりするのだろうが、こちらをまっすぐ見据える瞳を前に僕は忘れていた。


 彼女の身の上がどんなもので、どうして聖剣こんなものを作ったのか問い正したいが、それは後だ、何より驚くのはあれだけ人に傷つけられのにまだ信じようとする自分がいること。

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