1→1「洞窟」

 洞窟内はゴツゴツとした岩を荒削りで、人為的に作られたものか、自然にできたものか判断しかねる。


 中に入ってみると、岩々の隙間から日差しが染み出し洞窟内を照らしていた。


 視界は良好。


 いつでもモンスターを迎撃できるよう、腰からさげた剣に手をかける。


 慎重な足取りで進む、以前にも調査隊がこの洞窟を訪れ聖女を探したらしく、その時の報告にあった内容に、『洞窟内には独自の進化を遂げた強力な個体のモンスターが生息している』と記されていた。


 一体どんな進化を遂げているのだろうか、全容がわかるまで警戒は怠れない。


 少し進むと開けた場所に出た。


 下へ下へと進み日光での光が確保できないため、壁の所々に松明が置かれ洞窟内を照らす。


 この松明は以前の調査隊が設置したものだろうか。

 入口付近とは打って変わって、足場も綺麗に舗装されており歩きやすい。


 しかし妙だな、僕の知る限り調査は数回しか行われていない、にも関わらず、道は舗装され、洞窟内は松明で明々と照らされている。


 たった数回の調査のためにこんなに整備するか? いやどう見ても資金の無駄使いにしか思えない。



 ……どうにもきな臭い。

 


 脚元から感じる土の盛り上がりを僕は見逃さなかった、気づくと同時に大きく跳躍する。


 地面が砕け、土塊が辺に巻き散らかされ、土煙が上がる。


 土煙から影が飛び出す、それはまっすぐ僕めがけて飛んできた。


 正体は巨大なミミズ型のモンスター、洞窟などを住処にしている特段珍しくもない奴だが。


「デカ過ぎだろ、一回りとか二回りとかってレベルじゃない」


 ミミズの額めがけて剣を叩き込む、弾力性に長けた身体は剣で切れず押し返されてしまう、しかしそれでよかった。


 反動を活かし大きく離れる、これで態勢を立て直せる。


 大きさは本来三メートル程だが、目の前の洞窟ミミズは優に十メートル近くはある。


 洞窟の環境がコイツをデカく成長させたのだろう、話しには聞いていたけど予想以上、素早さも本来の物とは段違い。


 加えてあの身体が厄介だ、ブヨブヨとしていて刃が通らない。


 


 刀身に紫色の魔力が通い刃を輝かせる。


 人間は体内に魔力を持っているが、それを体外に放出することができない。

 有り体に言えば魔力はあっても魔法は使えない。


 だが例外がある。


 古の妖精が魔力を込めて彫金した『聖剣』


 聖剣にはあらかじめ魔法が刻まれており、それは人間にも行使が可能。


 使い方は簡単、聖剣に魔力を注ぐだけ。


「聖剣『魔強剣チェーンヴェール』」


 刀身から紫の魔力が溢れ、巨大ミミズを一薙で切り裂く。

 連続で剣撃を浴びせミミズはぶつ切りになり地面を転がる。


 僕の持つ聖剣その名は『魔強剣チェーンヴェール


 使い手の魔力量と出力を上昇させる聖剣。


 肉塊になったミミズ型モンスターに近づく、なんか巨大なハムみたいだ。


 改めてみても大きい、長さも幅も本来のサイズの比にならない、一体何を食べればここまで成長するのだろうか。


 肉塊に背をむけ先に進む、こんなにモンスターがうじゃうじゃいると思うと定住するのはあまり得策ではないかもしれない。


 思った以上に厄介な進化を遂げていた。


 撃退できないことはないが、毎回聖剣を使うと思うと気が滅入る。


 それに今回は一匹だけだったが、集団で襲われようものなら、苦戦を強いられるのは必死。


 この洞窟を住処にするのは無理そうだし、隣国行きの船に乗って亡命しようかな。


 フィーネスの外なら僕の知名度も幾らか低い筈、上手く行けば人里で一生を終えれるかもしれない。


 チェーンヴェールを鞘に閉まったと同時に背中に衝撃が走った。


 何か重い物で思いっきり打たれたような、鈍い痛みが身体を巡り動けない、僕はそのまま壁に叩きつけられる。 


 視界に入った光景に固唾を呑む。


 先程斬り伏せた、ミミズ型のモンスターが再生していた。


 それもただ再生したわけではない。


 「数が……増えてる!」


 驚愕のあまり叫んでしまった。

 バラバラのハム状態だったミミズモンスター、その一つ一つが再生し、新しいミミズモンスターへと生まれ変わっていたのだ。


 本来は再生も分離をもしない、だがこの洞窟の個体はするらしい。


 振り返りきた道を戻ろうとするが、一匹のミミズモンスターが身体を鞭のように振るい、僕を薙ぎ払う。


 その反動でチェーンヴェールは手から離れ地面を転がる。 


 退路を絶たれてしまい、適当な道へ逃げ込む、


 後を追ってくるミミズモンスター、僕は何も考えずひたすら走った。


 どこに通じているかもわからない、どこに出るかもわからない、ただ逃れるために一心不乱に。


 そんな中僕の手の中に魔力の奔流が渦まく。


 これまで何度もくりかえしてきたが、この瞬間は本当に嫌になる。


 渦巻く魔力はその形を一振りの剣のシルエットに変わっていく。


 何度も見た、否応なく見続けた僕を呪う剣。


 コイツのせいで僕は……


 魔力のベールが弾けると、そこには現れたのは聖剣・魔強剣チェーンヴェール


 苛立ちが消えない、頭で考えるよりも先に身体が動く。


 剣を引き絞り突き放つ、切っ先に紫の魔力を集中した突きの連撃。


 〈紫電の滅槍ヴァイオレットスパークル


 切っ先が触れた瞬間、ミミズは爆散した。


 今度は復活しないよな。


 と思っていたが、奴はまだ生きいたらしい。


 一瞬のうちに再生、本日三度目のミミズタックルをくらう、直撃は不味い! 


 身体を魔力の膜で覆い防御に入る。


 ミミズの柔軟性に飛んだボディーが僕を叩きつけ、洞窟の壁を砕き……いやどう言うことだ?



 壁のむこうには森が広がっていた。



 木々が生い茂り、大きな滝がある、ここは洞窟の中ではないのか?

 つまるところ「洞窟の中に森がある」と言うことになる。


 目の前の不思議に目を取ら自分の現状を忘れていた。

 僕の身体は今緑が生い茂る森めがけて真っ逆さま、これは……非常にマズイ!


 


 


 

 


 


 

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