第12話 小さな少女の強さ
『ガン』大きな鈍い音が静かな部屋の中に音が響いて、皆、音に反応した。
幼い少女が原因だと注目した。あまりのことに言葉なく目を丸くする。
テーブルの上に小さな足がある。勢いよく足をテーブルの上に乗せていた。偉そうに足をテーブルの上に乗せ、腕を組んでいた。
幼い少女のまっすぐに前を見つめる瞳には強い意志が宿る。揺らぐことのない信念がある。
隣の玉水は静かに苦笑した。やってしまったと思った。
この子が何か行動に出るとは思ったが、これは想定外だ。それでもテーブルが割れてこの子がケガをしなくて良かった。
この子はこのまま終わらないし、止まることもない。止めるつもりもなかった。
止める必要もない。すべては良い方向へ向かうと確信していた。
彼らの目も醒めるだろう。これくらいでちょうどいいだろうと思った。
「ほう。」
トキは静かに微笑んだ。幼い少女の言動を見守る。
「最期の意志…。お前たちの言う所の最期の意志…てのは、さぞかし、すごいんだろうな。どんなだ。」
紗沙は沈黙を破りため息をついた。体勢は変えず、その瞳は厳しい瞳だ。
「え…。」
棟也は思わず呟いた。
「そこには何もないね。」
瑚羽は静かに言った。
彼らの最期の意志が何かは誰にも分からない。知ることはできない。だが、あのままでは何も残らない。そのことに気付いた。
「あんなの見せしめだろ。」
紗沙は強く言い放った。
見せしめ以外の何物でもない。絶対にあってはならない起こってはいけない事だ。
「見せしめ…。」
椿が静かに呟いた。
「わたしから見れば、あんなのは、ただの見せしめでしかない。」
紗沙は強い口調で言った。
「そうですね。」
玉水は穏やかに微笑んだ。
「ああ。」
瑚羽も静かに頷いた。
今なら、どういうことか理解できる。そのことを受け入れることができる。見せしめだとはっきりわかる。
「なんで…。下ろしてやれない。」
紗沙は悲しそうに問いかける。
なぜ下ろすことをためらうのか分からない。迷うのか分からない。あのままでいいわけがない。
「必要ない。」
ライが静かに答えた。
「なんでだろうね。」
瑚羽は穏やかに微笑んだ。
なぜなのか今のとなっては分からない。理由があったのかも分からない。
「あんな所に…。」
紗沙は言葉に詰まった。
「いたいわけがありません。」
玉水が幼い少女の言葉を続けた。
まだ幼い少女は、そこまで強く冷静ではいられない。あの光景は大人でもつらいモノだ。子供には想像できないほどつらいことだろう。
それでも、乗り越えてほしい。
「そうね。」
桜が静かに頷いた。
「彼らが、あの場所にずっといたいと…。そう願っていたと、お前たちはそう言い切れるのか?」
紗沙は静かに問いかける。
そう願ったと思っているなら、若者たちは間違っている。何が正しいのか分からない。自分だけが正しいと思わないが分かることもある。
あのままにしておいてはいけない。それだけは譲れない。
「そう思うわ。」
椿は静かに頷いた。
ずっと、それが正しいと疑うことなく信じてきたが、幼い少女を前に揺らいだ。
「わたしはそうは思わない。彼らが最期に本当に望んだのは、安らかに眠ることじゃないのか。」
紗沙は静かに問いかける。
「私もそう思います。」
玉水は優しく微笑む。
彼らの願いを知ることはできないが、想いを汲むことはできる。それは遺された人間にしかできないことだ。
「安らかに眠ること。」
ライが静かに頷いた。
「わたしは子供だし、余所者だ。でも、それがなんだ。それでもわたしには、この王国でできることがある。」
紗沙はまっすぐに前を向く。
自分が子供であることは自覚しているし分かっている。この王国の人間でもない余所者であることも分かっている。
だが、それはどうでもいいことだ。彼らのためにやるべきことがある。
「できること?」
桜が首を傾げた。
「わたしが代わりに戦う。」
紗沙の瞳には強い信念が見えた。
戦うことができなかった彼らの代わりに自分が未来のために戦うことを決めた。想いを継いでいくことを墓前に誓った。
「は?」
「なんで…。」
棟也と椿が同時に呟いた。
幼い少女の言葉に驚いた。なぜ戦うのか理解できないが、幼い少女の言葉には強さがあった。
「見た目で判断するな。わたしには、この周りの結界だってなんてことないし、ちゃんと戦える。」
紗沙はしっかりと言った。
自分が子供であることは誰よりも分かっている。それは変えられないが、それで判断されることは納得できない。なぜなら自分は戦えるくらい強い。
「そうですね。」
玉水は優しく微笑む。
隣の少女は大人相手でも十分に戦えるように備えている。どんなことにも対応できるように備えている。そして自分がいる限り、この子は大丈夫だ。
「え…。」
「あなたが戦うの?」
椿に続いて桜が問いかける。
「戦うよ。」
紗沙は迷わずに答えた。戦わない理由がない。
「他人事だろ。」
棟也が問いかける。
「何のために戦う。」
ライが続いた。
なぜ、この子は戦うのか。何のためで誰のためなのか。自分自身のことではなく他人事なのだ。
戦う理由を知りたいと思った。
「わたしはこの王国に来るまで、彼らのような人たちがいることを知らなかった。…。でも、今日、知ったんだ。」
紗沙は静かな声で言った。
その存在すらずっと知らなかった。今日、この王国へ来て多くのことを知った。
そして自分のすべきことに気付いた。だから動いていく。知った以上、放っておくことはできない。
「ええ。」
玉水は静かに微笑んだ。
この子が知るはずのない事だった。自分がこの王国のことを今日まで教えなかった。この王国を避けてきた。この子に非はない。
「どう考えてもおかしいだろう。すべてを諦めて自分の手で生命を絶つしかないなんて。あったらダメなんだ。」
紗沙は静かな声で言った。
ゆっくりとテーブルから足を下ろした。
誰の身にも起こってはいけないことだ。あってはならないことだ。自分の手で生命を絶つことが、どれほどの苦しみか計り知れない。
何があってもすべての人に生きてほしいと願う。
「あってはならないことです。」
トキは静かに微笑んだ。
「だから、わたしが戦う。」
紗沙はしっかりとした口調で言った。
その言葉には力があった。力を持たない人々の代わりに戦うと心に誓った。そこには強い信念があった。
「覚悟はあるの?」
桜が静かに問いかける。
「お前の言う覚悟は何の覚悟だ?」
紗沙は強く問いかける。
まっすぐに桜を見つめる。彼女の知りたいことも求める答えも分かったが、自分の持っている答えは違う。
「え…。」
桜は驚いたように呟いた。
幼い少女の言葉に驚いた。覚悟と言えば1つで、他の覚悟は知らない。自らの命を懸ける。それだけだと思っているが、目の前の幼い少女にはとても言えなかった。
「死ぬ覚悟ならないぞ。」
紗沙はきっぱりと言った。それは必要ない覚悟だと思っている。
「じゃあ。」
棟也が問いかける。
「死ぬつもりはないぞ。そんな覚悟をわたしは持たない。わたしが持つのは生きる覚悟だ。それ以外にはない。」
紗沙は強く言った。
絶対に死なない。どんな時も生きることを諦めない。どんなことがあっても何をしても生きる。自分の意志で生きる覚悟を持つ。
「生きる覚悟か。」
瑚羽は穏やかに微笑んだ。
強い心を持つ少女だと思う。初めて生きることを考えた。今まで、生きるということを考えたことがなかった。
「わたしは生きるんだ。」
紗沙はしっかりと言った。
「大切なことですね。」
玉水はにっこり微笑んだ。
その想いを決して失うことなく心に持っていてほしい。この子には絶対に生きていてほしい。まぁ。この子を生かすために自分がいる。そう思っている。
「ああ。」
紗沙は静かに頷いた。
静かにため息をついて、ソファから立ち上がり、静かに部屋を出た。
自分の想いは彼らに伝えた、これ以上、自分がここにいる必要はない。この先は玉水に任せればうまくやってくれるはずだ。
皆、黙って静かにソファに座っている。各々が静かに考える。心の内に多くの想いがある。これまでの自分たちの人生や歩んだ道を想う。
ずっと光の届かない暗闇の中にいた。そんな中、光が射した。幼い少女の言葉は心に届いた。暗闇の中にも届く明るい光だ。
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