第11話 新たな仲間
そして4人は屋敷に向かって歩いて行く。敷地の西側から屋敷へ向かう。
まずは馬小屋へ向かい馬たちを休ませる。疲れを癒すために法術を使った。
馬たちを馬小屋で休ませる準備をしてから屋敷の中へ入った。
見た目以上に中は広い空間だった。とても立派で豪華な造りで凝っている。その素晴らしさに驚くばかりだ。
玄関ホールは高い天井から太陽の陽が降り注ぐ明るい場所だ。正面に大きな扉があり、扉の両側に階段がある。
4人は大きな扉の前に立っている。トキがその扉を開けた。
「え…。」
「誰だ。」
「瑚羽。」
扉を開けるなり同時に声がした。訪問者の存在を知って驚いた声がした。
その部屋には4人がいた。青年が2人。女性が2人。年は10代後半から20代前半だ。彼らは全員が驚いて立ち上がっていた。
「とにかく座りましょう。お入りください。」
トキは2人の訪問者を招き入れた。
「ありがとう。」
「失礼します。」
紗沙と玉水は頷いて部屋の中に入った。
後ろからトキと瑚羽も続いて入った。トキは2人をソファに案内した。
とても広く立派な部屋だ。応接室か談話室のようだ。ドアの正面に床から天井、壁から壁までの一面の大きな窓がある。カーテンは開いていて外がよく見える。
窓のすぐ外は庭がありその先に林が見える。
部屋の半分をテーブルとソファが占めている。黒に近い茶色の長方形の大きめのテーブルが2つ並び、周りに茶色のソファが並ぶ。2人掛けが2つ。3人掛けが4つ。
半分のスペースには何もない。ただ、空間があった。
紗沙と玉水は上座に案内され並んで座った。トキは紗沙の隣に立っていた。
「それで…。」
女性が静かに問いかける。
瑚羽の隣に座る女性が代表するように瑚羽に問いかける。
黒い長い髪にグレイの瞳。落ち着いた大人の雰囲気の女性だ。年長者のようだった。
若者たちは訪問者を不安そうな表情で見つめる。誰なのかわからない。
分かることは、肌の色からこの王国の人間ではないということだけだ。
「わたしは紗沙。」
「玉水です。」
2人は自ら名乗った。
彼らの表情に戸惑いが見える。その不安が手に取るように分かった。
「俺の仲間たちだよ。こっちから桜。ライ。椿。棟也。」
瑚羽が代表して紹介した。
「よろしくな。」
紗沙は明るく笑った。
「ええ。それで。どういうことなの。」
桜が瑚羽に問いかける。
どういうことなのか答えを求める。この状況を説明するように求める。
「ああ。」
瑚羽は静かに頷いた。
伝えなくてはいけないことがあるが、自分の想いをどう伝えるか考える。
「なんで連れてきた。」
棟也が強い口調で責めるように言った。
銀色の髪に明るい緑色の瞳。彼らの中では一番若いと分かる。誰よりも強気に出る。
「どうして…。」
椿も静かに呟いた。
黒い肩までの髪に青色の瞳。桜と姉妹のようで、よく似ていた。
若者たちは瑚羽を見つめ、その答えを待つ。
紗沙と玉水は黙って状況を見つめていた。自分たちが出るべきではない彼らの問題だと分かった。だから黙って成り行きを見守る。
「彼らを埋葬してくれた。」
瑚羽は静かな声で言った。
どこかスッキリしたような、吹っ切れたような表情をしていた。
「許したのか。」
ライが静かに言った。
黒色の髪に黒色の瞳の静かな雰囲気の青年だ。
「は?」
棟也が声を荒げた。
「俺たちにはできないことを2人はやってくれた。迷うことなく彼らを埋葬してくれた。」
瑚羽はしっかりとした口調で言った。
まっすぐに前を向く。共に未来を目指す仲間たちに分かってほしいことがある。
「埋葬。」
桜は静かに呟いた。
「俺は2人の力を借りたいと思ってる。」
瑚羽はしっかりとした口調で言った。
今の自分たちにないモノを持っている2人の力が、自分たちには必要だ。
「お前…。まさか本気でそんなこと言ってんじゃねぇよな。」
棟也の瞳には強い怒りが見えた。
「本気だよ。」
瑚羽はしっかりとした口調で言った。
なぜ棟也がここまで怒るのか十分に分かるし理解している。それでも彼らの力が必要だ。
「やめなさい。」
玉水が強く言って右手で棟也を止めた。
棟也が勢いよく立ち上がり、向かいに座る瑚羽に飛び掛かろうとしたのを玉水が止めた。
「邪魔するな。どけ。」
棟也は強い口調で言った。
「邪魔などしませんよ。」
玉水は大きなため息をついた。
彼の邪魔をするつもりはないが、この場所でさせるわけにはいかない。他の場所でやればいい。
「じゃ。どけよ。」
棟也はそこをどけと玉水の手を払った。
「どきませんよ。暴力なら外でおやりなさい。この子の前でくだらない暴力は許しませんよ。」
玉水は厳しい口調で言った。
どくつもりは毛頭なかった。引けばどうなるかは目に見えていた。この子の前で暴力を許すつもりはない。他の場所なら何も止めることはない。
「棟也。」
桜は止めるように言った。
「どっちの見方だよ。」
棟也は噛みつくように言った。
「そうじゃないでしょう。とにかく落ち着いて話をしましょう。」
桜は穏やかに微笑んだ。
もちろん彼の味方だが、問題はそこではない。話をすることが必要だ。相手が何を想うのか知る必要がある。
「棟也。少し頭を冷やせ。暴力じゃ何も解決しないことは、お前もちゃんと分かっているはずだろ。」
ライが静かに問いかける。
「それは…。」
棟也は頷いた。
静かに呼吸をして落ち着いた。自分でもよく分かっているし理解している。だが抑えられなかった。ソファに座りなおした。
「それが良いでしょう。」
玉水はにっこり微笑んだ。
「瑚羽。」
桜が瑚羽を呼んだ。
「ああ。そうだな。俺は2人に力を貸してほしいと思ってここに来てもらった。今の俺たちに必要な力だと思う。」
瑚羽は答えた。
まっすぐに前を見つめる。迷うことなく戦っていくことを心に決めた。
なぜか分からないが、2人のことを信じた。そして自分たちに必要な力を持つと感じた。力というより2人の強い心だ。
今の自分たちにはないモノだ。正しいことを正しい。間違っていることを間違っていると言える。
疑うことなく自分自身を信じる心。己の意志を持ち、信念を曲げない。貫いていく強さを持つ。とても強く見えた。
「何が必要なんだ?」
棟也が問いかける。
「彼らの最期の意志でしょう。それをどうして…。」
椿も悲しそうに言った。
彼らの最期の意志だったはずだ。なぜ止めなかったのか。止めるべきだった。
「俺らにはできねぇ。」
棟也はきっぱりと言った。
「できるわけない。」
ライも呟いた。
自分たちには絶対にできないことだ。やってはいけないことだ。
「そうね。」
桜も静かに頷いた。
「そんなことしたら彼らの想いを踏みにじることになるだろう。そんなこと俺らには絶対にできない。」
棟也は強い口調で言った。
彼らの想いを踏みにじることはできない。最期の意志を貫くべきだ。
「私たちの想いは同じじゃないの?」
椿は静かに問いかける。
「同じだよ。」
瑚羽は静かに微笑んだ。
もちろん同じ想いだ。これからも想いは変わることもないし失うこともない。だが自分たちは今のままではダメだ。変わる時が来た。
「こいつはまだ子供だろ。こんな小さな子供にお前は何ができるって言うんだよ。」
棟也は吐き捨てるように言った。
幼い少女を示す。自分たちより幼い少女に何ができるというのか。
「私たちだけでいいわ。」
「余所者だろ。」
椿にライも続いた。
2人は他の王国の人間で余所者だ。そんな人間の助けは必要ない。
若者たちは次々に自分の想いを告げた。この場所に自分たち以外の人間が入ることは、あってはならないと思っている。ずっと自分たちだけだった。それが破られる。想像できない。
「ああ。」
瑚羽は静かに微笑んだ。
彼らの反応は分かっていた。理解できる。だが分かってほしい。大切なことに気付いてほしい。
「しっかりしろよ。」
棟也はため息をついた。
静かな空気が流れた。誰も何も言わなかった。若者たちの心に大きな不安が見えた。
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