第2話 島国
「本当にキレイな海だな。」
紗沙は静かに微笑んだ。
素直にキレイだと思った。澄んだ青色。明るい青色に濃い藍色に群青色。海に色々な青色がキラキラ輝く。太陽の陽が眩しいくらい輝く。
珊瑚王国は海に囲まれた島国だ。本島の周りに多くの島、30以上の島から成り立つ。小さな島が多く、ほとんどが無人島で人が住めるのは三分の一ほど。国土は七宝の中で最も狭い。
2人は海の向こうから法術を使って渡って来た。船で渡るのが通常の手段だが船は時間がかかるため速い方法を選んだ。
「ええ。」
玉水は優しく微笑んだ。
「自然がいっぱいだ。」
紗沙は明るく笑った。
海とは反対側の陸を示す。そこには生命力に溢れる自然があった。
そこは昼間とは思えないほど先の見えない密林だ。多くの種類の木や植物が生い茂る。
初めて見るモノも多く、その種類の多さに目を見張る。
紗沙にとっては初めての王国だ。知りたいと思った。
「そうですね。私たちの王国とは気候が違うので違うので育つ植物も違うので育ちやすい環境があるのでしょうね。」
玉水はにっこり微笑んだ。
まっすぐに幼い少女を見つめる。この子に自分の知る知識のすべてを教え伝えていくことが自分の役目だと知っている。
「9の月なのに暖かいな。」
紗沙は言った。
この王国へ来てまず感じたのは気温が高く、温かいというだ。気候の違いを肌で感じる。
今は9の月の後半だが、この王国では半袖で充分だった。故郷はもっと涼しく長袖が必要だ。
「この王国は七宝の最南端に位置しているので、とても暖かい王国なのですよ。」
玉水は優しく微笑んだ。
幼い少女の頭を大きな手で優しく撫でながら分かるように説明していく。1つずつ言葉を選び答えていく。この子のために適切な言葉を使う。
紗沙は「そうか。」と素直に納得する。
まっすぐに玉水を見つめる七宝色の瞳には信頼がある。
この子にとって玉水は特別な存在だった。師であり兄であり、父のようでもある。玉水はどんな時でもすべての事から紗沙を護る。そして大切に想い愛情を注いでいる。
玉水は世話役として紗沙が生まれた時から離れることなく一緒にいる。
紗沙は玉水から多くのことを学ぶ。法術の使い方。剣術、体術。そして生きていくために必要な知恵と能力。礼儀や風習、他人との交流の仕方。料理や洗濯。とにかく生きていくための必要な知識を学ぶ。
どんなことがあっても1人で生きていくために備える。どんな時でも生き抜くために、玉水はこの子を強く在るよう育てた。
紗沙は玉水にとってのすべてだ。同時に玉水は紗沙のすべてでもある。
だから紗沙はどんな状況でも無条件で玉水が正しいと信じる。いつも正しい道を示し導いてくれる。迷わずに歩いていけるよう共に歩む。
「ええ。」
玉水はにっこり微笑んだ。
「この王国は人口が少ないのか?」
紗沙は不思議そうに首を傾げた。
幼い少女は、ふと自分はこの王国のことを何も知らないと気付いた。海に囲まれた島国で、七宝で最南端に位置する最も小さな王国。そのくらいのことしか知らない。
「そうですよ。この王国は七宝で最も小さな王国ですから、他の王国より人口も少ないのですよ。」
玉水は穏やかに微笑んだ。
自分の役目は、この子に自分の知る全てをこの子に分かりやすく教え伝えていくことだ。
すべての事に理由があり原因がある。疑問を持つことは大切なことであり、自分の考えを持つことは意味のある大切なことだ。
ただ答えを与えるだけでは意味がない。答えだけではなく根拠となる事柄を与え、自分で考えさせる。自分の力で答えに辿りつけるように導く。
すべての情報を繋げて考えられるように多くの情報を与える。
様々な角度から物事を考え、色々な方向から見られるように情報を与える。1つの見方ではなく、色々な側面から物事を見られるようになってほしい。いつでも答えは1つではなく、答えはいくつもある。
広い視野を持てる人間でいてほしい。この子の世界は広くあってほしい。広い視野を持つことで可能性が広がる。
そして自分の考えを考える力を養うことが重要だ。まだ幼く考える力も経験も足りない。
だからこそ多くのことが必要となる。意味のないように見える小さなことにも意味がある。
この子には強い意志を。新年を持っていてほしいと玉水は願う。いつでも自分を貫くことができる強い心を持てるよう願う。
「この王国は何が栄えてるんだ?」
紗沙は明るく笑った。嬉しそうに瞳がキラキラ輝く。
幼い少女にとって初めての王国なので、すべての事が新鮮だった。知ることはとても楽しかった。
「この王国では織物や焼物が栄えています。独特な果物や野菜も珊瑚王国の特徴的なものですね。」
玉水はにっこり微笑んだ。
幼い少女の疑問に丁寧に答えていく。
この王国では工芸品が栄えている。特徴的な素材で作るため珍しい形や自然由来のモノが多い。
果物や野菜もこの王国でしか育っていないモノも多い。
「島国で、この気候だからか。」
紗沙は明るく笑った。
1つ分かると嬉しいし楽しかった。多くのことを学び理解し、同時に多くのことを頭に叩き込んでいく。
「ええ。」
玉水はまっすぐに紗沙を見つめた。
幼い少女はとても賢く理解力もある。この子の年では並外れたモノだ。
紗沙の笑顔はまるで太陽のようにキラキラと輝く。闇を照らす光となる。いつでも自分に向けて笑うこの子の笑顔が救いだ。この子の笑顔にどれだけ救われているか分からない。
傍にいることで自分の心は救われている。だからこの子を失うことはできない。
護るためなら何でもする。自分のすべてを懸けて護る。この子のために生きることは、この子に出逢った日に心に誓った。
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