七宝と龍
美李
第一章 珊瑚王国へ
第1話 最果ての王国
(1) 珊瑚王国
七宝歴997年 9の月
「遠かったなぁ。」
1人の少女が静かにため息をついた。
小さな身体を大きく伸ばして青い空を仰ぐ。まだ朝も早く澄んだ空気が心地よい。
「そうですね。」
隣の青年がにっこり微笑んだ。
青年も美しい青い空を見上げた。美しい空の下、2人は並んで寄り添うように座る。
1人は幼い少女。
月色の肩までのサラサラと風になびく髪。金色と白色の混ざったような銀色。太陽の陽で髪がキラキラ輝く。
七宝色の大きな瞳。青色よりもっと明るく深い群青色に金色を混ぜたような不思議な色だが美しい色だ。太陽の下では金色に見える。
透き通るような白い肌。大きな瞳に整った顔立ちの美しい少女だ。将来は絶世の美女になるだろう
名は
もう1人は紗沙より年上の青年。
明るい茶色の髪に瞳。太陽の下では茶色ではなく金色に見える。
青年も整った顔立ちをしている。優しく穏やかな表情はどこか女性的だ。線は細いが鍛えられた身体をしているのがわかる。
名は
どこにいても目立つくらいとても美しい2人だ。2人でいればすぐに見つけられるだろう。年の離れた兄妹に見えるが2人に血のつながりはない。
2人は旅人。2人で旅を始めて5年になる。この5年で多くの場所へ行った。
2人はいつでも何にも縛られることなく自由に行きたい時に行きたい場所へ行く。いつでも自分たちの意思で動く。
自分たちの行動のすべてに己で責任を持つ。その先に自由があると知っている。
「この王国は遠かったですね。ここまで遠い場所への道程でこれだけ急いだのは初めてでしたね。疲れましたか?」
玉水は優しく尋ねた。
隣の少女を優しい瞳で見つめながら紗沙の頭を大きな手で優しく愛おしそうに撫ぜる。
この王国は遠かった。この王国を目的地として目指してきた。これまでの旅で目的の地を明確にして目的の地へ急いだことはなかった。
いつもは自分たちの目で多くのことを見て学びながら歩くスピードで進むが今回は時間がなかった。
「ちょっと疲れた。」
「では、このまま少し休みましょう。」
明るく笑う紗沙に玉水は優しく微笑む。
玉水は紗沙に休息が必要だと判断した。
まだ小さな身体は成長の途中で体力もなく、幼いが故に疲れていても自分では気づかない。
だから傍にいる玉水は自分の責任として紗沙のことを見守っている。
「うん。」
紗沙は嬉しそうに頷いた。
そして玉水の膝の上に頭を乗せ寝転んで、いつものように休息を取る。
「素晴らしい眺めですね。」
玉水は静かに微笑んだ。
「海に吸い込まれそうだ。」
紗沙も静かに言った。
どこまでも続く青く美しい海原が広がる。太陽の陽が波に反射してキラキラ輝く。静かに波の音が響いて、穏やかな風が心地よい。まるで偉大な自然に護られているようだ。
2人の他には人間はいない。2人の少し後ろに二頭の馬がいる。
白い毛並みに青い色の少し小柄な馬は紗沙の馬だ。名はキラ。
茶色の毛並みに黒い瞳の成人の馬は玉水の馬だ。名はナギ。
2人の大事な旅のパートナーであり、ずっと一緒に旅をしてきた愛馬であり家族だ。
「本当ですね。」
玉水は頷いた。
自分の膝の上の少女を優しい瞳で見つめる。何よりも大切な子だ。自分の持てる力のすべてを懸けて護ると心に誓っている。
2人は海岸にいる。すぐ下は崖となっている大きな岩の上に座っている。海までは30メートルほどの絶壁にいる。ごつごつした岩ばかりで落ちれば、まず岩に当たり命はないだろう場所にいる。
ここは
故郷からは遠く時間もかかったが2人はここまで来た。来る必要があった。この王国に目的があり、答えを見つけるために来た。
故郷を出発してから3週間ほどが経っていた。季節も変わり始め、ゆっくりと寒い季節に移り変わっていく。
珊瑚王国は七宝の最南端に位置しているため、とても暖かく1年を通して気温が高く過ごしやすい。そして他の王国から離れている。海に囲まれ多くの島々から成り立つ島国だ。
2人は海を渡って来た。
紗沙は初めて珊瑚王国に来た。いつか来たいと思っていたが、今回の訪問が楽しいモノではないと分かっている。果たすべき目的があり、それは自分たちにしかできないことだ。
黄金王国から珊瑚王国までは本来ならどれだけ急いでも3カ月はかかる距離だが、2人は3週間で到着した。
2人はいくつかの法術を組み合わせて使った。まずは馬が足を痛めることのないように馬の走りやすい道を作り風の抵抗を防いだ。馬の負担も軽くなる。
2人は、雨の日以外、ほぼ毎日1日中、馬で移動していた。
日々の疲れは人間も馬も法術で癒した。次の日に残らない確実な方法だ。雨の日以外は、とにかく珊瑚王国を目指して走ってきた。
そして3週間で珊瑚王国に到着した。このことを信じる者は少ないだろう。法術を使っても不可能だと誰もが思う。
だが2人は他の人間にはできないことができる。不可能を可能にする力を持っていた。何より、どんなことをしてもこの王国ん育る必要があった。そのためにあらゆる手を使った。
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