表裏一体②

 麓に降りると、木でできた古い廃墟があった。そこが、山賊達の拠点である。

「いたっ……」


 後ろで鍵が閉まる音が聞こえた。

 シオンはその後、腕を背中の後ろで縛られ、小さな部屋に閉じこめられてしまった。


「大人しくしてろよ」


 扉の奥から山賊達の笑い声が聞こえ、そのまま彼らは去っていってしまった。

 シオンは両手が縛られた状態で何とか立ち上がり、辺りを見回す。ぼろぼろの汚いベッドとデスクがあるのみの小さな部屋。窓が一つだけあるが、小さい上に窓硝子が割れていて脱出は難しい。


「どうすれば……」


 いつもの頼れるフロスティアとはぐれ、シオンは一人うなだれていた。


『シオン』


 どこかから、声が聞こえた。

 だがシオンは、その声の正体を知っている。


「どうすればここから出られるの?」


 シオンはその声に尋ねた。


『落ち着いて。ベッドの近くに、窓硝子の破片が落ちていないか確かめて』

「う、うん……」


 言われるがままに、ベッドの周りを確かめると、ベッドの下に、硝子の破片がいくつか転がっていた。


「取れない……」

『……しばらく、変わってもらってもいい?』

「できるの……?」

『私ならここから出られる。あの竜も助けには来るでしょう。それまで、いい?』

「……分かった。……お願い」


 景色は暗転し、彼女『達』はお互いに体を譲り合う。共生というよりも、共依存。


 硝子の先端で縄を切り、両手が自由になったところで、次に目を付けたのはぼろぼろになった部屋から飛び出た針金である。

 ところどころが錆びているが、問題はなさそうだ。それを指で折り、鍵穴に上手く差し込むと、鍵の開く音が聞こえた。

 扉をそっと開け、誰もいないことを確認する。山賊達の声が聞こえるのは左側の通路から。どうやら、シオンをどうするかを話しているらしい。

 反対側の廊下を渡っていく。大丈夫だ。このまま、出口へ向かえばいい__


 ミシィ、と床が軋む音がした。

 廃墟である故に、床は老朽化が進んでいる。

 先ほどまで聞こえてきていた山賊達の声が止まった。まずい、気づかれた。気づかれてしまった以上、慎重に進むのは意味がない。思い切って、走る。


「あいつ、なんで出てきやがったんだ!?」

「そんなことはあとだ、捕まえろ!!」


 少女の足で、男性三人を振り切るのは無理がある。早く外に出なければ。

 廊下の突き当たりに、扉があるのを見つけた。勢いのまま扉を開け、そのまま突っ切る__つもりだった。


「__!」


 そこは、床の半分が老朽化で崩れてしまった裏口だった。

 もともとそこにあったのであろう階段は、今は見る影もない。つまり、目の前に広がっているのは、落ちたら怪我ではすまないような深い崖であった。


「へへっ、チェックメイトだ。お嬢さん」

「大人しく降参しな」


 山賊達の勝ち誇ったような表情に、思わず不敵な笑みを浮かべて、


「……そうね。チェックメイトよ」


 崖に向かって、強く蹴り出した。

 崖に真っ逆様に落ちていく様を見て、山賊達はさぞ驚くことだろう。遠くから聞こえる声は聞き取りづらいが、だいたい想像出来るもの。

 背中に現れた美しい羽が、彼女を守る。

 崖の中を軽やかに泳ぐその姿は天使のような美しさを持っていた。


「シオンッ!!」


 遠くから聞こえた声は、竜精であり、シオンの友達であるフロスティアの声だった。


「……お友達が迎えに来たわ。もうそろそろ、変わるね」


 そう告げて、羽を閉まった。


「__ふぇっ? きゃああああっ」


 崖を落ち、もう少しのところでシオンはフロスティアに救われた。


「……あ、あれ……?」

「大丈夫か? というか、一人であいつらから逃げ出せたのか」

「あ……うん。大丈夫……なんとか」


 シオンは体制を直し、今までの事を思い出そうとした。


(……ぼんやりとしか、覚えてない……)


 山が見渡せるほど高度があがったところで、フロスティアからぬいぐるみを手渡された。


「持ってきてくれたの……?」

「旅の土産だろ。大切に持っておけよ」


 フロスティアは若干ぶっきらぼうに言い放ったが、それでも彼の気遣いはシオンに伝わったようで、腕の中にぬいぐるみを埋めた。


「ありがとう。大切にする」

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