第9話 バニコロ島へ海兵隊上陸

 ハルゼーによるサンタクルーズ攻略が開始されたのは十一月一日であった。

 空母「エンタープライズ」と「ホーネット」・「サラトガ」からなる機動部隊が援護し、戦艦「ノースカロライナ」を中心とした攻略部隊が第1海兵師団をサンタクルーズ諸島の南東にあるバニコロ島に上陸させる。

 バニコロ島には日本陸軍の川口支隊の三〇〇〇名が守備隊として配置されていた。

 川口支隊を率いる川口清武少将は上陸を受けた日中は部隊を内陸へ後退させた。その中には飛行場建設を行っていた海軍設営隊も含まれていた。

 「このまま明日を迎えては敵が増強されるばかりであろう」

 川口は自ら持つ兵力が三〇〇〇であり、優位で無くなるのは時間の問題であると感じていた。しかし海兵師団は一万名を既に上陸させており川口が思うよりも大きな戦力差が生じていた。

 「ユトゥプア島から舞鶴大隊を呼び寄せてから反撃しては?」

 支隊の主力である歩兵第百二十四連隊の連隊長である岡崎明夫大佐は川口に提案する。

 川口支隊はバニコロ島の北にあるユトゥプア島に歩兵第百二十四連隊の舞鶴大隊こと第二大隊を送っていた。 

 これはサンタクルーズ諸島へ仙台第二師団の進出が遅れた為である。

 こうした事情からバニコロの川口支隊は歩兵二個大隊を中心に砲兵・工兵・防空などの諸部隊からなる三〇〇〇名になっていた。

 「舞鶴大隊を待っていては時機を逸する。今夜、夜襲をかける」

 川口の決心により川口支隊は十一月二日未明に夜襲をかけた。

 第1海兵師団は川口支隊がすぐに内陸へ退却した事から海軍設営隊が建設を終えたばかりの飛行場を奪い橋頭保から飛行場にまで部隊を進めていた。

 川口は第一大隊を橋頭保の正面、第三大隊を橋頭保の右翼から攻めるよう指示を出した。だが、これが二個大隊の足並みが乱れる事になった。

 一斉に二方向から攻める筈が第一大隊だけが攻撃開始時刻に攻撃を開始、第二大隊は一時間後に攻撃を開始した。

 橋頭保を守る第5海兵連隊は第一大隊の攻撃を銃撃と砲撃で撃退したが、第二大隊の攻撃には不意を打たれる事になった。一時混乱した海兵隊員であったが、「お前達は永遠に生きたくないのか!」と言う激励によって立ち直り踏み止まった。

 川口は攻撃失敗を知り、夜明け前に攻撃中止と撤収を命じた。


 「とうとう反撃に来たようだな」

 トラックの戦艦「大和」で山本はバニコロ島への敵上陸を聞くと確信した。

 米軍は本格的に動き出したと。

 「大本営は米軍の反撃は来年であると予測していますが」

 黒島が大本営を嘲笑うように言う。

 「アメリカの国力は桁違いだ。大本営の予測通りにはならんよ」

 山本の答えに黒島は笑みを浮かべて満足する。

 「長官、ラバウルの第八艦隊と第十一航空艦隊が出撃すると言っています」

 宇垣が報告する。

 「第八艦隊の出撃は中止だ。空母もある敵艦隊には敵わんだろう」

 山本は巡洋艦と駆逐艦しか無い第八艦隊の出撃を止める。

 空母の存在はバニコロ島が艦上機による空襲を受けていると言う海軍設営隊の報告から推察されていた。

 「第十一航空艦隊は反撃せよ」

 山本の許可もあり、第十一航空艦隊はサンタクルーズ諸島北部にあるネンドー島から零戦八機と一式陸上攻撃機六機を出撃させた。

 敵機動部隊の所在が掴んでいない事もあり、バニコロ島の沖にある米軍輸送船団を攻撃する。爆装の一式陸攻が船団を護衛するF4Fによって三機の犠牲を出しながら輸送船二隻を炎上させた。

 「第三艦隊と第七艦隊に出撃準備を命じる」

 山本はトラックにある第三艦隊と第七艦隊に出撃を命じた。どれも空母を持つ艦隊だからだ。

 「第七艦隊もですか?」

 宇垣が聞き直す。

 「そうだ。敵空母が来ている。こちらも全力で出ねばならん」

 山本はミッドウェー防衛用と言える第七艦隊もバニコロ島の救援に出撃させようとしていた。

 「各種空母六隻を集中し、サンタクルーズにある敵空母を撃滅する!」

 山本は空母「翔鶴」と「瑞鶴」に「隼鷹」・「飛鷹」・「龍驤」・「瑞鳳」の六隻を集中投入して米空母との決戦をしようとしていた。

 「空母の全力で行くか・・・」

 サンタクルーズ諸島方面への出撃を聞き、山口は気持ちが分かれていた。

 戦力の集中、好機を掴む、そうした意味で全力で当たるのは分かる。

 だがミッドウェーに出せる空母戦力が皆無になる。米軍がどれだけ空母をサンタクルーズに出しているか日本軍にとっては不明なだけに山口にとって不安がある。

 「南へ引きずられる・・・だが戦機は逃せん・・・」

 相反する考えを抱きながら山口は出撃準備にかかる事になる。

 十一月四日早朝にトラック島から第三艦隊と第七艦隊が出撃した。

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