第8話 米軍反攻に動き出す

 日本海軍第七艦隊、ミッドウェー防衛をはじめ米軍が中部太平洋において侵攻をした際に対処する為に編成された艦隊だ。

 「とはいえ、南へ引きずられている」

 第七艦隊司令長官である小沢治三郎はトラック島の戦艦「霧島」で不満に苛立っていた。

 ハワイの前面にあるミッドウェーこそ、敵が奪還に来るだろう所だ。

 サンタクルーズ攻略にまで進んだFS作戦、米空母機動部隊のサンタクルーズ空襲と陸軍のポートモレスビー侵攻の失敗が重なり、南太平洋での戦況は悪化していると言って良かった。

 軍令部はサンタクルーズの防備強化に注力し、陸軍は東部ニューギニアを失うまいと新たな戦力を投じている。

 これに米軍の動きがサンタクルーズやニューギニアで展開されれば南太平洋がこの戦争全体における焦点になるように見える。

 ミッドウェーを軸に中部太平洋で米艦隊を邀撃する為に編成された第七艦隊の意義が無いと小沢は憤懣があった。

 「貴様はどうなんだ?このまま南へ引きずられる事は」

 小沢は「霧島」へ報告に来た山口へ尋ねる。

 「面白くはありません。山本長官もその点は悩んでおられます」

 「大和」で山本と話したばかりの山口は小沢へ連合艦隊司令部の様子を語り始める。黒島がポートモレスビー攻略を提案した事もである。

 「ポートモレスビー、確かにラバウルの横腹を突く位置にあるが遠い」

 小沢はポートモレスビー攻略の意義は認めたが地理的な遠さで否とした。攻略は海から可能であろう、だが豪州本土を目の前に輸送船が航行できる補給線が維持できるかどうか。

 「山本長官はポートモレスビーに関しては保留としました。ミッドウェーの防備を固めるのが優先だと決心されております」

 「そう言ってくれたか」

 小沢は安堵するような態度を見せた。

 「さて問題はミッドウェーの防衛だ。再建や増強までどう守るか」

 小沢はミッドウェーを現状でどう守るかの話に切り替える。

 ミッドウェーは陸戦部隊に大きな損失は無かったものの、空襲と海兵隊の襲撃で飛行場が大きな被害を受け特に航空隊は数機の水偵しかない。

 上空が無防備なミッドウェーはまさに危機的な状況にある。

 「現状で敵艦隊が来ればミッドウェーは耐えるだけ、我ら第七艦隊が出きるだけ早く救援に行くしかありません」

 山口は持論を述べる。

 「そうだ、その通り。だが敵艦隊の動きを察知しなければ初動が遅くなる」

 「索敵の強化ですか?」

 「そうだ。索敵でハワイから出た時から掴んでおれば、貴様の機動部隊で先制攻撃もできるだろう」

 小沢は救援ではなく、先制で米艦隊を叩くのを望んでいた。

 「良い案です。敵がミッドウェーへ着く前に叩く、実に良い」

 山口は小沢の考えを気に入る。

 「そうなれば、潜水艦や飛行艇が欲しいですな」

 索敵の戦力を第七艦隊は増やさなければと山口は言う。

 潜水艦は海中に潜んで長期の監視ができる。飛行艇は長距離の索敵が可能だ。

 「飛行艇は以前から要望していた。潜水艦は南太平洋への配備もあるから難しいそうだ」

 小沢は第七艦隊司令長官就任してすぐにミッドウェーか第七艦隊への飛行艇配備を要望していた。更に潜水艦部隊も要請したが難色を示されていた。

 「とにかく戦線が広すぎる。何もかもが足りない」

 山口は太平洋が広くある事を今更ながらに悔やんだ。


 昭和十七年十月中旬、米軍の南太平洋部隊司令官がウィリアム・ハルゼー中将に交代した。

 先の山口が率いる第二機動部隊に対する対応の消極さからゴーレムから替えられたのだ。

 「サンタクルーズを取り返すぞ。すぐに準備にかかれ」

 盛牛とも言われるハルゼーはその積極性を着任してすぐに示した。

 「ポートモレスビー防衛支援の要望がありますが」

 参謀がハルゼーに尋ねる。

 ワシントンやハワイの太平洋艦隊司令部からポートモレスビー防衛の支援を出きる限りせよと要望が出ていた。

 サンタクルーズ奪還作戦をするとして、要望に対してどうするか尋ねているのだ。

 「要望とやらには、具体的に何かをしろとは書いてないだろう?」

 ハルゼーは逆に参謀へ問う。

 「はい」

 「支援のやり方は任されているんだ。サンタクルーズへ俺たちが行けば日本軍はポートモレスビーへ集中できない。それが支援になるんだ」

 ハルゼーの考えに参謀達は納得した。

 そもそもポートモレスビーの件はマッカーサーの発言力のせいだろうと誰もが分かっていた。だからハルゼーの考えを聞くだけで十分だった。

 ハルゼーが反攻の準備を始めた頃、ニューギニアでは日本軍第六師団が南海支隊を追撃していたオーストラリア軍と交戦を繰り広げていた。

 マッカーサーはニューギニア南部のミルン湾沿岸からアメリカ軍を北上させ、第六師団を南と西から攻める作戦を実行に移していた。

 第十七軍司令部は第六師団が展開するブナより北のラエに司令部を置き、第四十八師団は台湾歩兵第一連隊など一部がラエに到着していたが師団主力はまだ輸送中である。

 マッカーサーはポートモレスビーから爆撃機を出撃させ、ラバウルを爆撃し東部ニューギニアの制空権を得ようと本腰で反撃に出始めていた。

 「海軍の支援があればブナやラエを拠点にしている日本軍を早期に撃破できる」

 マッカーサーは戦況報告にそう書き、東部ニューギニアでの海軍の支援を案に催促した。

 「そんな役目はオーストラリア海軍にやらせておけ、こっちはサンタクルーズ攻略準備で忙しいんだ」

 ハルゼーはマッカーサーからの遠回しな要望を一蹴した。

 「これでやれる」

 南太平洋での動きを見ながらスプルーアンスはハワイで新たな作戦を立てていた。

 ニューギニアで打って出るマッカーサー、サンタクルーズに攻め込むハルゼー、これで日本軍は南太平洋に釘付けだろう。

 「長官、ハルゼーが動いた後で作戦を実行したいと考えます」

 スプルーアンスはかねてから立案していたミッドウェー襲撃に続く、ミッドウェー奪還作戦を準備していた。

 「良いが、空母があれだけでは少々心配だな」

 ミニッツが指す空母は「トロンタリア」と言う護衛空母だ。

 太平洋戦争開戦前から戦時標準貨物船を改造して作られていた「アヴェンジャー」級空母の1隻だ。

 当初作られた4隻(3隻はイギリスへ供与)に加えて、追加分の2隻の1隻が「トロンタリア」だった。

 当初は大西洋に配備されるところを太平洋へ回したのである。

 空母とはいえ、全長150m、排水量8000トンの小型空母であるから搭載機は30機である。

 だからミニッツは少々心配と言ったのだ。

 「ミッドウェーの航空戦力がまだ強化される前なら、小型の護衛空母で十分かと」

 スプルーアンスはミッドウェーがまだ航空戦力が整っていないと見ていた。

 「そうだな。今回のミッドウェー作戦の主役は戦艦4隻だしな」

 ミニッツが言う主役となる戦艦4隻

 それは「ペンシルベニア」・「メリーランド」・「テネシー」・「コロラド」の事だ。

 真珠湾攻撃をアメリカ西海岸にあるピュージェント・サウンド海軍工廠に居た事で免れた「コロラド」以外の3隻は、真珠湾攻撃の損傷が軽度であった事から戦列に復帰した戦艦である。

 空母が南太平洋に振り向けられている事と、ミッドウェーの日本軍航空戦力が強化されていない状況ならばと戦艦を主力とした攻略部隊を編成したのである。

 「後はハルゼーが日本の空母をどれだけ引っ張り出せるかだな。作戦開始はそれによって決める」

 ニミッツは新たなミッドウェーへの作戦方針を定めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る