第6話 襲撃作戦終了

 一木支隊からの増援である歩兵中隊を乗せた大発の一群はスピット島を目指して進む。

 イースタン島へ向かいたいが、スピット島を放置してはおけない。

 イースタン島への増援第一陣である歩兵中隊の中隊長である宇田大尉は、上官である大隊長からスピット島の奪還を命じられた。

 スピット島を制圧してからイースタン島へ向かうと言う方針が一木支隊長によって定められたのもある。

 「スピット島へ向けて撃て!」

 大発に載る九二式歩兵砲が仰角を上げて迫撃砲のように射撃を始めた。

それを合図に歩兵達が小銃や軽機関銃でスピット島へ射撃を始める。

 スピット島の海兵隊は日本軍を近づけまいと銃撃をする。

 「突撃だ!上陸せよ!」

 宇田は信号銃で照明弾を打ち上げる。

 それを合図に大発は速度を上げてスピット島へ突き進む。

 歩兵砲の援護を受けた日本軍歩兵が大発から飛び出す。

 海兵隊はスプリングフィールドM1903小銃を持つ兵士が小銃に着剣して突撃する日本兵に立ち向かい、BARもといブローニングM1918A自動小銃を持つ兵士は至近距離で連射を浴びせる。

 激しい闘魂を燃やし、海兵隊は日本兵と入り乱れて戦う。

 だが、五十人に満たない海兵隊と百人以上の中隊とでは分が悪い。

 スピット島の海兵隊は残り二十人ほどに減ったところで降伏した。

 このスピット島の戦いは日本軍の圧勝であったが、一つの成果を米軍は残す。それはイースタン島の海兵隊主力の離脱を成功させる時間を稼げたことだろう。

 イースタン島の海兵隊は「ヒューズ」と「モリソン」の艦砲や機銃の援護射撃を受けながら日本軍が浜辺に置いたボートや「アルゴノート」と「ノーチラス」からのゴムボートに乗って撤収を成功させた。

 こうして米軍にとっては襲撃作戦自体は成功する事になる。

 日本軍にとっては一部の奪取には成功したものの、取り逃がすと言う撃退や勝利をしたとは言い難い結末になった。

 このミッドウェー襲撃作戦で日本軍はミッドウェー基地の強化があまり進んでいないと判断された。

 飛行場に航空機があまり置かれていない。島の防御に魚雷艇や砲台などを置いていない。と言う二点がそう米軍に判断を与えた。

 スプルーアンスはミッドウェー襲撃作戦を成功させた後で太平洋艦隊参謀長に就任する。就任早々に彼は「未だ手薄なミッドウェーを奪還すべきです」と上官である太平洋艦隊司令長官のニミッツに改めて進言する。

 太平洋での海軍戦略を検討する場で合衆国艦隊司令長官兼海軍作戦部長であるアーネスト・キング大将は「優先順位はハワイに任せて良いだろう」と述べた。

 中央からの強い指揮監督よりも現場の独立した判断をすべきとするするキングらしい判断であった。

 同盟国のオーストラリアとニュージーランドに配慮をすべきではの意見があったが、限られた戦力の投じ方は任せるべきとキングは譲らなかったとされる。

 これはスプルーアンスにとっては追い風に思えた。

 だが、事態はその追い風を止ませる。

 十月上旬に空母「隼鷹」と「龍驤」からなる第三艦隊が東部ニューギアニア沖のソロモン海で作戦行動を始めた。

 第三艦隊が東部ニューギニアでの戦力強化を行う輸送を援護する為だ。

これは七月から展開されていた南海支隊による陸路からのポートモレスビー攻略作戦がオーストラリア軍の粘り強い抵抗により頓挫した事に起因する。

 南海支隊は上陸したニューギアニア東部のゴアと言う沿岸地域にまで戻っていた。

 大本営はニューギニアの戦況悪化に対して戦力強化を図り全面撤収をさせようと決めた。

 大陸からソロモン諸島へ配備しようとしていた第六師団とインドネシアから第四八師団をブナに配備する事を決めた。

 まず、第六師団をブナへ送るべく第三艦隊に護衛された輸送船団が十月上旬に出港した。

 ラバウルの海軍航空隊はポートモレスビーへの空襲を行い援護した。

 空と海からの援護を受けて第六師団の上陸は成功した。第六師団は戦いオーエンスタンレー山脈の頂きにまで登ってボロボロとなった南海支隊を収容した。

 南海支隊はラバウルに送られて再編成される事になる。

 第六師団はブナに拠点を置き、防備を固めて後続の第四八師団を待つ事とした。

 大本営は百武晴吉中将を司令官とした第十七軍司令部に第六師団と第四八師団を指揮させる事にした。

 この時点で日本軍にはポートモレスビーへの再進撃は念頭に無かったものの、アメリカ軍とオーストラリア軍には日本軍はポートモレスビー攻略を諦めず戦力を増強したように映る。

 「南太平洋の最前線はここだ!ニューカレドニアやサンタクルーズではない!」

ポートモレスビーで指揮を執る南西太平洋方面最高司令官のダグラス・マッカーサー大将はワシントンへ訴えた。

 これは補給や戦力配備の優先度を上げる為であった。

 マッカーサーの言動は太平洋艦隊司令部にも響く。

 「ポートモレスビーに拘る必要は無いように思えますが・・・」

 スプルーアンスはポートモレスビーを棄てて、オーストラリアに退却すれば良いと思えたが反撃やオーストラリア本土の防衛線を前へ出す為にポートモレスビーが必要なのも知っていた。

 だが、マッカーサーの要望は自らの野心に基づくのではと思われた。

しかし無視はできない。

 「ポートモレスビー防衛の作戦に協力すべしと大統領から要望があったよ」

 ミニッツはスプルーアンスに語った。

 またミッドウェーを奪還する時が遠のいたと実感した。

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