第5話 ミッドウェー襲撃作戦

 潜水艦「アルゴノート」は全長百十六mで、水上の排水量二千七百十トンと大型の潜水艦だ。

 この潜水艦は機雷を積んで機雷の敷設をする潜水艦として作られたが、日米開戦後は機雷を積めるのを利用して輸送潜水艦に改造された。

 そして、輸送潜水艦「アルゴノート」として初めての任務がミッドウェーを襲撃する海兵隊の輸送だった。

 「ミッドウェーにより攻撃を重ねて、日本軍にミッドウェーと南太平洋のどちらに戦略の重点を置くかプレッシャーを与える」

 ミニッツはこの作戦についてスプルーアンスへこう述べていた。

 太平洋の西半分を制して、主導権をまだ握っている日本軍の進撃を足踏みさせるには疑念を持たせる心理戦も必要としているのだと。

 八月十九日午前二時、「アルゴノート」と「ノーチラス」はミッドウェーより北の海域に浮上した。

 二隻から二百二十二人の海兵隊がゴムボートに乗り換えてミッドウェー島を目指す。

 半月の夜、なるべく音を立てずにボートは進む。

 とはいえ、二百二十二人が分乗するゴムボートの群は見つかる危険性が高い。

 陽動として米軍は「シムス」級駆逐艦の「ヒューズ」と「モリソン」をミッドウェーへ送り、艦砲射撃による支援を行わせた。

 ミッドウェーの南側から接近する「ヒューズ」と「モリソン」を日本軍守備隊は発見する。

 「敵艦発見!巡洋艦らしき敵艦!」

 緊張からか、見張りはそう誤認した。

 「敵艦隊来襲セリ、巡洋艦ト思ワレル敵艦カラ砲撃ヲ受ケル」

 「ヒューズ」と「モリソン」が砲撃を開始するとミッドウェーの海軍通信隊はそう緊急電を発した。

 間違いが正されないまま事態は進む。

 もしも駆逐艦二隻だけの砲撃だと分かれば、開戦劈頭に駆逐艦「潮」と「漣」が行ったような支援任務としての攻撃だと看破できただろう。

 だが、そうだと分かるまで少し時間がかかる。

 「ヒューズ」と「シムス」の砲撃はミッドウェーの守備隊を南側へ注視させる事に成功した。海兵隊のボート群はリーフ(環礁)の中に侵入する事が出来たのだから。

 海兵隊が目指すのはミッドウェーの主要な島の一つであるイースタン島だ。ここに上陸して飛行場を破壊するのが目的だ。

 作戦にあたり、海兵隊は一八〇人でイースタン島に上陸し、四十二人が退路の確保の為にサンド島とイースタン島の間にあるスピット島へ上陸する事になっていた。

 「敵だ!上陸して来るぞ!」

 だが艦砲射撃で頭を上げられないとはいえ、近づくゴムボートの群を日本軍守備隊は発見する。

 「敵兵が上陸だと!?」

 サンド島にある指揮所の防空壕で大田はイースタン島に敵が上陸したと聞いて驚く。

 「兵力は?」

 「一〇〇ないし二〇〇であると」

 副官が答えると、大田は妙だとな思えた。

 米軍がこちらの戦力を把握し切れていないとはいえ、少ない戦力で攻めて来たと思えた。

 捕虜にした米軍のミッドウェー守備隊は三〇〇〇人は居たと言うのに。

 「一木大佐から電話です」

 大田の思考を止めるように一木から電話で呼ばれる。

 「敵が上がってきたな」

 一木がこう切り出すと、上陸はして来ないと言った大田は自分を恥じた。

 「ですが、これは奪還をしに来たとは思えない」

 大田は自分が感じた疑問を述べる。

 「現地によれば戦力は多くても二〇〇人、少な過ぎます。またこのサンド島への上陸が無いのが不自然に思える」

 「確かにそれは不自然だ」

 大田の考えに一木は賛同する。

 「つまり、敵は威力偵察に来たのか?」

 一木は米軍の目的をそうだと感じた。

 威力偵察とは実際に交戦してみて、敵の戦力がどの程度なのか図るやり方だ。あまり多くの兵力を投じ事はない。

 「おそらく、そうかと」

 大田は一木の考えに賛同した。

 「敵に弱いと思われるのは不本意だ。イースタン島へこちらから増援を送ろう」

 一木からの提案を大田は快諾した。

 イースタン島は海軍陸戦隊三〇〇人が駐屯しているが、混乱した今の状況では平静な増援を送り、乱れた状況を抑えるのが良いと太田は思えた。

 指揮系統を分けない方が良いだろうと一木支隊はサンド島に全戦力を置いていた。一木は支隊の基幹部隊である歩兵第二十八連隊から第三大隊を送る事に決めた。

 幸いにして、島の交通に使う上陸用舟艇の大発は無事であった。だが、大隊一個を丸ごと運ぶには足りない。

 そこで一個中隊に歩兵砲小隊を付けた先遣隊を送る事を第三大隊長は決めた。

 だが、まずは連絡と進路偵察として一個歩兵小隊を乗せた大発が一艇向かう。その大発はスピット島の近くを航行すると島から射撃を受けた。

 「ここにも敵が!?引き返せ!」

 思わぬ攻撃を受けて大発は撤収する。スピット島の発砲から大発の動きを察知した「ヒューズ」が撤収する大発に追い打ちをかけるが幸いにして大発は戻る事ができた。

 一方のイースタン島では海兵隊が「モリソン」からの艦砲射撃により、防衛線を乱される海軍陸戦隊を突破して飛行場へ侵入していた。

 飛行機が元から配備が進んでいないイースタン島の飛行場を海兵隊は空襲で残る建屋や目についた車輌や物資に手榴弾を投げ、銃撃を浴びせる。

 作戦開始から一時間が過ぎた午後三時の事である。

 海兵隊は目的を果たしたとして、任務終了と撤収開始を無線で「アルゴノート」と「ノーチラス」、「ヒューズ」と「モリソン」に伝える。

 「ヒューズ」と「モリソン」は撤収援護をすべく艦砲射撃を一時止めてイースタン島とスピット島の南へ移動する。

 その隙間を狙うように一木支隊からの増援部隊が大発で出発した

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