第4話 スプルーアンス、ミッドウェーを攻撃する

「敵機!敵機来襲!」

九月十八日のミッドウェーの朝は空襲によって明けた。

機銃や高角砲へ配置に就く将兵は陣地に走り、戦闘に加わらない将兵は防空壕へ潜りこむ。

飛行場では零戦が次々と離陸し、ミッドウェーは迎撃の態勢を整える。

この態勢を整えられるのは日本軍が敵機を発見したからだ。

 敵機を発見したのは夜明け前にミッドウェーを離陸した零式三座水上偵察機だった。ミッドウェーより東方を飛行していたこの零式水偵は正対する編隊を発見した。

 日の出直前の薄明り、その中を魚群の如く進む編隊を見た零式水偵の搭乗員は敵機であると判断した。ミッドウェーより東から編隊で来る日本機は無い。

 「ミッドウェーヨリ東方ニテ敵機編隊ガ西ヘ進行中ナリ」

 すぐに零式水偵は無電でミッドウェーに敵が近くに居ると告げる。

 「あの敵編隊が発艦した敵空母を探すぞ」

 零式水偵は無電を打ち終えると、より東へ向けて進む。

 敵編隊を飛ばした敵空母を探す。見つければ連合艦隊なり友軍が攻撃してくれるかもしれない。

 「居た、敵艦隊だ」

 「空母がある。ここから出撃ししたんだな」

 雲に隠れながら零式水偵は敵艦隊を発見した。一隻の空母を中心に置いた輪陣形で西へ進む艦隊だ。

 「すぐに報せるんだ!」

 既に陽は昇り明るくなっている。雲に隠れるように飛行していても見つかるだろう。零式水偵の搭乗員は周囲に視線を広く向ける。

 「八時方向!敵機!」

 零式水偵を目指して二機のF4Fヘルキャットが降下して来た。


 「見つかったか」

 F4Fにより撃墜された零式水偵の黒煙をスプルーアンスは空母「ホーネット」の艦橋から眺めていた。

 「ミッドウェーへの攻撃は一度に留めて針路を変えますか?」

 参謀がスプルーアンスに尋ねる。スプルーアンスは「予定どおり二度行う」と答える。

 スプルーアンスはニミッツの命令を受けて空母機動部隊によるミッドウェー攻撃を実行していた。

 「ミッドウェー攻撃の機会を与えよう」

 ミニッツはスプルーアンスに命令を伝える際にそう述べた。スプルーアンスは自分の懸念を汲んでと思い「ありがとうございます」と答えた。

 「この作戦はミッドウェーへの威力偵察の意味もあるが、大いに破壊してくれても構わない」

 「分かりました。ですが、敵艦隊と遭遇した場合は?」

 「作戦に参加する空母は<ホーネット>だけだ。交戦は避けてくれ」

 「分かりました」

 こうしてスプルーアンスは「ホーネット」に乗り出撃していた。

 「索敵機から情報はあるか?」

 「ありません」

 敵艦隊との交戦を避けるように言われているとはいえ、周囲に居ないか探る。奇襲を受けて「ホーネット」を失う訳にはいかないからだ。

 「時間だな。第二次攻撃隊を出撃させよ」

 スプルーアンスはただミッドウェーの日本軍を破壊する事に専念する。


 時刻は現地時間の正午

 ミッドウェー島は二度の空襲を受けて黒煙を上げていた。

 「やられたな」

 防空壕から外に出た大田実大佐は周囲を見ながら思わず呟く。

 「被害を調べろ。特に物資に被害が無いかをだ」

 大田は自分の周囲に居る士官や下士官に命じた。特に物資が空襲によって大きく減っていないか気になるところだ。

 ミッドウェーは隣接する友軍の拠点が無い孤島だ。容易に補給が出来ない為に食料や燃料に水が無くなるのは死活問題である。

 「飛行場は滑走路が三ヶ所穴が開きました。格納庫もどれもが破壊、航空隊指揮所も全壊」

 航空隊の副長をしている大尉が大田へ報告に現れた。

 「飛行機は?」

 「迎撃に出た零戦は降りられず、全機が不時着して全損しました。残っているのは哨戒と索敵に出ている水上偵察機三機だけです」

 「そうか、分かった」

 大田は航空戦力をほぼ失ったと理解した。

 被害を調べに行かせた者達が戻り報告が上がる。燃料タンクの半数が破壊されたものの食料や水に弾薬に被害は及んでいないと言う。

 「敵は飛行場と燃料タンクを主に攻撃していたか。おかげで物資の備蓄は無事だったのだな」

 大田は被害をそう判断する。

 「大田少将、敵が上陸して来ますか?」

 陸軍の一木大佐が大田の所へ来た。

 「索敵機から敵の空母を発見したと報告はありましたが、上陸部隊を乗せているような輸送船団は発見してはおりません」

 「まだ発見していないと言う事か?」

 「かもしれません。私見ですが、敵は空襲によってこの島の施設を破壊するのが目的だと思われます」

 大田は一木が自ら得られる情報が少ない為に、こうして自ら来ている事を分かっていた。だから私見も述べている。

 「そうですか。それなら損害の復旧に集中できますな」

 一木はそう言うと自らの指揮所へ引き揚げて行く。

 (もしも敵が上陸したら何日持つだろうか・・・)

 大田は敵の上陸が気にかかる一木と話した後でそう考える。

 ミッドウェーを守る陸兵は一木大佐の一木支隊が二〇〇〇人と海軍陸戦隊の一〇〇〇人がある。

 少なくない戦力だが、さして広くも無く起伏も無い島で援軍到来まで持ち堪えられるか疑問がある。

 (本格的に守るなら、地下に籠らねばならんな)

 平地な島では艦砲と航空機の攻撃をまともに受けてしまう。そんな島で少しでも長く防衛をするのだったら地下に潜るしかないと大田は考える。

 だが今は空襲の被害から復旧するのが先だと大田は思い直す。


 「第二次攻撃隊の収容が終わりました」

 現地時間の午後一時、スプルーアンスは出撃させた攻撃隊が全て戻ったと言う報告を聞いた。

 損害は二機が撃墜され、五機が敵弾を受けた損傷で修理が必要と言う軽微なものだった。

 「参謀、<アルゴノート>へ作戦開始を伝えよ」

 スプルーアンスはある部隊へ命令を下す。スプルーアンスによるミッドウェー攻撃は次の段階へ進むのである。

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