またね。
あの日から目まぐるしいほどの日常が襲ってきた。私は冬子の葬式にも参列して真っ白い冬子の顔をまじまじと見た。そして手を握った時、冷たくて現実を改めて実感した。でも私は泣かなかった。もう現実からは逃げない。そう決めていたのだ。それに、冬子は私に「ずっと一緒」だと言ってくれた。その言葉を信じたかった。
数年後
太陽の光が水田に反射して美しく輝いている。そして鏡のように青空を鮮やかに映し出す。
今年も、この時期がやってきた。
気が付けば早いもので大学一年生になった私。レポートやら講義やらに日々追われながらも、毎年この時期になると欠かさずあの崖へ足を運んでいる。何年経っても
どれくらい経ったか。いつまで経ってもその時はやってこない。恐る恐る目を開ける。
「……えっ。ちょ……なに、これ。」
思わず困惑の声が出る。私の体は浮いていた。滞空しているというのだろうか。落ちることなくただただ空気の上に立っている。そして温かい風がブワッと吹いたかと思うと、私の体を優しく、ゆっくりと押し上げる。丁寧にエスコートされて崖の上に戻ってきた私の真横に、一枚の烏の羽が落ちてきた。すかさず掴み取る。黒く光沢のある上品な羽だった。まるであの日を思い出させるような、そんな感覚。不思議で仕方のない出来事だが、どうしてもこの現実を疑うことができなかった。それはきっと、数年前の
「冬子……。助けてくれてありがとう。いつも見守ってくれているんだね。」
空を見上げながら呟く。その時、フワッと風が吹き、手に持っていた羽が飛ばされて風とともに舞い上がる。私は瞬時に目で追う。羽の行き着く先には水を張った田んぼがあった。あの時の入口となった場所だ。青空を忠実に映し、キラキラと輝いていた。そこにプカリと羽が浮かぶと、波紋を広げて歪んだ世界をつくり出している。私は水田の側まで素早く駆け寄ると、顔を近づけて浅い水中の世界を覗き見る。風が吹き、水が少し波立った時、
『——。』
何か声が聞こえた気がした。咄嗟に辺りを見渡すが私以外誰もいない。水面にもおたまじゃくしが泳いでいるだけで冬子の姿も見えなかった。気のせい……かな?と首を傾げる。そして小さく笑いながら
「今年も来たよ。じゃあ、またね。」
そう言い残し、去っていく。優しく温かい風がスッと頬を撫でていくのを感じた。
いつまでも歳を取らない少女は、小さくて大きな水中の世界に住んでいる。今日も大好きな友達を見守り、救い、優しい笑顔で送り出す彼女は両親とともに暮らし、とても幸せだった。ただ、友達はもう私自身が分からないのかもしれない。奇跡はそう何度も起こらない。それが悔しい。彼女はそう嘆いた。それでも彼女は友達にそっと寄り添い、明るい笑顔を向けるのだった。
『夏織なら大丈夫。ずっと一緒だよ。』
そう残して。
望みの世界 月影いる @iru-02
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