ギルド登録

「やっと着いたな」


 俺は防壁に備え付けられた大きな門をくぐると言った。

新たな目標である王国騎士への第一歩を踏み出すべく、俺はついに東の街へとたどり着いたのだ。


 ここはとても大きな街で、人の往来も多い。

ちゃんと闇払いが行われているようで景色も鮮明。

何より人々の表情かおが明るい。


 だが街にたどり着いて困った事が、俺のサポートをしてくれるというエーファさんの事を名前しか知らないという事だ。

名前の響き的に女性だと思うけど、どこにいるのかがまるで見当がつかない。


 仕方ないので俺はひとまずギルドを目指す事にした。

ギルドの支部自体はわりと小さい町にもあるが、ギルド登録のできる場所は意外と限られてる。

この街には大きなギルドの支部があってそこはギルド登録ができたはずだ。



「俺のサポートをしてくれるって話だったし、ギルドの職員かそれにたずさわる人なのかも知れない」



 それに会えなくても先にギルド登録を済ませておけば、話が先に進みやすいはず。


 そして俺は街の中心部にあるギルド支部へとやってきた。

道中エーファさんの事を街の人にいてみたけど収穫はなし。

ここにもいなかったらどうしようか。



「ご用件は何でしょうか」



 ギルドの複数あるカウンターの1つに向かうと、職員のお姉さんがカウンター越しに声をかけてきた。



「ギルド登録をしたいのですが」


「かしこまりました。推薦状はお持ちですか?」


「いえ、持ってないです」


「推薦状がない場合、ギルド登録には2つの方法がございます。1つは試験によって適正を見る方法。試験の費用が登録料とは別途にかかるのと、試験の準備にお時間をいただきますが、その試験結果に応じたランクからのスタートとなります。実力に自信がある方にオススメです」


「もう1つは」


「2つ目の方法が書類のみによる登録。手続きもすぐ済みますし、ライセンスの発行が終わればすぐにでも依頼を受けていただけます。ただし依頼の受注にはランクによる制限があります。大口の依頼を受けたい場合、簡単な依頼をこなしてランクをあげてからでないと受けらられません」


「なるほど」


「どちらになさいますか?」


「1つ目の方でお願いします」



 迷わず答えた。

王国騎士になるためにはギルドで名を挙げる必要がある。

そのためには難しい依頼の達成を1つでも多く積み重ねなければならない。

今もリーンハルトのせいで闇払いの派遣が断たれた多くの町や村の人が苦しんでる。

簡単な依頼に時間を費やしている時間は俺にはないはずだ。



「かしこまりました。それではこちらの用紙に記入を。ご希望であれば代筆も行いますが」


「いえ、大丈夫です」



 俺は用紙に必要な事項を書き込んでいく。

名前はリヒト。

年齢17。

希望する適正テストは……戦闘。

属性適正は────


 そこで俺の手が止まった。

さすがに闇とは書き込めないよな。

鑑定の儀を受けていない事にするか。


 俺は『不明』と書き込もうと。

だが属性適正の欄で手が止まった俺に職員のお姉さんが言う。



「もし鑑定の儀を受けていないなら、適正テストの際に儀式を受ける事になりますのでご安心ください」


「え」



 それはまずい。

危なかった。

俺は書きかけていた文字を塗り潰し、『無し』と書き込む。



「無し、ですか?」



 職員のお姉さんが首をかしげた。



「俺は無適正者なんです」


「本当ですか? 無適正はとても珍しいので、もしかしたら鑑定の儀に不備があったのかも知れません。せっかくの機会ですのでテストの際にもう一度受けてみませんか?」



 営業スマイルを絶やさなかったお姉さんの顔色が変わった。

心配そうな目で俺を見てくる。

まぁ無適正だなんて聞いたら仕方ないか。

実際は無適正どころか光の適正よりも珍しい闇の適正持ちなんだけど。



「いえ、過去に何度か試してますがその度に無適正だったので変わらないと思います」


「そうですか……」


 お姉さんはしょんぼりしてしまった。

少し心苦しい。

だがお姉さんもプロだ。

すぐに切り替える。


 お姉さんは俺が書き終えた用紙に目を通すとうなずいた。



「はい。それでは試験の手配をさせていただきます。日程が決まり次第あちらの掲示板にお知らせが張り出されますので、こまめに確認をお願いします。おそらく今日か明日中には張り出されると思います」



 俺はお姉さんが手で示した大きな掲示板を確認する。



「分かりました。ありがとうございます」


「テスト、頑張ってくださいね」



 お姉さんは両手で拳を作ると胸の前でぐっと構えた。


 聖騎士団になるために町を出てから、応援なんてされたことがなかった。

お姉さんが応援してくれるのがとても嬉しい。



「分からない事、困った事があったらなんでもいてください! 可能な限り力になります」


 お姉さんは、ふんふんと鼻息荒く言った。

先ほど作った握り拳を上下に振る。



「訊きたい事と言えば、人を捜してるんですけど、エーファという名前の方に心当たりはありませんか?」



「エーファ、さん? ごめんなさい。私は……知らないですぅ……」



 ああ、お姉さんがまたしょんぼりしてしまった。


 俺はお姉さんを励ますとギルド支部を出た。

ギルドの登録料とテストの料金は払い終えてる。


 ギルド登録はあとはテストを受けるだけ。

でもエーファさんの手がかりがない。



「困ったなぁ」



 小さく呟く俺。

その時、曲がり角から小さな影が飛び出してきた。

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